はぁ...スキル
そうして門をくぐった先――――そこに広がっていたのは未だ俺が見た事の無いモノだった。
当然ながら人間の数も凄まじかったがそれだけじゃない。
猫耳を生やした女の子、身体の半分ほどに虎の毛皮が張り付いた様な男、狼みたいな耳に尻尾を生やした男もいれば身長は小さいくせにガタイは俺の倍ぐらいある髭ジジイもいた。
――――そこにはなんでもいた。
「こんな色んな種族が一緒にいても大丈夫なのか?」
「大丈夫ってなにが?」
「いや種族が違うと考え方とか違うんじゃないのか?揉めたりしないのか?」
「あー…。そっか君はレスティアから来たんだったね。むしろレスティアがその部分にこだわり過ぎてるってだけでこれが普通だと思うよ。
種族が違うって言ってもみんな人族だしちゃんと理性もある。違うのはステータスと見た目だけさ」
確かにレスティアという1つの国にか知らない俺はそういうものなのかと納得せざるを得なかった。レスティアには普通の人間しかいなかった為皆それぞれの種が種族ごとに別々の場所に住んでいるものだと思い込んでいた。
(すごいな…。まさにファンタジーって感じだ)
今までもこの世界にファンタジーを感じる瞬間は多々あったが、衝撃という点で言えば今回が一番大きいかもしれない。
一際俺の視線を引く存在は獣人だった。あれは獣なのか?と聞かれたならそれは間違いなく否だ。
かと言って人なのか?と聞かれたとしてもそれにも素直に首を縦に振るのは難しそうだった。
見た目の圧は言わずもがなだが、その中でもあの鋭い眼光を正面から受け止めるのは中々に精神をすり減らす事だろう。
俺がずっと見ていたのは遠くに見える虎の獣人だった。果たして今の俺とどちらの動きが早いのだろうか、気になっていないと言えば嘘になる。
「大丈夫かい?ちゃんとついてきてね」
「あ、あぁ悪い」
今の俺の姿はまるで故郷から都会に出てきて面食らっている田舎っぺの様にでも見えている事だろう。
だが本当に衝撃は受けていたし不覚にも少し感動もしてしまっている。これだけいろんな者がいるならそりゃ強い奴だって沢山いるだろう。
(さてさてどんな魔法やスキルが手に入ることやら)
俺はまだ見ぬ出会いに1人浮かれていた。
中に入ってからもずっと友人くんの後を歩いていたのだが、周りの景色が先程と大分変わってきている事に気付いた。街全体の雰囲気がどことなく汚く、治安も悪そうに見えた。
(――――これが俗に言うスラムってやつか)
「言っちゃ悪いけどなんかちょっと汚い感じがするな。ここ」
「ここは貧困街だからね。奴隷身分の人や家の無い人たちが多く住んでいるエリアなんだ。
でも目的地まではここを通って行くのが一番早いんだ。すまないけど少しだけ我慢して欲しい」
「まぁ別にいいけどね。俺もそこまで育ちがいいわけでもないし」
そう言い改めて辺りを見渡してみる。ゴミ箱に半身を突っ込んでいる男もいれば、果物の様な物を持っている男の子を追いかけている男もいた。
また反対側を見てみると道の端の方に直で地面に座っているおじさんがなんだか変な物を口に入れようとしているところだった。
(うわ…なんだよあれ……人間てあんなの食っても平気なのか…?)
そもそも色がおかしい。黒と紫が混じった様な色をした丸いナニカを無表情で咀嚼しているおじさん
(……いくら金が無いからと言ってもあれを食べる気にはなれないな…)
などと考えていると、不意に聞きなれない無機質な声が脳内に響いた。
【「悪食」スキルを取得しました】
(――――――――は?)
「はぁぁぁああああああああ!!??」
突然の絶叫に身体をビクつかせるユージン。当然の反応なのだが彼の表情は若干―――いやかなり引いている様に見えた。
だがそんな事は今は心の底からどうでもよかった。
(嘘だろ…?俺の記念すべき初スキルあれ?
いやいらねぇよっ!食わねぇし!あんなの絶対に!ざけんなよじじぃぃい!!)
