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世捨て魔王  作者: R氏
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走れユージン




「は?なんでまだいんの?早く行ってこいよ」


 僕は走る。出来る限りの最高速で。

 あの男の気分が変わらないうちに。


 (…恐らくあの男の気分次第でこの帝国はとてつもないダメージを負う事になるだろう)


 正直、僕は自分の事を世間の平均と比べて結構強い方だと思っていた。

 実際今の地位は十賢、この帝国の中で10人の魔法使いにしか与えられない称号を持っているし国民の皆も僕の事をとても頼りにしてくれている気がする。


 あの日アルシェ様に拾われた僕は、今まで以上にがむしゃらに魔法の鍛錬に勤しんだ。 必要無いと思われたその時に、僕の大事な人達がどうなってしまうのかわからなかったからだ。

 あの時アルシェ様が言った様にディアナ王国は隣国をどんどん飲み込み、あっという間に帝国と呼ばれるまでになっていった。

 そしてその際に他国から有望な人材をどんどん引き抜いていたアルシェ様はナディア王国改めクレナディア帝国を建国すると同時に、国内で最も優れた10人の剣士と10人の魔法使いを集め



 ――――十剣『じっけん』と十賢『じゅうけん』を作った。


 この中に入っている者達は明らかな化物揃い、僕はなんとかかろうじて9番か10番目にギリギリ入れているといった感じだ。

 だが正直僕はこのメンバー以外の相手には負ける気がしなかった。

 流石に最上位の冒険者ともなってくると話は変わってくるのだが。


 そんな時に今回の事件は起きた。

 いつも通り魔法の研究に必要な物を買うために王都から出て平民街まで買い出しに来ていた時だった。血相を変えた衛兵が何人か街を走り回っているのを見かけた。

 周りの人達も驚いているし彼等を一旦落ち着かせた方がいいだろうと思って僕は声をかける事にした。


「おいおいどうしたんだい。みんな驚いているよ?」


「っゆ、ユージンさま!事件です!詰所の方に化物……化物がいるんです」


「化物…?モンスターって事かい?それならその辺にいる冒険者とでも協力して倒せばいいじゃないか」


 ここ最近しばらく戦争も起きていないし兵達も平和ボケしているのかもしれない。

 これはちょっと軍のお偉いさん方に注意でもしてもらった方がいいのかもしれない。なんて考えていると


「違うんです!人間…多分人間なんですけど…

 見た事も無いような魔法を使っていて…それも無詠唱で――!」


 (見た事も無い魔法……?それはちょっとだけ気になるな)


 どこか別の国の冒険者が衛兵や商人達の前で調子に乗っているとかそういう感じなのかもしれない。

 これはちょっとお灸を据える必要があるかもしれない、自国の領内で他国の人間にそんな舐めた真似をされているなんて広まったら事だ。


「…しょうがない。じゃあ僕が行くよ」


「ほんとうですか!?ありがとうございます…!十賢のユージンさんが来てくれれば百人力です!」


 そう言い胸を撫で下ろす衛兵、大げさ―――では無いのだろう恐らく。

 一応とは言え十賢である僕が行ってどうにもならない状況だとすればそれは中々の事件だ。


 とりあえずパパっと行って鎮圧して研究に戻ろう。



 ――――なんて思ってた頃の自分の頭をはたけるものならはたきたい。


 詰所に着き、そこで見た光景は一言で"異常"

 それ以外に形容する言葉が見つからなかった。


「なん…だ?あれは…」


 ――――そこには小さな太陽があった。


 いや冷静に見れば恐らくあれは上級魔法のインフェルノなのだが、そんな物をこんな所で見る事になるとは思ってもみなかったので少しだけ頭が混乱していた。


 (上級魔法か。あれを使えるとなると……なかなかの実力者みたいだな)


