はぁ...覚悟
そこは冷ややかな薄暗闇に包まれていた。夜にしては明るすぎるし昼にしては暗すぎる。
その奇妙な薄暗闇に包まれているといつの間にか真っ当な方向と時間を見失ってしまう。
あの後色々と考え感傷に浸っていた俺は、とりあえずだが森の奥へ進む事にした。
――――なぜか?それは至極単純な事だった
「腹が減って死にそう!」
腕を無くしたばかりとはいえ、これは実際馬鹿にならない大問題だった。幸いな事にここはファンタジーの世界、火は魔法でいくらでも出せるし肉さえ手に入れば後はなんとでもなる。
だが――――それから30分程歩き続けた俺は嫌でも気付かされる。恐らくここに動物はいない。完全な魔物の巣窟だ。
「グルルルルルルゥ――」
「またか…」
ザンザン!ザザン!
「ギャインッ」
俺は何度目かわからない紫色した三つ目の狼の襲撃を風の刃で迎え撃つ。
それは恐らくアルシェの魔法――――俺の左腕を奪い去った憎き魔法。
だが皮肉な事に使い勝手はかなり良かった。
ここは森。得意の火魔法は出来る限り使わないに越した事は無い。その為ここではこの魔法を重用する戦闘方が最善だと判断した。
それに冥土の土産にもらった魔力回復力向上LV5も中々に頼もしいスキルだった。
森に吹き飛ばされてきた直後は極度の倦怠感で一歩も歩けない程だったのが、今ではもう通常通りの活動が出来る様にまでなっていた。
「――――くっそー!!俺よえーのかよっ!!」
幾度目かの戦闘を終えしばしの沈黙に包まれていると、今までずっと我慢していた心の内が限界を迎え人目を憚らず吐露された。
当然人目などある筈も無いのだが仮にあったところで到底我慢出来るモノでは無かっただろう。
わかりやすい獲物の気配に魔物が集まってくる心配もあったが、そんなもの全て皆殺しにしてしまえばいい。そんな風に考えてしまう程に俺の心はささくれ立っていた。
――――ぶっちゃけ最強だと思ってた。
――――これが勇者の力か。とか思ってた。
――――選ばれたんだ。って思ってた。
「……違った。全然違った!あいつらは全員俺よりも強かった!」
心の底から願う――――強くなりたいと。。
(……いや違う。
強くならなくちゃいけないんだ。
強くなれなければ殺されるだけだ)
――――この世界は弱肉強食
元いた世界だってそれは同じ事だった。だがそれは頭の良さや生まれの良さ、もちろん力の強さも関係あった。様々なベクトルの強さが絡み合った上での弱肉強食だった。
だがここは違う。ここでは力さえあれば何だって許されるし何だって叶う。
圧倒的な力さえあればレスティアの奴等を言いなりにさせ、元の世界に戻る方法だって強引に聞き出せたかもしれない。
力さえあればさっきの奴等を全員返り討ちにして、「はぁ…疲れた」なんて言いながら何食わぬ顔でレスティアに戻っていたかもしれない。
「力さえあれば――――――――腕を失う事も無かったっ!」
知らず知らずのうちに握りしめていた手を解く。掴んでいたのはその先には親から貰った立派な腕があった筈の左肩。
「いいぜ…やってやるよ――――先に喧嘩売ってきたのてめーらだからな。だったら本当に帝国の脅威とやらになってやろうじゃねぇか」
夜のこの森は漆黒を抱え込んでいる。奥に足を進めると暗い空気が身体を囲んできた
足を踏み出すたびに自分の身体が黒く染まり、さらに足を出すと影に舐められる。
――――森の奥を見据える。
(……ここから奥はマジでやばい)
明らかに空気が違う。この先にどんな魔物達がいるのか今の俺には想像すら出来ない。
――――だが行く、行くしかない。
死線を乗り越えなければ強くはなれない。
LVも勿論上げなくてはならないが、それ以上に今の俺に必要なのは実戦経験。格下との戦いでは無い、自身と同等かそれ以上の敵との命の削り合いをしていかなくてはならない。
――――覚悟は決まった。次こそ本当の強者へ
――――魔王は殺す。そして帝国も潰す。
「意図せず目的が増えたな。まぁいいか、その方が張り合いがあるってもんだろ」
そして隻腕の後ろ姿は徐々に闇に飲み込まれていき
いずれ――――完全に見えなくなった
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