はぁ...嫌いじゃないかな
その後、フレルさんのご飯を食べ終わった俺は予定通りギルドへと向かっていた。
(なんかフレルさんと別れてギルドに向かうって.....少しだけデジャブを感じるな)
あの後にギルドの入り口でサウロとフィアに出会い、ユーリさんにギルドカードを作ってもらって......それがなんだかとても懐かしく感じてしまう。
実際はそこまで時間が経っているわけではないのだが、ここ最近の自分の日常が異常なまでの密度を誇っていてそう感じざるを得なかった。
そんなことを考えながらしばらく歩いているとやがて懐かしの冒険者ギルドが見えてくる。
そこは相も変わらずとてつもない活気により賑わっていた。
(そういえば結局行けなかったけどクレナディアの冒険者ギルドにも行ってみたかったんだよなぁ。あそこには様々な種族の冒険者もいたみたいだし絶対に楽しかっただろうに......)
やがてギルドの前にたどり着くと、早速怒鳴り声の様なモノが聞こえてきた。
どうやら先程活気だと感じていたモノは、ギルドの入り口前で行われていた喧嘩による喧騒だった様だ。
あの森でも悍ましい魔物同士の争いは絶えなかった。そんなモノと比べてしまうと冒険者同士の喧嘩など最早可愛くすら思えてしまうから不思議だ。
当事者達の顔を見てみる。片方はガラの悪い如何にもチンピラですって感じの面立ち、そしてそんな悪漢に相対していたのは俺のよく知る顔だった。
「おーい、なにしてんだよサニス」
俺がそう言うと喧嘩していた冒険者ーーーサニスが勢いよくこちらへと振り返る。
「ーーっんだよ!......ってレイアじゃねぇか!久しぶりだなぁおい!」
「久しぶり。お前は相変わらず血の気が多いみたいだな」
「ちげーよ!こいつらが先に絡んできたんだよ!」
そりゃそうだろうと内心では思っていたが、サニスにそう言われ改めて見てみると悪人面の数が先程よりも増えている事に気付いた。
「なんだいにーちゃんそいつの仲間か?だったらにいちゃんにも痛い目見て貰わないとならねーかもなぁ」
明らかな雑魚臭を醸し出しながらこちらへと睨みを利かせてきている男ーーーあまりにもテンプレ過ぎるチンピラだからか、その顔は何故だか初めて見たような気がしなかった。
普通にぶん殴って黙らせようかとも思ったが、一応事情を聴いておかねば自分が加害者側になりかねない。
十中八九確信を持ってはいるが事情聴取だけはしておくことに。
「ーーーで、どうして揉めてんの?」
「どうしても何も俺たちがクエスト終わらせて帰ってきたらこいつらが絡んできたんだよ!リーナをよこせ。みたいな感じでよ!」
(ようはちょっと強引なナンパってことなのか...?)
どうせくだらない事だろうとは思っていたが思ったよりも遥かにくだらなかった内容にガックシくる。
「俺たち『悪殺』がわざわざPTに入れてやるって言ってんだ。女の為にも黙って渡せよ。な?てめぇらみたいな雑魚と一緒だといつ死んじまうかもわかんねぇしな!」
「ぎゃはははは」
一応はナンパ寄りの勧誘だった様だ。
(悪殺って......まさか...?)
その時ようやく思い出した。こいつらは初期の俺にGランクの劣等感とトラウマを植え付けてくれたあのPTだ。
今となってはあの時に逆に断ってくれて助かったという思いしか無いが、それでも理不尽で無下な扱いをされた事には違いない。
そして今尚、自身の友達に絡んでいるという現状に心なしか胸の奥の方がざわついていくのを感じた。
「そもそもこいつらってそんなに強いの?」
そう尋ねると、サニスがつまらなそうな顔をして教えてくれる。
「俺たちもDランクまで上がったんだけどよぉ...あいつらは昨日Cに上がったみたいだぜ」
あいつらのランクなんて興味無い情報よりも、サニス達のランクが二つも上がっていた事に驚き、喜びが湧き上がってきた。
俺みたいな半チートみたいな人間が強くなる事と、サニス達の様な現地人が強くなるは全く似て非なるモノだとわかる。
それなのにこんな短期間でランクを二つも上げた彼等がどれほどの努力を重ねたかは想像するに容易い。
そんな彼等が自分なんかの事を仲間だなんだと言ってくれている事が改めて嬉しく誇らしく感じた。
「おー!すごいじゃんか!もう二つもランク上がってんのかよ!」
「そうなんだよ!早くお前に追い付きてぇからよ、みんな燃えてんだよ」
そんなことを言われると余計に皆に会いたくなってしまう。
「二人はどこに?」
「アスロとリーナは受付の方に行ってるぜ」
「おー、じゃあ俺らも早く行こうぜ」
サニスからの嬉しい言葉を聞いて頭の中が彼らに会いたいでいっぱいになってしまった。
なぜこんなところで立ち話をしていたのかも本気で忘れてしまっていた。
「おいてめぇ!なに勝手に入ってきて勝手に仕切ってんだ!?あぁ!?誰が行っていいなんて言ったよ」
(ーーーー鬱陶しいな...)
