はぁ...おやすみ
「流石にバレちゃうか、そうよ?ていうか普通だったらこの目を見ただけで気付くんだけどねー。―――そっか、キミは他の世界から来たからそういう事にも疎いって事なのかな?」
「まぁそういう事だな。でも確かに魔王なんてのは別に種族名でもなんでも無いしな、元々の種族名があって当たり前か」
血の腕の猛追をなんとかすれすれで回避しつつ魔王と会話していると、突如上から赤い雨が降ってくる。
(――――これがただの赤いだけの雨だったら良いんだけどな…)
そんな淡い希望を抱くがもちろんそんな訳も無く、雨が当たった場所がたちまちとんでもない量の煙を巻き上げ溶解していく。
「おいおい死ぬって…」
「私を殺すつもりなんでしょ?だったらキミも死ぬ覚悟をしないと」
「生憎こんな世界で死ぬ覚悟なんて持ち合わせてねぇよっ!」
そう言い魔王の頭上に全く同じモノを降らせてみせる。魔王は軽く驚いた顔をしたがすぐに前方に飛び雨を躱す。
だが俺の反撃はまだ終わりじゃない、その先で待ち受けるは血の両腕。
「さぁどうする?見本を見せてくれよ」
「本当に面白いっ…!やっぱり殺したくない――なぁっ!」
魔王が見せてくれた見本、それはあまりにも単純だった。
血の腕を蹴り飛ばす―――すると二つの腕は粉々になって消え去った。
「……出来ねぇよ!」
いくらLVが上がって格段に強くなったとは言え同じ事をするのは無謀な気がした俺は、とりあえず天井近くまで飛んで自分の使える様々な魔法を使い物量作戦で血の腕をかき消した。
「特異属性の魔法でも使えちゃうんだね。うん、やっぱりやばいねその力」
「いや明らかにそれを上回る力を見せつけられたって感じがするんだが?」
「そんな事無いよ。これはただのLVの差だよ」
「ほんとかよ…。失礼ですが貴方のおレベルお聞きしても?」
「そんな歳を聞くような聞き方で聞く事じゃないと思う……まぁ教えないけどっ」
無邪気な笑みであしらわれてしまった。実際本当に聞きたい事だったのだがそう簡単に教えて貰える様な情報では無い事はわかっていた。
「やっぱりキミは殺したくないなー、だからちょっと本気で行かせてもらうね」
「いやおかしくね!?殺したくないならむしろ手加減して欲しいんですけど!」
そういうボケとかツッコミのコメディな空気では無かった様で、明確に魔王の纏う空気が変わる。
全身に赤いオーラを纏い目の色も変わる。透き通るように美しかった白目の部分が徐々に漆黒へと染まっていく。
(――――これはヤバ過ぎる)
全身がヒリつく。本能的に命の危機を感じとった俺は魔王の周りに土の壁、炎の壁、氷の壁、自身に出せる全ての障壁を具現化し、魔王の動きを抑えようと試みる。
だが―――魔王はそれらの壁などまるで存在もしていないかの様に突き抜け、そのままの勢いで俺の目と鼻の先まで肉薄する。
【「身体能力向上LV8」を取得しました】
「――あーあ…。こりゃ勝てねぇわ」
様々な魔法の壁を全て破壊し尽くし俺の目の前まで到達した魔王は、その勢いのまま俺の首根っこを掴み部屋の最端の壁へと叩き付けた。
俺の周りにあった筈の風の刃達もいつの間にか消えている。一瞬何か特殊な方法で消されたのかとも思ったが、そんなモノ到底的外れだったと一瞬で気付かされる。
彼女の脇腹の部分に微かに切れ目の様なモノが見えた。つまり魔法はしっかりと役目を果たし魔王に直撃していたのだ――――だが力の差がありすぎたのか、刃達は魔王の身体に触れたモノから先に霧散して消えて無くなっていただけだった。
「――カハッ…!」
「じゃあ、おやすみなさい?」
その言葉を聞いて俺は――――意識を手放した




