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世捨て魔王  作者: R氏
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はぁ...眩しい



 (―――ん……なんだ…?)


 ぼんやりする意識の中で優しい匂いがした。それに温かくて柔らかい感触を後頭部に感じる。


 (―――俺は…寝てたのか…?)


 ゆっくりと覚醒していく意識の中、薄っすらと目を開けてみるが長い間目を閉じていたからか視界が霞んでいてよく見えない。

 そんな朧げな意識の中聞こえてくる優し気な声色。


「おはよう。よく眠れたかな?」


 (―――だれ…だ?)


 霞んだ視界の中、ぼんやりとしか見えないが紅い髪をした女性が俺の顔を覗き込んでいる様だった。

 中々定まらない思考の中で俺がまず最初に感じた事は


 (―――綺麗な髪だな……)


 そんなくだらない事だった。それにしてもどこか既視感を感じた。ルビーの様な紅い髪、つい最近同じ様な髪色を見た様な気がする。

 あまりにも衝撃的だったあの存在、到底忘れる事など出来ない。


 (……そうだ、たしかあの魔王がこんな髪色だった)


 俺は彼女に殺されたのだろうか。だとすればここはあの世だったりするのか。そしてあの世にいる女性―――それは女神か。

 そんなくだらない妄想に耽ってしまうぐらいに俺の心身は疲弊していた。


「もしもーし?大丈夫?」


 (―――まだ体がだるいんだよ…。もう少し寝かせてくれ)


「あらら…寝ぼけてるのかな。クレナードちゃんのお膝でのお目覚めなんて中々経験出来ないのになー」


 ―――クレナード…ちゃん。それはどことなく聞いた事のある響き。

 

 (クレナード…クレナード……魔王――クレナード?お膝?)


 様々なピースが集まっていき、やがてパズルは完成した。


 ――ッバ!


「わっ!ビックリしたー。いきなりどうしたの?」


「わっ!じゃねぇ!ビックリしたのはこっちだボケ!」


 突然飛び起きた俺に、心臓の辺りを抑えながら驚いた顔を向けてくる魔王。


 (なにが女神様だ!バカか俺は!真逆も真逆、正反対の存在のお膝だったのかよ!

 どういう事だ?俺はまだ生きてるって事か?)


 自分が何故ご存命なのか理解が追い付かない。とにかく体を調べてみるが手足は問題なく動き、視界も無事回復してきている、若干の身体のダルさこそあったがそれ以外には特に異常は見受けられない。


「ひどいなー!こんな美人の膝枕でぐっすり眠らせてあげたのにその反応!」


「――なんで…俺は生きてる?いや…もう既に俺に何かしたのか?」


「何かって?」


「いや、自らの眷属にした。とか…逆らえない呪い。だとか…」


「なんで?」


「……いや知らんけど」


 そう言うと魔王は心底不思議そうに首を傾げた。

 

 (え、俺なんかおかしい事言った?普通なんかするよね?――――だって彼女魔王ですし)


「別にそんな事する必要なくない?そもそも戦う前から言ってたじゃない、別にキミに危害を与えたりするつもりはないって」


 そう言われ俺は魔王との様々な会話を回想する。確かに今思えば魔王の意向は最初から一貫していた様に思う。

 思えば先程の戦闘だって実際にふっかけたのは俺の方からだった。 


「どうしてお前が俺に対して敵意が無いのかわからないが――俺はいつか……絶対にお前を殺すぞ?」


「元の世界に帰りたいから?」


「……そうだ」


 すると魔王は何か考え込む様な仕草を見せた。


「――――んー…。ぶっちゃけなんだけどさ…。私を殺しても関係ないと思うんだよねー……」


「……は?」


 ――――時が止まる


「私はキミが異世界から来てたって事もさっき知ったぐらいだし、キミの召喚?てのに私が関与してるとはどうしても思えないんだよね」


 (どういう事だ?こいつが嘘を言っている…?

  いや嘘をつく意味がない。そんな嘘をついて保身しなくともこいつなら俺を殺せばそれで終わる話)


「……もしそれが本当だとして……じゃあどうして戦う前にそれを言わなかった?」


「キミとちょっと戦ってみたかっただけ!退屈してるって言ったでしょ?

 ――――あ、でも勿論殺す気とかは無かったよ?」


 思っていた以上のくだらない理由に言葉が出ない。


 (――なんだそれ…)


 いやこの際そんなのはどうでもいいのだ。なら魔王を倒せば帰れるというのは嘘だったって事なのか。

 それでは自分は一体何の為に強くなろうとしてたのか。


 (この失った腕は?意味なかった?意味無く片腕を失っただけ?……騙されていただけ?)