何故―――何故このタイミングでその場所で食べてしまったのか。
別に彼がどこでどんな悍ましい物を口にしていようが何も文句は無いしそもそも興味も無い。
だが―――そこだけはまずかった。
(……いや、でもまぁあのおっさんに罪は無い)
俺が何を言おうとそれはただの八つ当たりでしかない。あんな物を食べなくちゃいけない所まで落ちてしまっているおじさんにこれ以上どんな仕打ちが出来ようか。
――――なんとかここは飲み込む。
(しょうがない…しょうがないのだ。【悪食】いいじゃないか。うん。
改めて見てみると割と好きかもしれないこの響き。
――――うん)
「急に叫んだりしてどうしたの?」
「…いや。――――――――――――――――――――なんでもない」
間違ってもなんでもないとは思えない俺は、その言葉を口にするのに結構な時間を要してしまった。
「で、そもそもこれはどこに向かってるの?流石にこんな所にある店で飯食うのはイヤなんだけど……」
(…まぁ?今の俺なら?なんでも美味しく頂けちゃうんですけどね?
【悪食】先輩頼もしいわマジで。なんならもう腐肉のステーキに泥水のセットでも頼んじゃおうかな?)
その自虐は今までの人生の中で間違いなく一番虚しい自虐だった。
「今は僕の屋敷に向かってるんだ。うちにもお抱えの料理人が何人かいるから下手なお店よりは美味しい料理を出せると思うんだ」
「え、友人くんてもしかしてお金持ち?」
「お金持ちって程では無いけど…それなりの生活はさせてもらってるよ。
ちなみに僕の名前はユウジンじゃなくてユージンだよ」
「いいなぁ…。あぁそうなんだ。でもそこは気にしないで。
ちなみに俺の名前はレイアね」
「名前が間違ってるのは結構気になるんだけどなぁ…
レイアくんか―――君とは長い付き合いになりそうだしよろしくね」
そう言い手を差し伸べてくる友人君。
握手―――日本というスキンシップ控えめな国で育った俺にはなんだか気恥ずかしく思える行為だった。
(それに俺は魔王とやらを倒したらさっさとこの世界から出て行くつもりなので君とそこまで長い付き合いになる事は恐らく無いんだけどね)
だがこんなイケメンの握手を断る勇気も俺には無かったので、とりあえず手を握り返しておく。
「ちなみに友人くんは十賢てやつだからいい暮らしが出来てるの?」
「うーん。まあそんな感じかな」
(いいなぁ…この国だったらちょっと強いだけで家に料理人とか雇えんのかよ…)
これはいよいよ真剣に移住を検討しなくてはいけなくなった。
「ちなみに十賢ってなんなの?」
ずっと抱えていた疑問をようやくぶつける。
すると友人くんは驚いた様な顔で俺の方を振り返った。
「えっ…レイアくん十賢を知らないの?じゃあ十剣も知らない?」
「え、なんか違うの?」
ジュウケンやジッケンなんて言われたところで、悪いが違いが一ミリもわからなかった。
発音がネイティブかそうでないかの違いではないのだろうか。
(え、てかもしかしてこの人ってば俺が思っているよりもずっと有名だったりする?
「驚いた…自分で言うのもなんだけどクレナディアの十賢て言ったらこの大陸の人なら誰でもわかる程度には有名だと思っていたよ……
それはね、クレナディアの武を支える10人の魔法使いと10人の剣士の呼称だよ」
なんだか凄そうだった。だとするともし先程あのまま戦闘になっていたとしたら俺は20人の強者と戦う事になっていたわけだ。
(――――――あっぶね)
「あー、そういう事ね…ちょっと最近そういうのに疎くてね…年のせいかも…」
そう言うと友人君は苦笑いしながら言った。
「年は僕とあまり変わらない様に見えるけどね…
まぁ僕なんてその中でもだいぶ弱い方だし僕には大分過ぎた身分なんだけどね」
「あら謙虚。でも衛兵達の対応を見る感じ友人くんもスゴイ慕われてる様な感じがしたけどな」
「人望と強さはまた別物だからね」
(お前がそれを言うか。お前どっちも持ってんじゃねえか泣かすぞ)
空腹も大分限界に近付き、心の奥底の方からドス黒い負の感情が沸き上がってくるのを感じる。
背後から今の俺に出せる限りの殺気を送り続けるが友人くんは気付かない。
(今なら…、今ならノーリスクでヤレる…!)
「もうすぐ着くよ!うちで出せる最高の料理を用意するから楽しみにしててね」
――――――――やっぱり好き
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