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世捨て魔王  作者: R氏
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その頃、各地で



 クレナディア帝国――その帝都クレナディアの城内のとある一室


 そこに血相を変えて駆け込んでくる眼鏡をした一人の青年がいた。余程慌てていたのか髪はボサボサで眼鏡もずれ落ちていて最早半分していない様なものだった。

 部屋に駆け込んできた青年は、そのままその部屋の最奥にある大きな椅子に腰かけ手に持った書類と睨み合いをしている銀髪の男の元へと駆け寄る。


「アルシェ様!」


「そんなに慌ててどうしたのだ?ユージン。」


「すみません!監視を任されていた例のレスティアから来ていた男が……行方をくらましました!」


 ユージンは焦っていた。散々要注意人物だと言われ、監視の任を与えられていたのに仕事で少し席を外したその隙に、男は女房や使用人の目をかいくぐり屋敷を抜け出していたのだ。

 家にいるのは妻のサラと数人のメイドと執事、戦闘要員でもなんでも無い彼女らは当然戦闘訓練など受けている筈も無く、彼女らに客人の気配を察知する事など出来る筈もなかった。


 (――――罰を下すならどうか僕だけに…!)


 そう願う僕の心情などまるで気にしていないかの様にアルシェは言った。


「あぁ。その件なら問題ない。――彼とは私が直接話し、丁重に帰って頂いたよ。」


「――――は?」


 (話した?彼とアルシェ様が?いつの間に?)


 あの男がアルシェ様の顔なんて知る筈も無いし、もし彼がアルシェ様を探してこの城まで来たとしても門前払いをされるのが関の山だ。


 という事はまさかアルシェ様の方から彼の方へ会いに行った…のか?


 (……そういえばあの時、城にはアルシェ様の姿もその側近の十賢達の姿も無かった様な気がする)


「…お話をしただけですか?」


「そうだが?私はなにかおかしな事を言っているかな?」


「いえ…」


 多忙を極めるアルシェ様がこんなにもすぐに彼に会いに行った事も意外だったが、それ以上にあの彼があっさりと帝国を出ていったとはどうしても思えなかった。


「彼は私の魔法を見たがっていた様だったからね。少し珍しい魔法を見せてあげたらとても満足した様子だったよ」


 (もう見るべき物は見た。と判断したって事なのか…?

  よくわからない…。なんだか頭がこんがらがってきた…)


 ただ僕にわかる事は――――アルシェ様は僕がこの件に関しどれだけ追及したところでこれ以上は何も教えてくれそうに無い。という事だけだった。


「そうですか…過ぎた事を聞いた様です。申し訳ありませんでした」


「構わないよ。君の事だ、メイドや執事達の監視能力を問題視されないか不安だったのだろう?むしろこちらこそ勝手に話を進めてしまって申し訳なかった」


 そう言いこの国の武の象徴とも言える方が頭を下げた。


「っ!やめてください!アルシェ様が決めた事ならば僕如きが文句などあるはずもありません」


「そうか。――ありがとうユージン。それで…用はそれだけかい?」


「あ、はい。…では自分はこれで」


 そう言い僕はアルシェ様の部屋を後にした。


 ――――なぜだろう。アルシェ様の言い分におかしい点など特に無かった


 ……だが胸騒ぎがする。

 僕らは重大な何かを間違えてしまったんじゃないか――――と
















ユージンが部屋を去った後、どこからともなく声が聞こえてくる。


「――――本当の事を言わなくてよろしかったのですか?」


 気配を消していた青髪の少女が陰から現れる。


「いいんだ。ユージンは少し優しすぎる所があるからね」


 そもそもユージンは家族と婚約者の為だけに十賢にいる様な変わり種だ。

 特に力や権力に興味があるわけでもなく、普段も鍛錬と言うよりかは研究の様な事に重きを置いている様だった。

 そんな様子だから他の十賢との力量差もどんどんと広がっていってしまっているのだが。

 だがそれでも平民からのユージンへの人望は馬鹿にならない。彼を慕う平民の数はかなりの数になると聞いている。

 そしてそんな平民の英雄が十賢に所属しているという事実は十賢のイメージアップにも大いに貢献していた。


「それよりイエラ。その後なにか問題はあったか?」


「――――いえ。アーナが見張っていますが今のところ特に異常は無いようです」


 そう報告を聞いたアルシェの口からため息が零れる。


「アーナか…。そうか実際に彼と近距離で戦闘をしたのは彼女だけだったか。自分の甘さが奴を取り逃がした。とでも思っているのだろうね」


「――――そうかもしれません」


 (まぁそれでも流石にクレナードの森に入って行く様な愚行は冒さないだろうが)