 そう結論を出そうとしたところで衛兵の言葉が脳内を過る。

 あの魔法を無詠唱で行使したというのか。そんな事人間に可能なのだろうか。

 少なくとも自分には到底不可能な芸当、十賢の中にもそんな事が可能な者がどれだけいるかわからない。

 そもそも他の十賢の実力など僕にはほとんど把握できていないのだが、無詠唱の上級魔法なんてその難易度は恐らく帝級程度はある筈。


 魔法の階級には低級、中級、上級、帝級、超級、神級がある。

 だがそもそも超級や神級なんてモノは使える者もほとんどいない神話の中の話だと認識されている。

 かろうじて超級ならば十賢レベルの魔法使いが束になればどうにか行使出来る可能性があるが。


 よって事実上の最強の魔法は帝級という事になる。普通の魔法使いに使えるのは中級まで、上級を少しでも使えればその魔法使いは一流と言って差し支えない。

 実際僕が行使出来るのも上級魔法まで。よって些か単純過ぎる目算ではあるが、あそこにいる男は恐らく僕よりも強いという事になる。

 勿論だが使える魔法の種類だけで人の強さは決まらない。魔法の相性や駆け引きだってある、更にはそこに体術や武技といったモノも関係してくるからだ

 だがそもそもの話僕は体術は苦手だし、どちらかと言うと戦闘よりも研究の方に特化している魔法使いなので僕が彼に勝てる可能性は限りなく低いと思えた。


 なによりも驚愕すべきは、あんな大魔法を使っているのにも関わらずあの男が平然とした顔で会話をしている事だ。

 どれだけ莫大な量の魔力を有しているといえばあの様な芸当が出来るというのだろうか。

 半ば白旗を上げている様な状態ではあったが僕は勇気を振り絞り彼との対話を試みた

 そうした結果、彼の言っている事は正直―――理解が出来なかった。


 彼の言い分をまとめるとつまりはこういう事だった。


 "強い人が沢山いるという帝国に興味本位で来た。けど国に入る為だけなのにわざわざ長時間並ぶのはイヤだ。だから凄い魔法を見せて衛兵をビビらせたらその流れで中に入れるかと思った"



 ――――意味がわからない。もはや彼は只の馬鹿なのかもしれないとさえ思った。


 常人だったなら間違いなくこんな思考には至らない。

 だがそれ以上に不思議な事に彼からは嘘を言っている様な気配がしないのだ、更に言うなら特別善人でも無さそうだったが別段悪人という感じもしない。


 本当に中に入れるならそれ以上は何も求めない。という感じが真摯に伝わってくるのだ。


 理解の及ばない状況に色々とハッパをかけてみるも彼は一切動じなかった。


 終始やるならやるよ?みたいなスタンスだ。

 それもそうだ、あれだけの魔法を使えるのだから自分の力に自信があるのも当然といえば当然なのかもしれない。

 警戒を怠るべきで無いのはわかっているが、彼という不思議な存在に興味を持ち始めている自分がいる事もまた否めなかった。


 だがこれは明らかに僕の手には余る案件だった。

 そう思った僕は、僕の直属の上司であり更には王の側近でもあるアルシェ様に判断を委ねようと思いその旨を彼に伝えた。


 すると彼は渋々ではあったが了承し魔法も消してくれた。

 そうと決まればすぐにでもアルシェ様の所に行こう。と僕が振り返ろうとしたその時



 ――――事件は起きた


 なんと僕よりも少しだけ彼の近くにいた衛兵の一人が彼に飛び掛かっていったのだ。

 極度の緊張から急に解放されたからなのか、魔法を消した彼に接近戦でなら勝てると思ったのか、僕は当然止めようとした。だが距離が離れ過ぎていてどうする事も出来ない

 せっかく穏便に済みそうだったこの場をかき乱してくれた衛兵の暴挙を恨みつつも、僕はその顛末を遠くから見届けることしか出来なかった。


 ――――次の瞬間


 飛び掛かっていったはずの衛兵が、何故か僕のいる門の所まで吹き飛んできていた。

 この僕にしてなにが起きたのか全然わからなかった。


 比喩でも誇張でもなんでもなく――――見えなかった。

 なにが起きたのかもわからなかった。魔法を使ったのか体術を使ったのかもわからないが、彼は当然の様に無傷で何食わぬ顔をしたままそこに立っていた。


 僕は人前では中々見せる事の無いであろう間抜けな顔をしていたと思う。

 そんな僕の方を見て彼は言った。



「は?なんでまだいんの?早く行ってこいよ」





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