はぁ...急展開
つい先程思わぬ形でありがたく飛行魔法を頂戴した俺だったが、流石にこんな街中で空を飛んだら周りからどの様な目で見られるかは想像に難しくなかった。
その為に一応歩いて指定された場所へと向かう事にした。
だがここである問題が生まれる。
アルシェが指定した場所に行く為にはあの気まずい詰所を通って行くしかないのだ。
詰所は他にもいくつかあるが遠回りをして他の詰所から森へ行くとなると到底3時間では辿り着けない。
シカトされながら詰所を通るのはやはりとても気まずかった。
本当は俺なんか通したくないのだろうが上が通せと言っている為仕方なく通してる。という感じが嫌と言うほどに伝わってきていた。
いつまでも嫌われたままだとこれから先なにかと不便だろうし今度なにか差し入れでも持って行こう。
そう心に誓った俺だった。
「…ここでいいのかな?」
恐らくだが目的地には着いた。何故恐らくなのかというと―――指定された森がデカすぎるのだ。
『森の前』とは言われたがこれだけ広大な森だ。こんな所で待ち合わせをすれば待ち人を探すのにも一苦労する事は間違い無い。
初めて来る場所だし目印の様な物も特に見当たらない。何故アルシェはこんなにも待ち合わせ場所として不都合な場所を指定してきたのだろうか。
(まぁ……正面に時計塔が見えるし大丈夫でしょ。)
そしてそんな事よりも今の俺には気になることがあった。
アルシェに指定されたこの森なのだが――――控えめに言ってヤバすぎた。
今はまだ森の外にいる為、特に危険も無い筈なのだがあの森に少しでも入ったならばたちまち凶悪な魔物に囲まれることは間違いない。
見る者全てを拒絶する様な禍々しいオーラは勿論、戦闘経験の乏しいこの俺にもわかる程の強烈な殺気がビシビシと伝わってきていた。
(――――なんか恐いんですけど…。本当になんでここなんだよ…)
この森の中には果たしてどれぐらいのレベルの魔物達がいるのだろうか。
そもそもの話、今の俺はどのぐらいの魔物を狩るのが適正なのかもわからない。もしかすると既にアザレアの森程度ならば行けてしまうレベルだったりするのかもしれない。
だがこの森に入るのだけは明らかに早過ぎるのだけはわかった。
「お待たせ。待たせてしまったか?」
そんな事を考えていると空からアルシェが降りてきた。
一つの謎は解けた。空からならこれだけ広い森の前でも簡単に相手を見つけられるのだ。
「――いや俺も今来たとこだから」
(なにこの初デートみたいなノリ…。まさか異世界に来て最初の恋愛イベントこいつ? 顔はめっちゃ綺麗だけど…綺麗だけども…。
さすがに男は…つらいよ)
なんて脳内でふざけていると――――突如空気が変わった。
「っ!なんだ―――これ……っ」
重たくなった空気の正体は恐らく殺気だった。前からも後ろからも殺気を当てられる形になり色々な感覚がパニックを起こしていた。
困惑しながらも殺気の元を辿ってみると、そこには先程までとはまるで別人の様な形相をしたアルシェがいた。
「―――悪いが気分が変わってしまってね。お前にはここで死んでもらおうと思う」
そう言うアルシェの目からは人を殺せるんじゃないかとも思える程に鋭い眼光がこちらへと向けられていた。
(もしかしてこいつ…俺をここまで連れ出す為に猫を被っていたのか?
てかそもそも考え変わったとかのレベルじゃなくない?
なにがどうなったら『魔法を教える』から『死んでもらおう』に変わるんだよ!)
ここまできてようやくアルシェの謎の厚意やこんな場所を指定してきた理由がわかった。
「…理由を聞いても?」
「お前は危険すぎる。先程鑑定石でお前のステータスを見させてもらったがあの数値は異常だ。
たかだか78LVであのステータス……お前は明らかにおかしい―――更に貴様はレスティア王国から離れられないと言うじゃないか。
まさかあの国と帝国の不仲を知らぬわけも無かろう?そもそもがレスティアの犬がよくもぬけぬけとクレナディアの敷居をまたげたものだ。
レスティアから来たとはいえ、それでも帝国に鞍替えすると言うのなら生かしておいてやろうとも思ったが…。
今はまだその程度の力だが、いずれクレナディアの脅威になるやもしれんお前を生かして返す理由は無い」
色々と突っ込みたい所はあったが何よりも気になる単語が一つあった。
(鑑定石…?――――え、そんなのあるの?じゃあ俺が今まで必死にステータスを隠してたのってバカみたいじゃない?
