表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世捨て魔王  作者: R氏
56/160

はぁ...進もう



 ――――響き渡る剣戟の音


 その場所は辺りに比べて比較的明るかった。辺りに散りばめられている魔石灯、剣と剣の衝突によって生まれる火花。


 そして――――火花が散る度に闇より浮かび上がる両者の顔。

 そもそも片方は顔と言っていいのかも不明瞭な姿をしていた。



 ――――その頭部にあるのはまさしく髑髏


 いや、頭部だけでは無い。鎧の様なモノを纏っている為初見では気付きづらいがその剣士の姿をよくよく見てみると、生きとし生ける物ならば全ての者に等しくある筈の全身を覆う皮も肉も無かった。

 死の象徴とも呼べる存在がそこには立っていた。


 そしてもう片方の剣士は世間的に見てごく平均的な顔立ちをしている普通の青年だった。

 一見するとこの世の全てを心底どうでもいいと思っているかの様な生気の無い顔つきをしている。


 ――――だがその瞳をよく見てみると奥の方で仄暗い炎が燻っているのがわかる。


 彼が今何を思い、何の為に戦い、どこに向かおうとしているのか




 ――――彼以外にわかる者はいない








――――――――――――――――――――――――






 ――時は少し遡る




「…なんだ?」


 気合いを入れて森の深部に足を踏み入れたまではいいのだが――――いかんせん敵が出てこない。


 (まさか俺の事を恐れてる?それとも……今尚値踏みをしている…か)


「こちらからはなんにも見えないのにおズルい事で…」


 そんな事を思い気を抜きそうになった瞬間、前方の茂みが揺れた。

 これまで不自然なくらいに静観を保っていた森が、初めて異物との接触を試みた。

 茂みから現れたモノを俺は以前に見た事がある様な気がしていた。以前というのはこの世界では無く俺が生まれ育ったあちらの世界でだが。


「――トラ…なのか?」


 なぜ疑問形なのか。それは目の前に現れたトラの様な生き物が俺の知っているトラと似ている様にも、全く異なっている様にも見えたからだった。

 目算だが全長は3メートル以上はあり、鋭く尖った爪や牙はあちらの世界のトラとは比にならない程の長さを誇っていた。


 ――――そしてなによりも異様だったのはその色


 それはドス黒い血の様な色をしていた。以前の俺がトラという生き物に抱いていたイメージは、恐いけれどそれ以上にかっこいい。というモノだった。

 だが今この瞬間、目の前にいるソレに抱いた感情はまるで違うモノだった。


 (――――禍々しい)


 濃厚な魔の匂いを漂わせるソレは、こちらから一瞬たりとも視線をそらさずに威嚇を続けている。


「なんだかなー…。強そうですねー貴方…」


 まだ足を踏み入れたばかりだというのに出てきたのは圧倒的な強者。そんな苦言が出てしまうのも無理のない事だった。

 今目の前にいる相手はどう考えても強い、最低でもあの黒猪と同等のレベルである事は一目瞭然。


 睨み合いが続く中、先に痺れを切らしたのはトラもどきの方だった。


「グルゥ――ガァアアアア!!」


「――なっ!?…はっや!」


 俺は急いで左側へ跳躍してその鋭い爪撃を寸前でかろうじて回避。標的を外した爪は地面に1メートル程の爪痕を残し、辺り一面に土飛沫を散らした。


「――――おいおい死ぬって…」


 もしあれの直撃を食らえばヒールなんて使う間も無く絶命するであろう事は想像に容易い。

 しかもこちらは今手ぶら、よって近接戦で戦うという選択肢は頭の中から一瞬で消え去った。


「――――閃いた」


 その時俺の頭に一筋の光明が射す。


 (…そうだよ。なにも相手の得意なフィールドで戦う必要なんて無いだろ)


 確かに先程考えた通り自身のスキルアップも必要な事だ、だがそれと同じくらいにレベルアップだって大事なのだ。


 (ならば今は汚い手でもなんでも使おう)


