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世捨て魔王  作者: R氏
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はぁ...ようやく



 再度決意を固めた俺は、あれからもしばらくの間ただただ戦闘に明け暮れていた。

 それもその筈――もうすぐ魔王に会えるのだ。

 この世界での最終目的。俺が元の世界に帰る為の必須項目。


 ――――魔王の討伐


 実際に見た魔王は驚くほどに、まるで邪悪な存在には思えない面立ちをしていた。

 だが見てくれに騙されてはいけない。実際に魔王と呼ばれているという事はそれなりの事をしてきたのだろう。


「いや……くだらない茶番はやめるか」


 あいつが本当に悪い奴か、それとも実はいい奴なのか。

 そんな事俺にとっては些細な問題でしか無い。奴を殺さなくては帰れないというなら俺は一ミリの迷いもなく奴を殺せる。


 (今更自分の成そうとしている事に正当性を求めるな情けない)


 一番大切だと思っている存在がこの世界にはいないのだ。ならば今の俺には自分こそが一番大切だと胸を張って言える。


 (まぁ…勝てるかどうかはまた別の話なんですけどね?いやー、先日見た感じだとマジで化物だったからなー。あいつ)


 これまで様々な強者や化け物と対峙してきた俺にして、今回の相手がどれほど強いのか想像も出来なかった。

 それも仕方の無い事、相手は魔王なのだ。紛うこと無き頂点。

 そんな相手の度量を、元々はただの人間だった俺などに計れと言う方が酷だろう。

 

 だがもう迷うのも考えるのもやめた。目の前にそびえ立つ漆黒の城を見上げ、俺は様々な思考を打ち切った。


 少しの間城を見上げ「ついにここまで来たか…」などと感慨に浸っていると、前から何者かが歩いてくる気配がした。


 それは見た感じ美しい女性だった。だがあの長い耳は――――エルフだろうか。


 (いやでも黒いしな…)


 ハッキリとエルフだと言い切れなかったのはそのエルフの肌の色が強く関係していた。

 彼女の肌の色は褐色そのもので己の中のエルフのイメージとはかけ離れていた。そしてその存在は間違っても聖的なイメージなど持てない様な見た目をしていた。


 (だが一つだけわかる事があるとすれば――――強い)


 恐らくはあの魔族よりも。滲み出ているオーラがそんな事実を嫌でもわからせてくれた。


 だが、勝てないか?と問われればそれは否だと言える。

 

 (お前も強いが俺はもっと強い。今からあの化物を倒さなくちゃいけないんだ、お前如きにビビってる場合じゃないんだよこっちも)


 言葉を交わす前から既に両者の間では戦いが始まっていた。


「ようこそクレナード様の居城へ。クレナード様がお待ちですのでどうぞこちらへ」


 散々殺気を撒き散らしながら近付いて来たそいつは、意外にも戦闘をしにきたわけでは無かった様だった。

 だがいざとなればこのエルフも殺さなくてはならないのかも知れない。そう考えると自然と警戒心が増し、自身が徐々に殺気立っていっているのが感じられた。





 ――――――――――――――――――




 後ろを歩く人間に意識を向けながらもリストは目的遂行の為歩き続ける。


 つい先程、クレナード様にあの人間の男を城前まで迎えに行くように私は告げられた。

 クレナード様の隣で共にずっと観察していた為、この人間の強さはよくわかっている。

 そんな人間を相手に背を向けて歩くのには並大抵ではない胆力が必要だが、ことリストにおいてソレは問題では無かった。

 何故なら彼女には長年魔王クレナードの側近を務めているという自負があるし、なによりも自分が人間なんぞに後れを取っているなどとは露程も思っていなかったからだ。

 もし後ろの人間が妙な気を起こしたとしても、自分なら対処出来ると信じているのだ。


 (―――私の威圧にも気圧されませんか。やはりこの人間は異常ですね)


 本当にこのままクレナード様の所へ連れて行ってもよいのだろうか。

 真に主の事を思うのならば、こんな危険因子を主の元へ連れて行くのは断固反対すべきだったのかもしれない。

 だが――――クレナード様は心よりそれを望んでいる。ここしばらくあんなクレナード様は見た事が無かった。

 日々退屈そうにしている主の退屈をどうにかして紛らわせてあげたいという思いもリストにはあった。

 そう考えれば結局、私の中に逆らう選択肢などありはしなかったのかもしれない。


 (だがこの人間の雰囲気はなんだ?どうしてここまで剣呑とした雰囲気を放っているのだろうか)


 私もクレナード様もまだこの人間には何もしていない。むしろ扱いとしては最上級の客人の様な扱いをしている筈なのだ。

 私がこの人間の前に姿を見せる前からもそうだったという事は、私の威圧に怒った。という訳でも無いのだろう。



 ……やはりよくわからないな、人間というのは





 ――――――――――――――――――――




 それから俺と魔族の女はしばらくの間歩き続けた。

 レスティアの王宮もなかなかの豪華絢爛っぷりを誇ってはいたが、ここもまた別の意味で壮観だった。

 城の全てのベースは黒―――所々に飾られている装飾品や骨董品は赤系統の色の物のみ。

 黒と赤、確かにそれだけ聞くと魔王の城らしいとも言えるのだが、俺が感じていたモノはまた少し違った。


 外観とは違い、そこに感じたのは不気味さよりも――――可愛らしさだった。

 その内観は俺が元いた世界で言う"ゴスロリ"というモノと雰囲気が酷似している様に思えた。

 今思い出せば彼女の着ていたドレスも確かそんな感じの雰囲気の物だった気がしてきた。


 (もしかして異常に強い事を除けば本当に普通の女の子と同じなんじゃないのか?更にこれで本当に彼女が友好的だったりしたら……流石に少し心が揺らいでしまいそうだ)


 そんな俺の心情など余所に、先導していた魔族が立ち止まる。


「さぁ着きましたよ。この中でクレナード様がお待ちです――――どうぞ」


「アンタは入らないのか?」


「私が言い付けられているのは貴方をここまでお連れする事だけですので」


 そう言うと彼女はどこかへと歩き去っていってしまった。

 こちらとしては相手の戦力が少しでも分散してくれるのならそれに越した事は無いので特に異議もないのだが。


「……よっし――――行くか」


 自身の身長の二倍はありそうな大仰な扉に手をかける。


 そして扉を開いたそこは――――大きな大きな部屋だった。

 そして、その部屋の最端の大きな窓の前に彼女は立っていた。

 その横顔はあの時と同じでとても美しく――――そしてどこか恐ろしく見えた。



「あら、――いらっしゃい」




 彼女はゆっくりとこちらへ振り向くと、そう言い微笑んだ





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