もしかしてスキルも見られてるのか?そう考えたらなんか恥ずかしくなってきた…)
こんなところでも足を引っ張ってくるレスティアへの恨み節を喚き散らしたい衝動に駆られたが、今はそれどころでは無い為なんとか呑み込む。
レスティアと帝国が不仲な事など1ミリも知らなかったが、多分それは騎士の話をしっかり聞いていなかった俺の落ち度だろう。
何の愛着も無いレスティアなんかの為に殺されそうになっているこの現状には正直不満しか無いが、今はこの場をどうにか切り抜ける事だけを考えるしかない。
レスティアには何の愛着も無いし帝国に噛みつくつもりもない。それは紛れも無い本心だがこうなってしまった以上今更そんな事を言った所でアルシェが信じるわけもないだろう。
恐らくアスロ達が言っていたのはこういう事だったのかも知れない。
思っていた以上にこの世界は危うい状況なのかもしれない。魔王とも戦わなきゃいけないのにその上人族の国同士でも争っているなんて。
「俺がそういった世情には一切興味が無くて、これから先も帝国になにかするつもりなんてこれっぽっちも無い…って言っても信じてくれないんだよな?」
「当たり前だ。そしてお喋りはここまでだ――――――やれ」
アルシェがそう告げた瞬間――――夥しいまでの魔力が込められた様々な魔法が全方位から俺へと飛んできた。
「――っな!?」
魔法の数が多すぎてもうなにがなんだかわからない。火に水に雷に土、それはこの世に存在する全ての属性と言っても過言では無さそうな多種多様な魔法の弾幕だった。
氷柱の様な形のモノ
円の形をしているモノ
形などなく、ただ大量の土がまとまっているモノ
(――――…これは死ぬ)
流石にこれだけの魔法を食らえば今の俺でも確実に死ぬ。出し惜しみをしている場合ではないのは明らかだった。
「――――っぶねぇ…。まさか他にもいたとは思わなかったな」
「…ほう。飛行魔法まで使えるのか――――尚の事お前を生きて帰すわけにはいかなくなったな」
なんとか咄嗟に上空へと飛び上がり、全ての魔法を回避した俺の方を見ながら悪そうな笑みを浮かべるアルシェ。
(……まじでさっきと別人じゃねーか。どうする…?さすがにこの人数差は不利か?
ユージンの話を聞いた限り、飛行魔法を使えるのはアルシェだけの様だった。
ならば周りの奴等は着いて来れない様にこのまま飛んで逃げてしまうのがこの現状での最適解の様な気がした。
突然の事に頭が混乱していたのだろう。普通の人間では到底来れる筈の無い高さにいたにも関わらず、周りに自分の他に4人もの人間がいた事に気付いたのは既に囲まれた後だった。
「――え?…飛行魔法を使えるのはアルシェだけなんじゃ…」
「なに言ってんだ?お前。こんぐらい使えねぇ奴が十賢になれるわけねぇだろうが」
「――いいから早く死ぬ」
獰猛な野獣の様な目付きをした金髪の男と、青い髪をした寡黙そうな少女が俺に向かい手をかざす。
詠唱をするでも無く手の先に光が溜まり始めるのを見て俺は驚愕した。
「――――無詠唱!?」
(なんなんだよこれ!俺が知ってる常識となにもかも全然違うじゃねーか!)
――――俺が特別だったんじゃないのか?
ある程度の強さを持つ奴だったらこれぐらいの事、出来て当たり前なのか?