久しぶりに会えた友人との時間をこんなわけのわからない奴等に邪魔されるのはただただ不快でしか無かった。
この世界に来て初めて出来た同年代の友人達、レスティアに帰ってきてすぐに彼等に会えた事で上がっていたテンションが急速に下がっていくのを感じる。
再会に水を差された様な気分の上、こんな雑魚に絡まれていること自体シンプルに不快だった。
無視されていると思ったのか、チンピラは俺の肩を掴み強引に自身の方へと振り向かせる。
そしてそのままの流れで俺の胸倉を掴もうとしたーーーその瞬間、俺は後ろにいるサニスの方には行かない様に奴等にだけ向け殺気を放った。
今まで出会ったことの無いような圧倒的強者からの威圧。
ここまで濃密に死を予感させる殺気をCランク程度のクエストで遭遇する魔物程度に出せるわけも無い。そんな殺気をモロに受けた悪殺の一同は怯えた表情を浮かべ、俺から目を逸らす事すら出来ぬままへたり込んだ。
「そもそも行っちゃダメ。なんて誰にも言われてないけど?まさかーーーお前らが、俺を、止めるの?」
一歩ずつ近付いていく俺からまともに逃げることも出来ない悪殺。やがて一人、また一人と意識を手放していく。
やがて話す相手もいなくなったので俺はサニスの方へと振り返る。
「急に倒れたけどなんか悪いモノでも食ったんかね?まぁよくわかんないけどもう相手もいないし中入ろうぜ」
「ーーーあ、あぁ....」
まだ何が何だかわかっていない様子のサニスを軽く引っ張りギルドの中へと入ると、フロントの方に懐かしい顔を見つけた。
「おいサニス、なんか慌ただしいけど早く事情を説明した方がいいんじゃないのか?」
あの慌て様から見て恐らくあの二人はギルド職員を呼びに行ったのだろう。
だとするなら早く教えてあげないと彼等の骨折り損になってしまう。
「あ、あぁ...おーい!もう終わったから大丈夫だー!」
サニスがそう大声で叫ぶと、フロントの方で受付嬢と話していた二人の男女がこちらへと駆け寄ってくる。
「ほんとに?もう大丈夫なの?」
「手は出してないだろうねサニス...」
「んな事しねぇよ!それに助っ人が来てくれたしな!」
そう言われてようやくこちらを向く二人、まさかサニスの隣にいたのが俺だとは思ってもいないのだろう。
「あ、レイアさん!!ーーーー...え?」
「レイアじゃないか!久しぶりだね!」
二人は素直に嬉しそうな反応を見せてくれる。何故かそんな反応を見ただけでこちらまで嬉しくなってきてしまうから不思議だ。
彼らとのこの優しい空間が、この世界にも俺はいていいんだ。そう思わせてくれた。
だがそんな優しい和やかな空間には似合わない顔をしている者が一人。変化に目敏い女性という生き物は、時に自身が知りたくない事実にまで意識を運んで行ってしまう。
「久しぶりだなー。ついさっき旅から帰ってきたとこなんだよ」
「レイアさん...それ...どうしたんですか...?」
「それって...?ーーーあっ!」
「それってなんの話だよ?リーナ」
アスロはリーナに言われて気付いたみたいだがサニスは未だに気付いていない。一番最初に会った筈なのに一番最後まで気付けない。
そんな彼の鈍感さを俺は嫌いではなかった。
「ちょっと色々なー。痛みとかは無いから気にしないでいいよ」
そうは言ったものの二人は沈痛な表情を崩さない。俺の左腕部分を心配そうに見つめている。
(まぁこいつらいい奴だからなぁ...。そりゃ気にするななんて言われても無理だよな)
フレルおばさんの時と同じで申し訳ない気持ちが湧いてくる。
申し訳ないし気まずいけれども、不思議と何故だか嬉しさの様な感情も感じていた。
相手に心配かけて何を呑気に、とも思わんでもないが自身のことをこんなにも案じてくれる存在がいることに喜びを感じるのは人として当然の事だと思う。
「痛み...?ーーーっておい!お前...腕どうしたんだよ!」
気付くのも段違いに遅かったが、リアクションも段違いに大きかった。
どうやらこいつの辞書からはデリカシーという言葉のページが綺麗に抜け落ちているみたいだ。
(まぁ俺は別に気にしないからいいんだけどな)
むしろこういう所が彼の良さだとも思えた。
「これはーーー名誉の負傷ってやつだよサニス。お前ならわかってくれるだろ?」
そう言うとサニスは下を向き、やがてプルプルと震えだした。
流石にこんな雑なかわし方はダメだったか?そう思った瞬間
「か、かっけぇえええ!!なんだよそれお前!お前どんな旅してたんだよ詳しく聞かせろよ!」
サニスは俺が思っていたよりも更にピュアだった様だ。
ーーーでもまぁ、嫌いじゃないかな
やっぱりこいつらはいい奴らだ。最初のPTがこいつらで本当によかった




