はぁ...早く行けよ
「ちょっと待つ。君は誰?」
突然現れたイケメンに問いかける。
「貴様ッ!どれだけ無礼な奴なんだ!十賢のユージン様を知らないのか!?」
先程俺を見下し憎らしい顔をしていた衛兵がこちらに向かいなんだか怒鳴っている。今の今まで死にそうなくらい取り乱していたのに凄い変わり様だった。
それはまさに水を得た魚の様で、恐らくはあの現れた優男は帝国の中でも名の知れた有力者か何かなのだろう。
(正直ぱっと見では全然強そうには見えないな。だがそんな事言ったら傍から見れば俺の方が余程弱そうに見えるだろうし見た目だけで判断はしない方がいいだろうな)
「僕はユージン。君は見た所、旅人か冒険者の様だけど…帝国になんの用かな?
見た所君1人の様だし戦争をしかけに来たって感じでも無さそうだけど」
『戦争』なんて単語が出てきたことに少なからずの驚きがあったが、出来る限り平静を装い応対を試みる。
「その通りだよ。俺は駆け出しの冒険者で今は旅人だ。ただ知り合いから帝国には強い人がいっぱいいるって聞いたから観光がてらに遊びに来ただけなんだ」
嘘は言って無い。強い者達を見つけ彼等の魔法やスキルを盗みに来た。なんて言える筈も無い為これが一番無難な答えだろう。
「とりあえずその話を信じるとして…――――だったらどうしてそんな物騒なモノが浮かんでるんだい?」
……まぁそれは当然の疑問だった。
みんながどういう反応をとるか興味があったから…
あわよくばその流れで帝国内に入れるかもしれないと思ったから…
――――とは言えない空気だった。
だがそれが真実だし、口先だけの嘘をついても状況は悪化の一途を辿りそうだった為ここは素直に言ってみる事にした。
「うーん……俺って昔から何かを待つのって苦手でさ、さっさと通して欲しいって言ったら断られちゃった上にちょっと感じの悪い事を言われたからムカついちゃってさ」
――以下ユージンの脳内――
(なにを言ってる…?まさか本当にそんな理由であんな大魔法を行使してるって言うのか?
あり得ない…あれは上級魔法のインフェルノ。あんな風に球状に固定してるのは初めて見るがどちらにせよ尋常じゃない量の魔力が無いと使えない筈、それをただ早く中に入りたいから。なんて理由で使うか?
しかも「ちょっとムカついちゃって」って、普通に頭がおかしい。
――――殺されたいのか…?
いや、もしこちらがその気になってとしても殺されないだけの自信があるって事か…?)
「そんな事をして、もし中に入れたとしても不法入国扱いで罪人になるのはわかっているのかな?」
(え、そうなの!?そんな大事になっちゃうの?これ)
レベルも大幅に上がって結構強くなった。とは言っても流石にこのバカデカい帝国と一人で戦って勝てるなんてそこまでは俺も思い上がっていない。
だがここまで来たらこのままのキャラで行くしかない。謎のプライドが邪魔をして折れる事を許してくれない。
もうこうなったら最悪レスティア王国の名前を出してエド達に責任を被って貰うのもやぶさかではない。
「あ、そうなの?でも俺を捕まえられるの?――――君らで」
俺がそう発すると目の前の男の表情が一瞬にして強張った。
まさかこちらが内心ではビビっていて今すぐにでも魔法を消して全てを無かった事にしてすぐにでもこの場から消えたいと願っているなんて欠片も感付いていない様子だ。
(やはりこの男この魔法以外にもまだなにかあるな。どうする…多分――いや間違いなく僕一人では止められない。だが中から応援さえ呼べれば何とかなる筈。
それはそうと……何故かこの男からは悪意や殺意の様な物を全く感じないのも気がかりだ。まさか本当に観光に来ただけだと言うのか?
ならばこれだけの力、上手く懐柔出来たなら帝国にとってプラスになる可能性もあるんじゃないか?)
