はぁ...ひもじい
「とは言ったモノの……流石にキツイんですけど!」
今俺の目の前にいるのは三匹の赤虎。先程の奴の仕返しにでも来たのかあれからすぐに三匹の赤虎が現れた。
そして今回は運の悪い事に頭上には木々が密集しており十分な高さに飛ぶ事が出来無さそうだった為、地上での交戦を強いられていた。
「――だが…。思ってたよりは…イケそうか」
地上で戦い始めてすぐに驚くべき発見があった。
それは身体能力向上スキルの効果だった。まず俺は反射速度と足の速さが以前よりも段違いに上がっている事に気付いた。
先程の遭遇の時は突然の攻撃にこちらも気が動転してしまっていた。
だが今の俺はレベルが上がった事も関係していたのかも知れないが、この三匹の赤虎達の動きにも十分についていけていた。
次に身体の耐久度とシンプルな腕力、一度だけ攻撃を躱し切れず赤虎のタックルをもろに食らってしまったのだが、その際気を失ったり痛みで動けなくなる様な事は無かった
勿論痛みが無いわけでは無いが、その痛みというのもヒールを使えばどうとでもなる程度のダメージだった。
その後こちらの風魔法によって足を切断され、よろめいた赤虎の横っ面を思い切り殴ってみたのだが―――赤虎は双方の体格差を考えるとあり得ないくらいに吹き飛んで行った。
これがスキルの恩恵によるものなのか急上昇したステータスのおかげなのかはわからないが、俺はいつの間にか到底魔法使いとは思えない程の異常な身体能力を手に入れていたのだった。
今までちゃんとした戦いなんて殆どした事がなかった為気付かなかったが――――これならここでも十分やっていけるかもしれない。
風の刃を自身の周りに具現化させ赤虎の方へと走る。当然狙われた赤虎はタイミングを合わせ思い切り爪を振るう。が、その爪が標的へと当たる事は無かった。
何故ならこちらはそもそも肉弾戦などする気が無かったからだ。近付けさえすれば後はどうとでもなる。
赤虎の攻撃を回避した俺はすぐに赤虎の横に回り込み、がら空きのどてっ腹へ風の刃を叩き込む。
(――――いや…叩き込むって表現はおかしいな。貫通して真っ二つになっちゃってるし…)
そんな感じの事を繰り返し赤虎を殲滅し終わった俺は再度ステータスを表示させた。
「ステータス――――LVが…93か」
(うん。順調だな)
勝利の余韻に浸っていた所に、不意に鳴り響く間の抜けた音―――ぎゅるるぅ…
「すっかり忘れてた…。俺お腹が減ってたんだった…」
最早偶然動物を発見する、なんて淡い期待は抱いていない。
(そこら辺の葉っぱでも食べる……か?
いや野菜すら嫌いなのに葉っぱなんて死んでも御免だぞ…)
「――――それなら残るは…、魔物の肉か…」
我ながら植物よりも魔物の肉の方を選ぼうとしているという事実に驚くが、極限の空腹状態において何よりも優先されるべきは動物性タンパク質なのだ。
そもそも動物では無いのだが。そんなテンプレのツッコミをする者もここにはいない
「…え、死ぬとか無いよね?」
極論味が不味いだったり腹を下すだけなら我慢は出来る。
だが本当に食べてはいけないモノだった場合、1発ゲームオーバーなんてことも決してあり得ないことでは無い。
色々と考えに考え抜いた結果、このまま何も食べなくても結局は餓死する事は確定していた為――――俺は意を決する事に。
そうと決まれば後は早かった。まず先程の赤虎の死体を風の刃で捌く、見た目だけでもマシな様にちゃんとステーキみたいにしておいた。
それから手頃な木を集めて燃やし、ひたすらステーキもどきを焼き続ける。
魔物の肉ってだけでもリスキーなのに生なんて以ての外だ。レアだミディアムだと言っていられる状況では無い。だから多少焦げるまで魔物の肉を焼き続けた。
「よし…行くか…」
なんとか見た目は本物のステーキに近付ける事が出来た。だが人間の頭はそこまでシンプルには作られていない。
これは魔物の肉なのだ。という先入観と暫く戦い、ついに俺はありったけの勇気を振り絞り肉にかぶりついた。
そして――――俺は目を見開いた。
なぜなら、見た目こそステーキに似通っていたそれは味もステーキそのものだったからだ。
「え、うまいっ!なんで!?」
その問いには当然誰も答えなかったがその後も俺はひたすらに食べ続けた。
まさかこんな状況でこんなに美味しいモノを食べられるとは夢にも思っていなかった俺は、無我夢中で肉を焼いては食べ、焼いては食べ、を繰り返した。
そしてお腹も膨れ冷静になったところで、当然浮かび上がってくる疑問が一つ
(こんなに美味しいのならどうしてみんなは食べないんだ?魔物の肉が美味しいんだったらこの世界は一生食に困らないと思うけどな)
――――なんて呑気に考えていた俺は気付かない。
魔物肉なんかを美味しいと思えているのはスキル【悪食】のおかげだという事に。
あのホームレスのおじさんが密かに自分の命を助けてくれていたという現実に俺が気付くのはもっとずっと後の事だった。
「今日はいろんな事があり過ぎたなー…。疲れたしもう寝よ…」
言葉通り今日は本当に色々な事が起こり過ぎて俺は心身共に疲労困憊だった。
そこに満腹感も背中を押し、俺は迫りくる眠気に抗う事が出来なかった。
――――だが流石にこんな所で寝れば確実に死ぬ。
次に目を覚ます時には魔物の腹の中。なんて事もこんな場所では十二分にあり得るのだ。
「流石に高い所だったら多少は安全だろ」
そう思い至った俺は土の高台を作りその上で眠ることに。もちろん布団なんてものは無いので土の上にそのまま横になる。
「――――ひもじいよぉ…」
環境としては最悪だった。そこらの旅人や冒険者がしている通常の野営と比べてもこれは間違いなく最低ランクだろう。
少し耳を澄ませば聞こえてくる魔物の雄叫びや断末魔、夜風は身体に若干の肌寒さを与え、土のゴワゴワした嫌な感触が背中を刺激する。
(――――なんで俺がこんな目に…)
この世界から次々と与えられる圧倒的な理不尽の連続に、この世界への恨み言が脳内を反芻して行く。
だがそれでも多大な疲労と心地のよい満腹感により迫りくる睡魔には勝てず、俺は次第に眠りの中へと落ちていった。
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