はぁ...あと少し
静かな月の下ではあるが、激しい太刀音と叫喚の声とが一塊になった戦場の中からひっきりなしにあがって来る。
跋扈するは悪魔の群れ、その中で乱れ髪に血を――更には全身にも返り血を浴び一人の男は斬り乱れる。
もう視認できる物は朱殷色に染まった髪の毛と舞い散る赤い血だけ。人影が交わればたちまちに片方は切り刻まれ息絶える。
――――誰が見てもその光景は地獄そのものだった。
吹き荒れる死、闊歩する死、迫りくる絶対的な死
今でこそ一方的な被害者となっている悪魔達の種族名はアークデーモン。本来ならば彼等一体で街一つを滅ぼす事が出来るとも言われている恐ろしい存在。
だがそんな悪魔達も――――目の前で暴れまわっている本物の悪魔の前では形無しだった。
その悪魔は知らない。
自身が偶然手に入れたスキル「身体能力LV5」それが魔族ですら持っている者がほとんどいないレアスキルだと。
そしてそんなスキルを駆使し、更には全身に異常なまでの魔力を付与し、更にそれを自身の常人では届き得ない異常なステータス値に加算した時の強さがこの世に存在する多くの者達の常識を遥かに逸脱している事を――――悪魔は知らない。
「なんだ?大して強くも無い奴らを殺しまくっているだけなのにやたらとLVが上がるな。」
(いや、あの魔族が俺が思ってるよりも強い存在だったって事か?それを倒した後だからこいつらが弱く感じるのか?)
俺は自分の感覚とLVの上昇値の差分に困惑していた。
シンプルにレベルの上がり方が異常なのだ。俺が知っている物語や、それこそどのゲームでだってそうだった。
レベルは高くなればなるほど上がりづらくなっていく筈なのだ。なのに未だそんな気配はまるで無く、300を超えた今も俺のレベルは停滞する事を知らない。
多少気がかりではあったが思考を無理やりに切り替える。
起きている事象が俺にとってマイナスな事ならば話も変わってくるが、今回起きているのは俺にとってはプラスでしかない現象。だとするならばそんな事は些事なのだ。『強くならなければ死ぬ』というわかりやすい未来が余計鮮明に見えた今、余計な思考にリソースを割いている余裕は無い。
そして――――それからも俺は悪魔達を惨殺しながら進み続けた。
するとやがて、かつては霞んでしか見えない程遠くにあった魔王の城が輪郭まではっきりと見える様になっていた事に気付いた。
「――――ようやく城が近くに見えて来た。本当に近付けば近付く程に禍々しいなあの城は」
魔王を倒そうとする人間がいないのも納得だった。俺だって倒さなくてはならない理由が無ければ絶対に近付こうだなんて思わない。
魔王と出会ったあの時から大した時間も経っていないが、この短期間で俺は相当に強くなれたと思う。
だがそんな今の俺を以て、それでも奴に勝てるかと問われれば自信満々に勝てるなどとは到底言えそうにはなかった。
「――いやー…。恐いねー本当に」
(……あー、俺に勇気をくれー母さん――貴方に会いたいよ。本当に)
だが奴を倒せば会える。勝てる保証なんて何一つとして無い。なんなら負ける確率の方が確実に高い――――けどやるしかない。
(――――絶対に殺す。とんでもない美少女だったし、彼女自体に何ら恨みがあるわけでも無い。
それでも俺が帰る為だったら……俺は殺せる)
俺が知っている物語の中の勇者達だったならここで「他に道は無いのか…?」とか「俺はなんの恨みも無い相手を殺す事なんて出来ない…!」などと言うのだろうか。
――――そんな綺麗ごと正直寒い。
俺の心が汚いのか彼らが偽善者なのか、これは永遠のテーマとなり得るお題だが今は置いておく。
「まぁ、とりあえず行くかぁ。」
城に辿り着く為に俺はラストスパートをかける。
今まで俺は自分の目的の為に全てを殺し糧にしてきた。それは元の世界での倫理観で言うなら異常でしか無い行い。
したくてしてきた訳では無いが、仕方の無い事だと割り切れているし後悔も無い。
だがそれも――――あの魔王を殺して…終わりだ