「それはわからない。確かに僕一人だと難しいかもしれない」
ユージンの口からそう零れる。すると途端に辺りが騒々しくなった。
「うそだろ…?だってユージン様はあの十賢だぞ?」
「ユージン様で止められないなら俺たちはもう終わりだ…」
「やっぱり逃げろぉおおおおおお!!」
そんな喧騒を切り裂くようにユージンの声が響いた。
「だが!――――この国には僕よりももっと強い者達がいる!僕と彼らを全て敵にして果たして君に勝ち目があるのかな」
途端に流れが変わった。まさかこちらを脅しているのだろうか。
対峙した相手の強さがわかる様な、熟練した戦士などでも無い俺ではあったが先程の動揺していた感じや雰囲気からして目の前のこの男は大して強くなさそうな気がしていた。
こいつレベルの人間があと何人か増えたところで自分が負けるとは到底思えなかった。
それに、そんな自分よりも格下だと認識している男からの脅しは今の増長しきってる俺には逆効果でしか無かった。
「さあ、どうだろう。興味があるならやってもいいけど――――やってみる?」
依然として荒事に対して前向きなこちらの態度に辟易としている様子のユージン、綺麗なブロンドの髪を指先で搔きながら溜息をつく。
(まったくブレないなこの男……嫌気がさしてくる……どうするか。そもそもこの男の本当の目的はなんなんだ。それがわからないと交渉の仕様もない)
「君の本当の目的はなんなんだ。それ次第でこちらの対応も変わってくるから本心を教えては貰えないだろうか」
「だからただの観光だって!いろんな強い奴等を見てみたいだけなんだって本当に。中に入れてくれるんだったらすぐにでも"コレ"も消すし」
(……本当にそれだけなのか?でも冷静に考えたら他の国の間者やスパイの類だとしたら国に入る前にこんな騒動を起こすだろうか。
ただ単に短気なだけの馬鹿だとでも言うのか?
だがこれだけの力を持つ者が短気って…もうそれだけで十分要注意人物なのだが……
どちらにせよこれは僕の裁量だけで判断できることじゃないな)
「すまないが一度帝都の方に戻って確認を取って来てもいいだろうか。
ちょっと僕個人の意見でどうこう出来る問題ではなさそうだ」
(結局!?じゃあ今までの問答はなんだったんだよ!
それにさっきの周りの反応からしても結構凄い人なんじゃないの?君。
その君に判断できない事案てなによ。もしかして王様とかにまで話行く感じ?なにそれ恐い)
今すぐ全て無かった事にして全力でナッシュ村まで帰りたくなってきた。
「出来るだけ急いで戻ってくるから頼む!あと、みんなが恐がっているからその魔法をそろそろ消してくれないか…?」
「まぁ恐がらせる為の魔法だったからな。じゃあ信じて待ってるから出来るだけ急いでくれ」
そう言い俺はとりあえず疑似太陽を消した。
――――次の瞬間、急に緊張の糸から解放されて気でも触れたのか衛兵の一人がこちらへと切りかかってきた。
「――う…うわぁああああああああああっ!」
「――なっ!なにを!?やめろ!」
ユージンが慌てて止めようとしていたのが見えたがいかんせん場所が遠すぎた。
(どうしようかなこの衛兵……魔法を消したから俺にはもう何も出来ないとでも思ったのだろうか)
それとも生物としての本能的な何かで飛び掛かって来てしまっているのか。実際のところがどうなのかは本人に聞いてみるでもしない限りわかりもしないが降りかかる火の粉はなんちゃらってやつだ、飛び掛かってくる衛兵の剣を身体を半回転させながら避け、そのままの勢いで脇腹を蹴り飛ばす。
――――ドゴッ――――ダーンッ!
鎧の上からとはいえ脇腹への蹴りをモロにノーガードで食らった衛兵は、10メートル程吹き飛んだ末、壁に衝突してそのまま動かなくなった。
――――え、死んだ?
流石にこんな所で人を殺すつもりなんてなかった俺は、吹き飛んで行った衛兵の元までダッシュで駆け寄りヒールを何度も何度も重ねがけする。
安直に鎧の上からだから平気だろうなどと思っていたのだが俺の身体能力は自分が思っていた以上に人間離れしていた様だ。
「――…ッグ!」
(よかったぁ生きてたー…)
息を吹き返した衛兵の様子にただただ安堵の溜息が漏れる。
ただ軽い悪戯心で脅して中に入ろうと思ってただけだったのにまさかこんな展開になるなんて思ってもみなかった。
だがこちら側のはただの脅しだったが、この衛兵は実際に切りかかって来ていたのだ。自業自得と言えば自業自得の様な気もする為申し訳なさの様な感情は微塵も無かった。
とりあえずの生存を確認できた衛兵から意識を外し改めて辺りの様子を見渡すと、唖然としている衛兵達に混じってユージン?も唖然とし変わらぬ場所に立ち竦んでいた。
―――いやお前は唖然としてる場合じゃないだろ。
「は?なんでまだいんの?早く行ってこいよ」
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