ユージンの回想
僕の名前はユージン。クレナディア帝国に仕えている魔法使いだ。
そんな僕が生まれたのはスロータント王国という所、国自体はそこまで大きいわけではなかったけれど、貧困なども無く豊かで何よりも平和な国だった
僕の家はスロータント王国の中でも中々に位の高い貴族家だった。その家で長男として生まれた僕は5歳の頃だったろうか、幸運な事に自分が魔法の才能に恵まれているという事を知った。
それからの僕は日々魔法の鍛錬に勤しんでいた。お父様に連れられて貴族同士の交流会なんかにもよく顔を出していたので、まだお互い子供だったが可愛い『婚約者』なんてのもいた。
――――だがそんな順風万端な日々は突如崩壊を告げた。
噂はちらほら聞いていた。隣国のディアナ王国の王が代替わりし、そこの新王が稀代の野心家だと言う話。更にはその側近にとても軍才に秀でた魔術師がいる。と
だがまさかこんな平定の世に隣国に戦争を仕掛けてくるだなんて誰1人として夢にも思っていなかった。
ディアナ王国の侵攻の手はとてつもない勢いでスロータントの王都周辺にまで伸びてきていた。
「お父様…。この国はどうなってしまうのですか?」
「心配するな。――大丈夫だ。お前たちは私が命に代えても守って見せるさ」
お父様はとても頼りになる人だったがその時の言葉はただの強がりなのだろうと子供の僕にもわかった。
そして多分僕は調子に乗っていたのかもしれない。挫折を知らない日々、周りには神童だ天才だと持て囃されて。
――――だからあんな行動に走ってしまったんだと思う。
「貴方!ユージンがいません!」
「なんだと!? ちゃんと探したのか?いつもならこの時間は部屋で勉強している時間だろう!」
「いないの!どこにも…。――まさか外に…っ」
「外だと!?外は今戦いの真っただ中だぞ!」
――――僕が皆を守ろうと思った。今まで育ってきたこの国も、優しくて美人な母さまも、威厳があってかっこいい父さまも――――そして可愛い僕の婚約者も。
僕には魔法がある。僕の魔法はスゴイはずなんだ。
だが一歩街中に足を踏み入れた所でそんな自信は一瞬で消え去ってしまった。
「――え…。なに――これ」
そこにあったのはまさしく地獄絵図。そこらかしこに飛び散っている血痕、身体のパーツを欠きピクリとも動かない死体、逃げ惑う人々を後ろから切りつける見慣れない鎧を来た兵士達。
「やめて……――――やめろよッ!」
無意識だった。気が付いた時には僕は初級魔法のファイヤーランスを敵国の兵士に向かい飛ばしていた。
「――――っな!」
ドンッ!
その兵士は魔法をぶつけられたその勢いのまま壁に叩き付けられ動かなくなった。
(え…。死んだ…の?僕が…?殺した?)
「――――ウェええええッッ」
そのまま燃え出した兵士の亡骸を見て僕は吐き気を我慢することが出来なかった。
(なんだよこれ…。魔法ってこんな風に使うものだったの?いやだ…こんなのイヤだよ…こわいよ…)
そんな混濁しきった思考の中、まっさきに思い浮かんだのは婚約者の顔だった。
「――――行かなきゃ…サラの所に…」
彼女の家は僕の家よりも位が低かった為此処よりも下の方に屋敷がある。今まさに戦場となっているあの沢山火の上がっている辺りだった筈だ。
僕は無我夢中で走った。その間に遭遇した兵士はみんな殺した。
一人殺すのも何人殺すのも同じ。決してそんな風に開き直れたわけではなかった……只々必死だった。
(――――殺さなきゃ殺される。僕だけじゃない、僕の大切な人達まで殺されてしまうんだ…!)
