魔王城にて
「ほら、やっぱり彼が勝った」
「信じられない…人間が魔族に勝つなんて――しかもあんな圧倒的に…」
私と同じ方向を見ながら愕然としている彼女―――リストはつい先程森で行われていた戦いを見て心底驚いている様子だった。
だが私にはなに1つとして意外な事など無かった。何故ならもし私の推測が当たっているのだとした場合、あの人間の力は魔王であるこの私を以って末恐ろしいと感じるモノがあるからだ。
そこそこ長い付き合いだからこそリストの力はよく知っている。それこそ魔族の中でも彼女に勝てる者など多くは存在しない。
だが正直、リストがあの人間に勝てるかどうかを問われれば私は自信を持ってリストが勝つとは言い切れないかもしれなかった。
何より驚くべきはあの異常なまでの成長速度。あの人間がこの森に入ってからはまだそこまで時間は経っていない。それなのに森に入ったばかりの頃と今の彼は最早別人。
あの成長速度もそろそろ頭打ちとなるのか、それともまだまだ伸び続けていくのか。本当に興味が尽きなかった。
それよりも彼が森の外で何者かに負けた。という話の方が正直今でも信じられない。
――――考えられる可能性としては、当時の彼の戦闘技術が拙過ぎたか。
今でこそ多少まともにはなっているが、水竜と戦っていた頃までの彼の戦い方は素人そのものだった。あれでは例え同じレベルの戦士と戦ったとしても十中八九負けてしまうのも一目瞭然。
(それに森の外って言ったら"あいつ"が関係してそうだなーやっぱり)
本人も帝国と揉めたと言っていたしほぼ間違いないだろう。
「それにしてもあの魔族はなんだったのでしょうか。本当だったら私が自ら出向いて捕らえ尋問したかったのですが…。」
「ごめんねーどうしても彼の戦いが見たくてさ。まぁどうせあいつんとこの奴でしょ」
「そうでしょうか……。しばらくはお互いに不干渉だったのに突然そんな事をしてくるでしょうか」
リストはとても真剣に色々考え込んでいたが、正直私はどうでもいいと思っていた。
(だってあいつが本気で私と構える気なんて無いのはわかってるしね)
もし私とあいつが本気で争えばこの世界のバランスだってどうなってしまうかわかったもんじゃない。
それなのに得られる物は特に何も無い。無駄にそんなリスクを冒す様な真似はしないだろう。
そんな事よりもう少しであの人間が城に辿り着く。あの人間の対処には未だ悩まされている。思いっきり戦ってみたい様な気もするし壊してしまいたくない気持ちもあった。
「難しいなぁ。――でも……はやく会いたいなぁ」
まるで想い人でも見るかの様な視線でクレナードは男のいる方を見ていた。
彼女は生まれてこの方恋などした事がない。だがそれも当然の事で、巷でどれだけ化け物と呼ばれている魔物や魔族達も彼女と比べてしまえば明らかに脆弱で下等な存在なのだから。
自分より弱い雄に惹かれる雌は少ない。それは人間でも動物でも魔族でも同じ事だった。
(でも……彼は恐らく私すら超え得る可能性を秘めている。今でも十分強いが、私と戦う事で彼はもっともっと強くなるだろう)
そうなったらもう――――私は…




