はぁ...飛行魔法?
翌朝、外から聞こえてくる鳥のさえずりで目を覚ました俺は特にする事も思いつかなかった為とりあえずリビングへと行ってみる事にした。
そしてリビングに降りてみるとそこにユージンの姿は無く、いたのはサラさん一人だった。
「おはようサラさん」
俺が声をかけると、清々しい朝にぴったりの眩しい笑顔が返って来た。
「あ!おはようございますアサンスキさん!」
(だから誰だよアサンスキさん…もしかしてこの人馬鹿なのかな。
昨日友人くんが俺の事レイア君って言ってたの見てた筈なんだけどな)
「友人くんは?」
「ユージンはちょっと仕事で呼ばれてて…。すぐに戻ってくるとは思うんですけど」
(…ふむ。そうか友人くんはいないのか。たしか俺は彼と一緒じゃないと行動しちゃいけなかったんだっけ?)
だがそんな事で縛られる俺では無かった。昨日は食後で眠気があった上に外も暗かった為、流石に自重したが今日はそうはいかない。
俺は一度部屋に戻り、サラさんに見つからない様にコッソリと外に出た。
そして辺りを散策しながら一番高い建物を探し、その屋上へと足を運ぶ。
「よし!今日は1日ずっとここにいるか!」
ちなみにこの奇行にはちゃんとした理由がある。
馬鹿となんちゃらは高い所が好き。とか
暇だから友人くん困らせてやろう。とかそんなくだらない理由では決してない。
俺は昨日のユージンとの会話を思い返す。
「帝国には飛行魔法とか使える人っているの?」
「それはもうアルシェ様だけだね。アルシェ様以外に飛行魔法を使える人は……少なくとも僕は知らないかなぁ」
(話を聞いて行くとなんだか本当に凄い人みたいだなアルシェ様…
――――誰か知らんけど)
「へー…見てみたいなー飛行魔法」
「それもこの国にいたらその内見れると思うよ。アルシェ様はちょっと遠出する時とかは基本的に飛行魔法で向かう事が多いからね。歩いて行くよりも確実に早いし。
いいよねぇ飛行魔法…」
その言葉を最後に1人妄想に耽りだしたユージンがちょっとキモかった話は置いといてあげるか。
「って事で今日は空飛ぶアルシェを見つけるまで帰りません!」
(はぁ…いい天気だな)
今俺がいるのはいわゆる時計塔ってヤツだった。ここからなら帝都が一望できるしアルシェを探すという目的にも適していそうだった為ここに決めた。
あの遠くに見える一番大きな建物は城だろうか。
――――帝国の王様というのはどんな人物なのだろうか。
完全に個人的なイメージなのだがこういう『実力至上主義』みたいな場所のトップは、大体粗雑で喧嘩っ早いが男気があって下には慕われてる。みたいなタイプのイメージがある。
もし想像通りのそういうわかりやすい人だったならば是非会ってみたかった。少なくとも貴族然としたレスティアの王家なんかよりは遥かに親しくなりやすい気がしたからだ。
「昨日ぐらいのサイズのファイヤーボールをここから落としたらどんな事になるんだろうか…」
「それは出来たらやめて欲しいな」
「…は?」
突然背後から聞こえた声に思わず自分でも間抜けだと思うくらい間の抜けた声が出た。
振り返るとそこには――――――絶世のイケメンがいた。
銀髪のミディアムヘアーに切れ長の目、くっきりしすぎている鼻筋。でも何よりも俺の目を引いたのは……
――――その赤すぎる深紅の瞳
俺の中のファンタジー世界の記憶達と照らし合わせた結果、一番近いのはヴァンパイアだった。
こんな場所にいる以上目の前の彼は当然人間なのだろうが、そう思わせてしまうくらいにソレは浮世離れした美貌だった。
(なるほど…。これだけ美しけりゃそりゃ魅了もされるわな)
「君がレイア君かな?」
全く予想だにしていなかったタイミングで自分の名が出た事に思わず動揺が走る。
(……俺の名前を知ってる?帝国にはまだ来て二日目なんだけどな)
「そうだけど…誰ですかね」
「おっと失礼。私はアルシェ――アルシェ・フェリゴーラだ。君の事はユージンから聞いているよ。中々に破天荒なお客だとね」
これまた予想だにしていなかった名前が出た事に衝撃が走り、自分でも気付かぬうちに思わず身構えてしまっていた。
(…ッ!!こいつがアルシェ…?――――帝国最強の男。まさかこんなに早く会えるとは思ってもみなかった)
「あぁ、あんたがアルシェさんか。こっちも友人くんから色々聞いてるよ。
ここで一番強いんだろ?……あんたが」
そう言われ、困った様な苦笑いを浮かべながらアルシェが口を開く。
「それはどうだろうね……強いと言っても色々とあるだろう?