 目の前の世界が廻り出す。突如として頭の中に入ってきた大きすぎる衝撃に頭のキャパシティが追い付いていない。


「――なん…だよそれ…」


「あ!でも待って!魔王って私以外にもいるよ?アザレアの森ってとこに!もしかしたらそっちの魔王の事だったんじゃない!?」


 絶望と喪失感の入り混じった様なこちらの表情を見て慌てた様にそう言う魔王。

 そして、その魔王の言葉を聞き僅かながら冷静に戻れたのか。先程まで廻りに廻っていた視点が一応の落ち着きを見せた様な気がした。


「アザレアの森…――レスティアの近くの森だったか…?」


「そうそう!多分そっちの魔王の事だよ!」


 言われてみれば確かにその可能性は低くないのかもしれない。そもそもここからレスティアまでは結構な距離がある。

 エドは魔物が攻め込んできてなんたらかんたらと言っていたし、ここの魔物が帝国では無くわざわざ遠いレスティアまで行くとも思えない。


「アザレアの森か……うん、たしかにその可能性は低くないかもしれない」


「うんうん!」


 (……危うく心が折れるところだった…)


 そう落ち着いた所で俺は、改めて目の前でてんやわんやしている女の子の方へと目を向けた。

 何故この女性はここまで焦っているのだろうか。何かやましい事でもあるのか、それともただ――――落ち込んでいる様子の俺を見て励まそうとしてくれたとでも言うのだろうか。


「まぁ…、まだお前の言う事を全て鵜呑みにするわけにはいかないけど……とりあえず悪かった。勝手な早とちりでこんな事になって」


「いいよ別に!特に私に被害無いし!」


 (―――ぐぬぬ…確かにこいつは無傷。ちょっとむかつく)


「まぁとにかく元気出しなよ!あの紛い物殺したらきっと元の世界に戻れるよ!」


「紛い物?」


「あーアザレアの森にいる魔王って呼ばれてるヤツの事!そいつ自体は全然強くもなんとも無いのに周りの魔物の数だけやたらと多くてね…。それにどこから現れたとかも全然わからないから私達はあいつの事全然認めてないの」


 衝撃の事実だった。魔王なんて呼ばれている存在の中にもランクというモノがあるのだろうか。

 魔王なんて呼ばれる存在は無条件に規格外に強いモノだと思っていた俺は驚きを禁じ得ない。


「アザレアの魔王強くないのか……。もしかして今の俺でも勝てそう?」


「全然勝てると思うよ。まぁでも森にいる魔物の数は半端ないからそこはちょっと大変かも知れないけどね」


 なんと魔王からのお墨付きまで頂いてしまった。同じ魔族でも親交などは全く無いみたいで、むしろ殺す事を応援している様にも見えた。


「まじか…。――じゃあさっさと殺して元の世界に帰らせて頂きますかー」


 そう言い踵を返そうとする俺の前に、絶世の美少女が立ち塞がる。


「帰っちゃうの?暇だからちょっとだけお話して行かない?」


「お話って……別に話し相手ぐらいいくらでもいるだろ…?」


「弱い奴等と話しても全然楽しくないんだもん。みんな私に気を使ってばっかだし…。しかもキミとだったら本気で戦えるから楽しいの!」


「いや俺は楽しくないから…。俺ぐらいの強さの奴なんて魔族にならいくらでもいるだろ?」


 今俺の中にある魔族のイメージは二人だけ。だが俺はそのどちらからも規格外の強さを感じていた。

 最初に倒した方の魔族だってたまたまスキルの相性がよかったから勝てただけで、もし奴のスキルを奪う事が出来なかったら負けていたのは間違いなく俺の方だっただろう。


「え、全然いないよ?多分キミが自分で思ってるより全然強いよキミは。それにまだ成長途中みたいだしね。……キミだったらいずれ私と対等な関係にも…」


 なんか最後の方はごにょごにょしていて聞こえなかったが彼女の発言は中々に衝撃的なモノだった。


 (え、俺ってそんなに強くなってんの?つい先月ぐらいに帝国の連中にボコボコにされたばっかなのに?)


 ―――いや、もしかしたら嘘をついて俺をおちょくっているのかもしれない。そんな疑念が一瞬脳裏をよぎったが、そんなモノはすぐに霧散して消え去った。


 なに一つとして根拠など無かったが、目の前の彼女はそんな下劣な者ではない気がした。

 先程の慌て様だって恐らく演技ではなかった。落ち込んでいた俺の姿を見て本当に心配してくれていたのだと、何故か思えた。

 この子は敵じゃない。そう認識し直し改めて彼女の事を見てみる。


 (―――なんなんだこの美少女はっ…!。初対面の時の威圧感や恐怖はもう微塵も感じなくなっていた)


 ただでさえこんなにも美しいのにその上俺の事を心配してくれる数少ない女性。

 

 (いやヤバイ……なんか知らんが顔が熱い。もしかして惚れた?いや待て!彼女は吸血鬼ですよ?しかも魔王!魔王と人間の恋愛?ありえないだろ!

  しかも俺は元の世界に帰るんだろ?だとしたらこの世界で恋人なんか作っても無駄だろ!)


 こちらが心の中でこんな葛藤を繰り広げているとは露知らず、彼女は笑いながらこう言った。


「またなんか考え込んでるでしょー。難しい事はいいからお茶しよ?ね?」




 ――――はぁ…眩しい





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