 『クレナードの怒り』を実際に見たものも今では少なくない。十賢と言えど一人では間違いなく『あれ』には勝てない。


「まったく――いつまで経っても面倒な存在だ」




 誰の耳にも届かない程度の声量でそう零すアルシェだった






















レスティア王国 王城――玉座の間――




「――またか…」


 ここ最近でもう何度目になるかもわからなくなってきている魔物による被害の報告を受け、つい溜め息が漏れた。

 最近になってアザレアの森の魔物達の活動がだいぶ活発になってきていた。


 (――――もうあまり猶予は無いやもしれぬな)


 今は武者修行の旅に出ているあの愚かで哀れな勇者の事が頭に過る。

 あの勇者見習いは今はどの程度の強さになっているのだろうか。少なくとも宮廷魔術師や王国騎士団以上の強さにはなっているのか。

 奴のあの時のステータスではどう足掻いても『魔王の所』まで辿り着く事さえ出来ない。

 奴には早急に強くなってもらう必要があった。手っ取り早く奴を強化する為に我が国で鍛えてやる事も出来たのだが、今後の事を考えると我がレスティア王国が誇る強者達と奴を引き合わせるわけには行かなかったのだ。


 我が国の軍事力を知られると後々に不都合が生じるのだ。


 エドは反対していたが、今更ながら護衛だけでも付けてダンジョンに潜らせた方が奴をより早く強化出来たのではないか。とも思えてきた。


 エドの言い分もわからなくもない。

 どうせ数年の内に『レスティアを』去る者の護衛なんかに貴重な戦力を割くよりも、これから何十年にも渡ってこの国を守り続けていく事になるであろう兵達の強化を優先するという考え。


 だがそれもこれも『今代』の魔王を倒さない事にはどうにもならない。

 そして、これからはその役目を勇者召喚で呼び寄せた勇者にやらせると決めたのだ。

 だとしたらやはり優先すべきは勇者の育成だったのやもしれぬ。


 だが今更過ぎた事をグチグチと言っても仕方が無い。今は奴が自力で勇者として相応しいだけの力を備えて戻ってくるのを待つ他無い。

 よって今は待つだけだ。奴が少しでも成長して戻ってくるのを。




 それまでこの国を守り続けられれば、我が国の安寧は守られる。




――――――――――――――――――――――――





 アザレアの森 ――その最深部――





「――――どうしようもないんだ…。もう俺には止められない…。


 ――誰か…あの子を…



 エリスを守ってくれ…」














クレナード魔王国





 その中心部にある『魔王城ヴェリュナール』


 その一室に二つの人影があった。

 片膝をついている方はアッシュがかった髪を肩口で切り揃えている切れ長の瞳の美女。中性的な顔立ちをしており同性からも人気のありそうな面立ちをしていた。


 そして窓際に立ち遠くに見える自身の領地、その一部である通称『クレナードの森』を見据えている方は最早この世のモノとは思えない程の美貌を誇っていた。

 身長は160も無くパッと見は少し幼く見えるかもしれない。だが漂う高貴さが妖艶な雰囲気を醸し出しており、その美しい髪の毛同様紅く煌めく瞳は一度でもその瞳を見てしまった者の心を掴んで離さない。


「――――またなんか入って来てない?」


「いかがなさいますか姫」


「ほんと懲りないわね。――まぁいいわ…どうせそのうち食われて死ぬでしょ」


 すると彼女は、腰まである綺麗な紅い髪の毛をなびかせながら振り返り言った。




「もし万が一森を抜ける様な事があったらアンタがどうにかしなさい」














 レスティア王国から更に南へずっと行った所にある国『アストラル法国』





 神を信じ、その信仰心を何よりも尊ぶ宗教の国。

 数多くの僧侶を世界に輩出し、伝説上の技ともされている数々の聖属性魔法の発祥の地でもあるその場所。

 その中心にある一際大きな建物『アストラル大聖堂』の祭壇の前に両手を胸の前に置き祈りを捧げるシスターが一人。

 ベールにより顔は見えないが、後ろへと流れている美しい金色できめ細やかな髪、決して派手とは言えない露出の無い服装なのに強調することをやめないその胸部。


 誰が見てもこの女性が魅力的であろうという事は想像に容易い。

 だがそんな周りの目などまるで気にしている様子も無く、彼女は不安そうな表情で祭壇を見上げる。


「災いがこの大陸中に降りかかる――――止める術は…無いのですか?」





「――――このままでは世界が…」



 憂いを帯びた聖女の祈りは終わらない







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