はぁ...また竜?
20メートルはあるであろう巨躯が縦横無尽に駆け回る。
その姿は美しかった――――赤と白のちょうど中間の様な色、どう表現するのが正しいのかはわからないが俺はソレをただ美しく神秘的だと感じた。
だがそれとは別に顔は完全に竜のソレで、力強く紅い瞳が獲物を捉えて離さない。
「――へぇ。お前生きてるとそんな感じだったのか」
改めて相対してわかる。こいつの漂わせている雰囲気は強者のソレ。
こいつは先程火魔法を数種類使い、更にフェイントなんかも混ぜ俺に軽傷を負わせた。
知性もあり風格もある。やはりこいつはあんな風に乱雑に骸を積み上げられていい様な存在じゃない。
(なるほど……これをあの数同時に対処できる存在か)
「――――やっぱかなり強いな」
アドレナリンが出ているのだろうか、不思議な事に先程までは軽くビビっていた筈なのに今ではむしろ早く会ってみたいという願望まで湧き上がってきていた。
というか先程あれだけ褒め上げておいて申し訳ないのだが、今俺の頭の中を埋めているのはこの目の前の竜種では無かった。
近い内に巡り合うであろう好敵手の事で頭の中は一杯だった。
実際この魔物は強い。もしこいつが森の外に出て街を襲ったりしたならばその被害は尋常では無いだろう。
だが俺は強くなった。単純にレベルだけで言ってもこの森に来た時と比べれば天と地ほどの差がある。
それに加えて多種多様な魔物との戦闘で培われた戦闘技術、慣れ、駆け引き。
だからこそそんな今の俺にとって目の前の竜種は決して強敵とはなり得ないのだ。というか実はそれも考えてみれば当たり前の話なのだ。
(――――明らかにこいつの上位互換である水竜を倒している俺が、目の前の竜種に後れを取る道理がないんだよな)
「ここ最近でお前らの尊厳は何度も踏みにじられてるな。だがしょうがないよな。お前らが俺達より弱いのが悪いんだから。
んじゃあ――――そろそろ幕引きにしようか」
そう言い奴の周りに水の竜巻を5つ程具現化する。突然なんの初動もなく現れた竜巻に明らかに狼狽える標的、そして奴は忌々し気にこちらを睨む。
色もそうだし、何より奴が使っていた魔法はほぼほぼ全てが火属性だった。やはり思った通り水属性が弱点の様だった。
(まぁでも、それはただの足封じであって止めは一瞬だから安心しろよ)
足と剣に魔力付与を施しヤツの前まで跳躍する。自身の周りを囲む水の竜巻に気を取られていた奴が、俺に気付いた時にはもう両者の距離はほぼ0だった。
そして剣を一振り――――そのまま通り去る。
――――ドンッ
後ろから聞こえた奴の頭が地面に落ちる音と同時に魔力付与を解除する。
「んー、思ったよりも俺って強くなってるのかもな」
先程の相手もそうだったが、今までこの森で遭遇した魔物達は初見では本当に全て強そうに見える。
だが実際に戦ってみると大体が無傷で終わっていたり一瞬で終わったりしていた。
「――――これはあれだな。俺の感覚が成長速度に追い付いてないっぽいな」
そこからはただの虐殺だった。今しがた倒した竜種の仲間や6メートル程ある狼の群れ、赤い目をした黒い人型の化物―――恐らくオーガというヤツだろう。それらを殺しまくりレベルはあっという間に299になった。
だがそんなレベルになっても俺の心の中に余裕や慢心の様なモノは一切芽生えていなかった。
それもその筈、つい最近俺は圧倒的強者と出会ったばかりなのだ。どれだけレベルを上げれば奴と同じ土俵に立てるのか今尚想像もつかない。
その後も延々と魔物を殺し続けたがやはりこれ以上レベルが上がる事はなかった。
やはり99の後は毎回なにかしらの壁を超える必要があるみたいだ。
(まぁ恐らく次の壁は奴なんだろうけどな)
「――静かだな。異常に」
少し前から感じていた違和感。それはこの異様なまでの静けさのせいだった様だ。
最後の群れを倒してからもう30分程経つだろうか。それまで倒せど倒せど際限なく襲ってきていた魔物達が一切現れなくなったのはかなり異様な事に思えた。
こんなのはあの水竜のテリトリーに入った時以来だった。
(これは――――そろそろいるって事か…?)
薄々は気付きつつも、更に歩みを続ける。
そうしていく内にすぐにソイツを見つけた。
――――ソイツは自然だった。
自然にそこにいた。自然にそこに佇み自然に食事をしている。
まるで後からその空間に立ち入った俺が無粋かの様に思えてしまうくらいに。
だがそれもその筈なのだ――――ここは魔の森、いくら俺が片腕を失って更に勇者の称号を持っていたとしても所詮は人間。
『魔族』以上にこの森が相応しい存在は他にいないだろう。
これが初魔族か。当たり前だが見た感じだけでは魔王程の威圧感は感じなかった。
(そりゃそうか魔族が全部あれだけ強かったら人間なんて一瞬で滅ぼされてるか)
色々考えながらその光景に見入っていると、ようやくソイツが俺に気付く。
「――――へー、こりゃまた…」