まぁ単純な話、使える魔法の数が一番多いのは私なのだろうけどね」
思っていた人物像とはかけ離れている目の前の男に、警戒よりも困惑の念が強く出てしまう。
明らかに警戒心丸出しのこちらに対し、アルシェはただただ穏やかだった。
今この場で行われているのは何ら変哲の無い只の日常の一コマでもあるかの様に。
思っていたよりも穏やかな男なのだろうか。帝国最強だなんて肩書きを持っているくらいだからすぐにでも喧嘩を売ってくる様な類の相手かと勝手に思い込んでいた。
「それで?何故か俺に興味を持ってくれてる。みたいな話を聞いたけど理由を聞いても?」
「ユージンから聞かなかったかい?私は純粋に強い者が好きなんだよ――――力とは尊い物だ…なによりもわかりやすいし、圧倒的な力はどんな理不尽をも覆す……――」
そしてなんだかわからないうちに演説が始まった。
(力信者?なんて言えばいいんだこれは…)
「そうは思わないか?」
「思う」
こういうのは否定してはいけないというのが定石だ。否定すればするだけ熱くなるのだこういう輩は。
そして目の前の男は俺の同意を得られた事に満足そうに頷き、続けた。
「次はこちらからもいいかな――――君の方こそ強い者を探す事に執心している様じゃないか。それは何が理由なんだい?」
「まぁ俺の中での強い奴ってのもかなり曖昧なものなんだけどね。これからの人生の為に是非色々な魔法を見ておきたいって思ったんだよ。
冒険者をやるにしても普通に生活をするにしても、使える魔法が多いに越した事はないだろ?」
「なるほど…。だが別に見ただけでは魔法を使えるようにはならないし、やはりそこまで意味のある行動とは思えないな」
ユージンにも同じ様な事を言われた。だがこんな事もあろうかと俺は既に答えを準備していた。
「実は…俺はすっごい田舎育ちなんだよ。だからそもそもこの世界にどんな魔法があるのかもあまりわからないんだ。どんな魔法があるのかわからないと勉強の仕様もないだろ
かと言って学校に行くほどの金銭的余裕も無いからさ、だからこうやって冒険者をやって路銀を稼ぎながら旅をしてるんだ」
(完璧だ…。我ながら完璧すぎる解答だ…)
これならどこの誰だろうと文句のつけようも無い。
「なるほど……ではこれが最後の質問だ。
――――帝国につく気は無いか?資金面でも役職でもレスティアよりも確実に良い待遇で迎える事を約束しよう」
思ってもいなかった話の流れに一瞬思考がフリーズした。
強い者が好き。という事前情報は入っていたが強ければ本当に何でもいいのだろうか。
(いやでも待てよ…?この提案に乗れば俺も友人くんの様な暮らしが出来る…という事か?)
もしそうなればすぐにでも美人の奥さんも出来るかもしれないし、毎日料理人が作るご馳走にありつけるのかもしれない。
断る理由など一つも無さそうな魅力的な提案に一瞬心が弾んだ。
(でもなぁ…。そうなると元の世界に帰れなくなっちゃうんだよなぁ…)
「その提案は正直かなり魅力的なんだけど…。ちょっと俺はレスティアにいないといけない理由があるんだよなぁ…」
「レスティアにいないといけない理由…?」
「それはちょっと言えないんだ。誘ってくれたのに悪いな」
俺が実は勇者召喚で呼ばれていて、元の世界に戻る為にはレスティアの奴等の力が必要。
なんて言ったところで信じられるわけも無い、それにこの情報はあまりほいほい言いふらしていいモノでも無いだろう。
かつてのレスティアでの生活や扱いを考えると本当に苦渋の選択だった。
肝心のアルシェは何かを考えている様で先程からずっと下を向いている。
やがて少ししてから顔を上げ
「そうか…。残念だが色々と事情もある様だし仕方ないな。
――――それより私が使える魔法も色々と見てみたいのではないか?」
(え、もしかして見せてくれるの!?)
だがただでさえ折角の勧誘を断ってしまい申し訳ないと思っていたのにそんな厚意を素直に受け取ってしまっていいのだろうか。
(……まぁ受け取ってしまうのだが)
「そりゃ勿論見てみたいさ。でも誘いを断っちゃって申し訳ない上にあんたはかなり忙しいって友人くんから聞いたよ?」
「先程も言ったが事情があるなら仕方ないさ。そこまで気にしなくてもいい。
それに数時間程度なら問題無いさ。……だがさすがに街中や街の近くでは無理だ。
――――あそこの森が見えるか?」
アルシェが指さした場所は、かなり遠くの方に微かに見える巨大な森だった。
そんなに凄い魔法を見せてくれるつもりなのだろうか、ユージンから色々と聞いて警戒していたのが馬鹿みたいに思えるくらいにアルシェはいい人に思えた。
「見える見える。あそこに行けばいい?」
「私は先に少し野暮用を済ませてから向かわせて貰おうかな―――そうだな……3時間後にあの森の前でどうだろうか」
こちらが頷いたのを確認すると、アルシェは城の方へと"飛んで"行った。
――――――飛行魔法…あざっす!
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