頭が回らない。自分の力に絶対的な自信を持っていた俺はたとえ囲まれていたとしても無理やりにでも力押しで勝てると思い込んでいた。
――――信じていた物が1つずつ崩れ落ちていく
一体俺は何を勘違いしていたのだろうか。今まで俺が出会った事のある者なんてこの世界のほんの一部でしか無い。
FランクPTのチーム・サニス。村人相手に調子乗って暴れていたDランクPT、後は街の衛兵達だけだ。
(それだけの世界しか知らないのに自分が最強だなんて勘違いして…
――――馬鹿みたいじゃねーか)
「ファイヤーランス!」
「――アイスニードル」
金髪の男から特大の火の槍、少女の方からは無数の氷の氷柱。
この距離では避けるのは到底不可能。混乱しながらもそう判断した俺は自分の周りに極厚の幅1メートル程はある火の壁を具現化させる。
鼓膜のすぐ側で魔法と魔法のぶつかり合う轟音が響く。
(あの程度の魔法だったら一先ずこれで防げるはず…
防いだら次はこっちの番だ。大丈夫、俺はまだやれる…)
自分の力を過信し過ぎていた事はわかったが他の奴等の力はまだわからない。こちらの方が強い可能性だってまだ残っている筈なのだ。
(――――落ち着け!とにかく一回落ち着け!)
「…大丈夫。1人づつ減らしていけばなんとかなる」
半ば自分に言い聞かせるようにそう呟く。
だがそんな俺の願望を打ち砕くように、近くから荒々しく乱暴な女の声が聞こえた。
「はぁーー!?何言ってんのあんた。これはアルシェ様の命令で安全策を取ってるだけだっつーの!
あんた如きの相手なんか1人でもなんの問題も無いんだよっ!」
魔法の衝突が終わると同時に長身の黒髪の女が目の前に現れた。
「――っ!いつの間に!?どうやって!」
「はぁ?ただあんたの飛行魔法と私の飛行魔法の練度が違うってだけの事だ――っよ!」
「――っが!」
呆気に取られている俺の顔面に女の拳がクリーンヒットする。
(―――全然勢いが止まらない。これが女の腕力か?)
【「身体能力向上LV3」を取得しました】
ベストなタイミングで身体が答えを教えてくれる。
彼女の異常な腕力には合点がいったが、妙に冷静になった分改めて今の現状に絶望感が募っていく。
本格的にやばくなってきた。恐らく奴等の1人1人が俺と同等か―――それ以上に強い。
ステータスの差や魔法の練度とかそういった要素は素人の俺にはよくわからない。だがなによりも戦い慣れのレベルが違い過ぎた。
(まともに戦っても勝ち目は無い。……俺がこいつらに勝っているモノ。俺が誰よりも自信のあるモノ。
今までどこに行っても誰に見せても驚かれ続けてきたモノ―――)
「―――――魔力量だ!」
俺は今まで一度も他の人のステータスという物を見た事が無い為、それはあくまで予想でしか無い。
だが俺のステータスの中で魔力の数値だけは異常に高かった。それは事実。
こんな状況になってしまった以上もう周りの被害とかを考えている場合では無い。
このままでは自分が死ぬ。俺は決して聖人などでは無い、己の命より他者の命を重く考える事なんて出来はしない。
「おー?逃げんのかー?」
「――逃がすわけない」
先程顔面を思いっきり殴られ、かなりの距離吹き飛んだのが幸いした。
勢いそのまま飛行魔法で更に距離を稼ぐ。当然奴等も追ってくるが少しでも距離が稼げればそれでよかった。
ある程度の距離が稼げた所で俺は振り返り手を掲げる。そして今の自分に出せる最大の出力でファイヤーボールを具現化させた。
その瞬間――――その場に【太陽】が現れた
「な…んだそりゃ…」
「――ありえない…」
「……!」
それぞれの動揺する声が聞こえてくる。俺をぶん殴ってくれた黒髪の女も遠くで目を見開いていた。
(流石に驚いてくれたか…これでも平然とされてたら流石に心折れてたな)
「出来れば街にも迷惑をかけたくない。さっきも言ったが俺は帝国に何かをする気なんて本当に無いんだ――――もうこれくらいで引いてくれないか?」
これが俺に出来る最後の手段。奴等がこれでも引かないのならばもうこれを放つ以外に無い。
奴等の後ろにある街へのダメージも恐らくは半端ない事になる。だがそれでも自分の命には代えられない。
俺に攻撃をしてきていた奴等は先程から黙り込んでいる。
(――――なんとか…なった…のか?)
「――――ディスペル」
「…は?」
どこからともなくそう聞こえた瞬間、つい今しがたまで俺の頭上にあった筈の超特大サイズのファイヤーボールは一瞬で霧散し――――跡形もなく消え去った。
唖然とした俺が――――左腕に走る痛みに気付き、目をやった時にはもう
――――そこにある筈だった左腕は無くなっていた
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