とめどなく込み上げてくる吐き気を無理やりに押し留めて走り続ける。
「あった!――――サラの家だ!」
やっとの思いで辿り着いたサラの屋敷、だがそこにあった屋敷は昨日までとはまるで別の物だった。
屋敷の一部は燃え盛っていて、壁のいたる所に血が飛び散っている。あの中にまだ生きた人間がいるとは到底思えなかった。
それでも行くしかなかった、なぜなら彼女は僕の婚約者なのだから。
じわじわと全身を飲み込もうとしてくる絶望に折れてしまいそうだった膝に無理やりに力を込めた。
屋敷の中に入った僕は真っ先に彼女の部屋に向かった。不思議な事に敵兵の姿は無かった。
なぜ敵兵の姿が無いのか。そんな事を考える余裕なんてその時の僕にはなかった。
頭の中にあるのはサラの事だけ。
そしてようやくサラの部屋を見つけた。だが何故かサラの部屋の扉は空きっぱなしになっていた。
(――――どうして?ドアは閉めていないと危ないよサラ。もし敵兵がここまで来たらすぐに入って来ちゃうじゃないか…)
最早まともな思考力など残っていなかった。
部屋の中に入ると漂ってくるむせかえるような血の匂い。その匂いの根源まで辿っていくと、部屋の真ん中にサラの両親の亡骸が血だらけになって折り重なっているのを見つけた。
――――なんて事は無い。ここに敵兵の姿が無かったのはもう用が無かっただけ。
もう用は――――終わっていたのだ。
「え…サラ――は…?」
頭がボーっとしていた。何も考えられない、何も考えたくなかった。
今にも心が壊れそうだったその時―――どこからか声が聞こえた。
「ほう…外で様々な魔法を放ち我が軍の進軍を手こずらせていた少年というのは君の事かな?」
振り返るとそこには、20代前半くらいの見た目をした銀髪の男が立っていた。
その顔はとても美しく、こんな血だらけの戦場に相応しいとはとてもじゃないが思えなかった。
――――異常な程の鋭い眼光を放っていたその赤い瞳以外は
「だ、だれですか?」
「私はディアナ王家直属護衛団――――団長のアルシェだ」
(ディアナ王国の兵士…!まさかこいつが!)
「……貴方がサラのお父さんとお母さんを…?」
「知らんな。私は面白い子供がいるとの噂を聞きつけ、つい今しがたここに来たところだ――――だが、これは戦争。その者たちを殺した者を恨むのもお門違いだと思うがな」
「そうですか…?たしかに僕もここに来るまでに沢山の人を殺しました。でもそれは彼等が敵意を持ち襲い掛かってきたからだ!この人達は誰にも敵意など抱いていなかったはずだ!
僕の大事な人達を傷つけた貴方たちの事を僕は許せそうにありません」
「ふむ。大事な人と言うのはそいつらの事か?
それとも先ほどから名前が出ているサラと言う少女の事か?」
「どっちもです!」
「そうか、ではいい事を教えてやろう。恐らくサラという少女は生きている。ただ今は捕虜として捕らえられているだろうがな」
「――ッ!ほんとですか!?サラはどこに!?」
「サラとやらを助けたいか?――――貴様が今感じている憤りと悲しみを抑える事が出来るのであれば助けてやらん事も無いぞ?」
(僕がこの憤りを抑えたからと言ってなんだというんだ?この人は何を考えてる…?)
だがサラが生きている。サラの為だと言うなら僕は大抵の事は我慢出来る自信があった。
「…見返りは?」
「ほう。子供の割になかなか察しがいいな――――我がディアナ王国の力となれ。さすれば貴様の命と大事な者の命を助けてやろう」
「ディアナの力に…?」
「我が国はこれからどんどん大きくなる。近隣諸国を全て飲み込み一つの大国になるのだ。だがその為には力がいる。そして運のいい事に貴様は中々筋がいい。私は才能ある者を殺すのは好かない
さぁ――どうする?」
この人が言っている事は恐らく本当の事なんだと思う。そもそも僕相手に嘘をつく必要がないのだ。
戦う素振りなんてこの人は一瞬たりとも見せていないがわかった――――圧倒的な格の違い。
この男にわざわざ僕を油断させる意味も必要も無いのだ。
「……お願いがあります」
「…ほう。捕虜を解放する上に更に要求があると?面白い言ってみろ」
「僕の両親だけでも助けては頂けないでしょうか…両親とサラ、その命だけ保証して頂けるのなら僕はこの身を一生ディアナ王国に捧げると誓います」
「ふむ……まあいいだろう一貴族と捕虜一人。それぐらいなら私の裁量でどうとでもなる――――だが…その誓いを破った時、どうなるかは…わかっているな?」
瞬間、僕の覚悟を試すかの様にとんでもない濃度の殺気が僕の体を締め付けた。
(なんて綺麗で……悍ましい瞳なんだろう)
「……もちろんです」
こうして怒涛の一日は終わり、
僕はこの日スロータントの貴族から――――ディアナ王国の兵士として生まれ変わった
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