 意を決した俺は即座に飛行魔法を発動し上空へと上がる。


「グルルルゥ…」


 トラもどきはこちらを睨んだまま呻いている。如何に強そうに見えたところで流石に羽も無い魔物に空を飛ぶことは出来ない。


「だったら悪いけどこっからは一方通行で行かせて貰うわ」


 まず自身の周りに20個程の風の刃を具現化させる。

 空へと浮かび自身の周りに無数の風の刃を乱舞されているその姿は、さながら天使か悪魔にしか見えない事だろう。


 こちらが風の刃を具現化させた瞬間、奴が明らかに警戒の色を強めたのがわかった。

 今更ながら相対している生き物がただの獲物では無い事を悟ったのかも知れない。

 だが自身よりも確実に劣っているであろう人間を相手に逃げるという選択肢はヤツの頭の中には無い様で、前傾姿勢を強めこちらを睨み続けていた。


「――――逃げないのか?じゃあまぁ、死んでくれ」


 俺は周りに乱舞させていた風の刃を続けざまに奴へと向かい飛ばしていく。


「――ッフッフ――ッフ――ギャインッ!」


 最初の方こそ持ち前の俊敏さを生かし見事に躱していたトラもどきだったが、流石にこの数全てを躱し切る事は不可能だった様だ。半分程避けた所でついに風の刃に捕まってしまう。

 そして運の悪い事に風の刃は奴の後ろ足を切り裂いた。切断とまでは行かなかったが、中々の深手を負ったトラもどきは流石にこの状況を不利だと感じたのかすぐさま向きを変えこの場からの離脱を図る。


 だがそんな逃げ腰の敵をむざむざ逃がすなどあり得ない。俺はすかさず奴の四方に土の壁を具現化させ奴を完全に閉じ込める。


「ッ!?」


 魔物の声など理解出来る筈も無いのだが奴が動揺しているのは見るに明らかだった。

 奴の周りで唯一空いているのは頭上のみ。俺はそこからスペースにちょうど収まるぐらいのサイズの火球を落とした。



 ――――断末魔は聞こえなかった。


 衝撃が収まった後に壁の中に残っていたのは綺麗な紫色の魔石だけだった。


【LVが上がりました】


 トラもどきの消失を確認しゆっくりと地面へと降り立つ。

 地面に降りてまず辺りを軽く見渡す。そして近くに魔物の姿や目に見える危険が無い事を確認した後、小さな風の刃を具現化させ自らの指の腹を薄く裂く。


「最初はあんなに恐がってたのにな。慣れたくはないもんだな」


 この世界に来て様々な痛みを味わい、更には片腕を失った上に全身大火傷なんて瀕死状態を経験した俺は、なんの躊躇いも無く地面へと血を垂らした。


「ステータス」




 【名 前】 ナガヒサ・レイア


 【年 齢】 18


 【職 業】 勇者?


 【レベル】 85


 【攻撃力】 730


 【魔 力】 920000


 【耐久力】 700


 【素早さ】 900


 【知 力】 999


 【幸 運】 10


 【スキル】 Realization (Exist Magic)


              (Exist Skill)


       悪食


       身体能力向上 LV 3


       魔力回復力向上 LV 5





「今の魔物一体で7LVも上がったのか?」


 一瞬そう疑念が浮かんだが、答えは恐らく簡単な事だった。


 「そうか。真っ当な手段を使わずに勝ったから簡単に思えただけで、本当はかなり強い魔物だったのかもな、こいつ。

 それにしてもまだこんなにも伸びしろがあったんだな俺って」



 ――――もし慢心せずにLV上げをちゃんとしていれば…


 ――――もし雑魚とばっか遊んでないで戦闘技術を磨いていたら…



 ――――腕を失う事も無かったかもしれない。



 何度だって考えてしまう。

 他人からすればまたか。と思うかもしれないが腕を失うって事はそれだけの事なのだ。


「――ッ!」


 腕の事を考えて無意識に歯を食いしばる。


「いや――やめよう。所詮は過ぎた事だ…」


 そう己に言い聞かす。そうだ、今するべきなのは後悔じゃない。片腕でも誰にも負けないぐらい強くなればいいのだ。


 (そして母さんには全力で謝ろう。

  しっかり謝って、俺は大丈夫だから!って伝えれば多分母さんも許してくれる筈!)

「よし…!もっとだ…もっと奥に行こう!」


 ――――戦える


 俺はこの森の魔物とも十分に戦って行ける。それがわかっただけで十分な収穫だった。



 今だけでも暗い事を考えるのはやめて前だけを見て進もう





大いに励みとなりますので高評価とブックマークの方よろしくお願い致します!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