アルシェの懸念
「――――いかが致しますかアルシェ様」
いつもは冷淡な顔をしている青髪の少女も目の前で起こったあまりに異様過ぎた光景に冷や汗を滴らせながら上司に指示を仰いだ。
「あぁ!?何言ってんだよイエラ!追うに決まってんだろうが!」
「――――脳筋のクダンは黙ってて。恐らく既に死んでいるとは思いますが追った方がよろしいですか?……それともやはりあの場所には入らない方が?」
アルシェは戸惑っていた。まさか獲物があの様な方法でこの場からの離脱を試みるとは夢にも思ってもいなかった。
(……馬鹿げている。腕を失った状態であれだけのダメージを負えば間違いなく死ぬ。
それにヤツが先程言っていた台詞―――それ程までに我々に殺されるのが嫌だったのか?
プライド?いやあれを誇りとは呼ばない。私ならばもし勝ち目が無いとわかっていても戦って死ぬ事を選ぶ。それこそが誇りある死に様というものだ。
まさか―――死なない事を前提として森の中へ逃げた…とでも言うのか?)
己の理解できる範疇を優に超えた事象を前にアルシェの脳内は混沌を極めていた。
頭の中で様々な意見が沸いては消え、沸いては消えを繰り返す。
(いや…それはない。奴が飛び込んで行ったあの森は『クレナードの森』魔王クレナードが支配する領地の一部だ。そんな所に瀕死の状態で入って生き延びられる人間などいる筈が無い。
あそこに棲まう魔物達は最低でもAランク以上、十賢の者でも安易な気持ちで入る事はしない。
更に魔王クレナードは自分の領地に余所者が入る事をひどく嫌う。そんな事この世界の者なら子供でも知っている事だ。
それにもしただその事を知らなかっただけだったとしてもあの傷ではどうせすぐに失血死か衰弱死するだろう。
奴が回復魔法でも使えるというなら話は別だが――――回復魔法は神官か僧侶にしか使えない。故に魔法使いである奴にあれ程の傷を治す術は存在しない。
――――やはり悪あがき紛いの自殺と見て間違いないだろう)
「そうだな。わざわざ瀕死の人間の生死を確かめる為だけにそこまでのリスクを冒す必要もないだろう。
――――だが……万一ヤツが生きていたとしたら隙を見て森の外に出ようとしてくる可能性もある。
よって毎日一人ずつここに見張りを置くことにしよう」
「まじかよ…――まあしょうがねえか。今はまだクレナードに目を付けられるのはマズい…か」
「――わかりました」
「………」
(――――それにしても改めて凄まじい魔力量だった。まさか私の魔力をほぼ全て持っていかれるとはな…)
やはり今のうちに消しておいてよかったやもしれんな。
間もなくレスティアなんぞに構っている暇は無くなる。
余計な懸念事項は今の内に消しておかねば
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