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世捨て魔王  作者: R氏
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はぁ...楽しかったな



 ――――響き渡る剣戟の音


 その場所は辺りに比べて比較的明るかった。辺りに散りばめられている魔石灯、剣と剣の衝突によって生まれる火花。

 そして――――火花が散る度に闇より浮かび上がる両者の顔。

 そもそもがその片方は顔と言っていいのかも不明瞭な姿をしていた。


 ――――その頭部にあるのはまさしく髑髏


 いや、頭部だけでは無い。鎧の様なモノを纏っている為初見では気付きづらいが、その剣士の姿をよく見てみると生物ならば全ての者にある筈の、全身を覆っている筈の皮も肉も無かった。


 死の象徴とも呼べる存在がそこには立っていた。


「恐い顔してんなー…。お前」


 対するは黒髪の青年――――その顔はいたって標準その物。別段イケメンと言うわけでもなく、かといって不細工かと問われればそれはそれで違う。と大半の者が答えるであろう顔立ち。


 かつてのその者の顔を見て、ある者は言った。


 ――――つまらなそうな顔。生きてて楽しい?


 またある者が言った。


 ――――覇気が無い


 口を揃えて皆が言った。


 ――――なにを考えているのかわからない



 そもそもが優秀な血筋だった為か、その男も昔は『天才』というモノだった。

 何をしても他の者より上手く出来てしまう。だが、だからこそ男は何に対しても本気になる事が出来なかった。

 そして、結局最後は本気でその道を歩んでいる者の域へは及べない。

 不得意な事も無かったが人に誇れる様な事もまた、何も無かった。


 そうしていつしか彼は世界をどこか達観した目で見る様になってしまい、毎日を冷めた感情で過ごしていた。

 そんなどこか死んだ様な顔をしていた彼だったが、かつて彼の事をそう評した者達に問いたい。



 ――――今のこの顔を見ても同じ事が言えるのか?と



 男は化物と対峙する。自分の倍はあろうかという化物を見上げるその目には溢れんばかりの闘争心が漲っていた。

 相手はどこからどう見ても化け物。元の世界にいた頃の男ならば一目散に背を向け逃げだしていたに違いない。

 全身から流れる血潮、汗を垂れ流しながら男は更に自身を鼓舞するかの様に雄叫びを上げる。



 ――――今この場にいるのは一匹の雄と一体の剣士。ただそれだけだった



「あー…楽しいなぁ。お前もそう思うだろ?」


 そう問いかけるが相手は人間では無い。その問いに答えられる筈も無く、代わりにとでも言わんばかりに化物はその問いに剣で答える。


 そして再び舞い散る火花


 スケールこそ違うものの、これもまた――――見る者によっては勇者と魔王の戦いに見えるのではないだろうか。


 本来男の得意な戦い方は魔法に重きを置くものだった。

 だがこの場にてそれは無粋、勝つにしても負けるにしてもその決着を着けるのに剣以外はあり得なかった。


 ――――男は己の中でそう決めていた。


 片方の剣は巧みな剣技に加え、己の巨躯を生かした力強い剣士のソレ。

 そしてもう片方の剣は、己の凄まじいまでの身体能力に付け焼き刃の剣術を+αしただけのまさに冒険者のソレ。

 一進一退の攻防を一刻ばかり続け、片方の男は言い放った。


「――――楽しかったけどそろそろ終わらせるか」


 本当に掛け値なく楽しかった。恐らくこれが闘いというモノなのだろう。

 魔物と戦っているつもりなんて端からなかった。目の前にいるのは立派な剣士だ。この闘いは対人戦だったと言っても差し支えないのない程これは――――闘いだった。


 元々これから先魔法だけでは限界があると思っていた、ユージンは帝国には十賢の他にも十剣というのもいると言っていた。


 だからこそ、ここで剣士との闘いを学べたのは大きかった。

 だが時間は無限では無い。得られるモノはもう全て得た、惜しい気もするがこの闘いもそろそろ終わらせなくてはならない。


 奴と戦っている間にちょうど試したい事も出来た――――魔力付与を剣だけでは無く自らの腕と脚にも施す。


 少し距離を取り、目の前の敵を少しの時間だが見つめる。


 「ありがとな。お前のおかげで俺はまた強くなれた」


 今現在進行形で殺し合いをしている相手に向かい感謝なんて馬鹿げていると思うかもしれない。

 だが俺は、本当に奴に感謝をしていた。この世界に来て初めて闘いというモノの楽しさを教えてくれた。

 もし奴が魔物では無く人間だったならば、お互いに切磋琢磨しながら共に成長していけたかもしれない。


 だが惜しむらくも奴は人間では無かった。闘いながら学び、成長していく俺との差は広がる一方だった。


 それがどうしてか俺には酷く悲しく感じられた。

 でもだからこそ―――だからこそこれ以上差が広がらないうちに終わらせたかった。

 足に力を込める。その力の入れ具合により地面がへこんでいくのがわかった。


 ――――そして俺は前方に向け力を開放した。


 奴もまた、これで決着が着く事を悟ったのだろう。間違いなく今までで一番の雄叫びを上げ、俺を迎え撃とうとしていた。


 俺は剣を限界まで振りかぶり奴に向けて振り下ろす。

 相手は横薙ぎに剣ごと俺を切り捨てようとしている。


「――――グゥオオオオオオオアアアアァアアッ!!」

「――――はぁぁあああああああああああああっ!!」



 決着は一瞬――――俺の剣と奴の剣がぶつかった瞬間真っ二つに砕けた奴の剣、その勢いのまま俺の剣は奴の身体を両断した。

 断末魔も何も無く奴の死体が静かに地へと伏せた。


「最後まで武士っぽいな。割と本当にかっこよかったよお前」



 薄く笑みを浮かべた勝者は、そのまま静かに背を向けた




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