はぁ...誰の?
その後も延々と走り続けた俺は、予定の3分の1程の時間で無事帝国へと到着した。
それにしても改めてこの身体は凄い。何が凄いかと言われると驚くべき事にこの身体はいくら走り続けても全く疲れを感じないのだ。
これがレベルが上がった恩恵なのだろうか。こんなの更にレベルを上げ続けていったらいったいどうなってしまうのか想像もつかない。
色々と状況を把握した上で改めて振り返ってみると、今まで色々と疲労を感じていたのはその大半が精神的な疲れから来ていたモノだったのかもしれない。
実際本当に冗談抜きで一生走り続けられるんじゃないか?というくらいに全然疲れない。もしこれで【眠気耐性】の様なスキルまで手に入れてしまった日にはもう――――
(…いやなんもないか。別に今俺仕事してるわけでも無いし普通に寝た方がいいわ。うん)
「まぁそんな話はどーーーでもいいんだよッ!」
無事帝国に着きました。目の前にそびえ立つは城壁?国壁?よくわからないがなんだか物凄く仰々しい壁。
今俺の視界を埋め尽くしているのは地平線まで続いてるのでは無いかと思うくらいの広大な壁だった。
オルフが大体の方角だけを教えてくれたのはきっとこういう事だったのだろう。この巨大な壁を見逃す事など到底あり得ないだろうから。
(とりあえずこの壁の向こうにあるのが何らかの国か街なのは明らかなのだが……これが帝国で合ってるよな?)
ただの感覚的なモノなのだが帝国っぽいと言えば帝国っぽい様な気がする。俺が何も知らない状態でこの景色を見せられて
「ここは王国、帝国、法国どれでしょう」
そう聞かれれば間違いなく
「帝国だと思います!」
そう答えてしまうくらいにはここは帝国帝国していた。
「てかどんだけ帝国って言ってんだよ俺は…なんか混乱してきたわ」
(こんな時に【状態異常耐性】があれば…
いや効かん!絶対効かん!!)
「………」
とりあえず詰所に向かう。流石と言うかなんと言うか、詰所の前には並ぶのも馬鹿らしくなるくらいの長蛇の列が出来ていた。
荷馬車に乗った商人らしき者や冒険者らしき者達が、皆談笑したり各々色々な事をしながら自分の番を今か今かと待っていた。
「…これは待つしか無いかなぁ」
その時俺は普段の俺なら絶対に行わないであろう選択肢を思いついてしまった。
オルフの時とは状況がだいぶ違う。恐らく「悪ふざけでした」では済まないであろう事も明白
(ちょっと強引に行っちゃおうかな?いやーまずいかな?
――――行っちゃいましょう)
これから起こるであろう事を想像してにやける口元を抑える事が出来ない。
それまで力を持たなかった者が、急に凄まじい力を得てしまった。
これは単純に「腕力」というわかりやすい『力』に限った話では無くお金然り、権力も然りだ。それは本当に恐ろしい事の様に思う。
今までそれを持たなかった分持ち得た時の反動も強く、勿論正しい使い方だってわかる筈も無い。
悪戯に周りを傷つけてしまう事だってあるだろう
不用意に周りの反感を買ってしまう事だってある
そして大体の人間は決まって、その後に後悔をする事になる
そして当然俺自身も、その『大体』から漏れる事は無かった。
俺は並ぶという選択肢を捨て、行列の横を歩き続けた。そして多くの衛兵達が色々とチェックしている横をさも我が国顔で、さも顔パスが当たり前かの様に何食わぬ顔で通り抜けようと試みた。
「おい貴様!止まれ!」
そして当然の様に止められあっという間に5人の衛兵に囲まれる。
時折こういう輩がいるのだろうか、周りの人間が大して動揺していない様子なのに加え衛兵も全員が俺の元に来る様な事も無かった。
(まぁそりゃ止めますよね。どっからどう見ても普通の旅人以下の辺鄙な恰好してるもんな)
予想通りとは言えこうなってしまった以上、白々しいが一応の言い逃れを試みる。
「あれ、通っちゃまずかった?ここが入り口だよね?」
「何を言っている貴様!この行列が見えないのか?帝国領土内に入りたいのであれば黙って列の最後尾に並びなおせ!」
こう見るとやはりオルフは優しかったのだと気づかされる。この衛兵達もこれが仕事なのだから仕方が無いことなのかもしれないが少々カチンとくる言い草だ。
「いやでも俺怪しい者とかじゃ無いし早く中に入りたいんだけどな」
「それを決めるのは貴様ではなく我々だ。しかし貴様の様に珍妙な恰好をし、あまつには世間の常識すら知らない様な者が我が帝国領土内に簡単に入れるとは思うなよ」
そう言い、何故かこちらを見下す様な顔で見てくる衛兵。もしかすると旅人や冒険者という職種は世間では見下される様な存在なのかもしれない。
勿論高位の冒険者や有名な商家になると違ってもくるのだろうが。俺は転移してからこのかた年下にしか見られた事が無い。だから当然の様に低位の部類だと思われているのかもしれない。
確かに怪しい者かどうか決めるのはそっち側って部分はごもっとも。だがあまりの言い草に、俺は理不尽にも少なからずの苛立ちを感じていた。
更に言うなら昨日までの己だったならばこの程度の不快感など飲み込み、列の後ろに戻れたのだろうが――――如何せんタイミングが悪かった。
「まぁそりゃそうだ――――――でもさぁ」
その瞬間――――少なくとも10人はいたであろう衛兵達全員に後ろに並ぶ商人達、更には屈強そうな身なりをしていた冒険者たちも皆
――――――その場にいた全ての者が、ただ愕然と突如頭上に現れた"ソレ"を見上げた
「あんたらに俺を止められるの?」
皆の視線の先にあったモノ、それは詰所の門と同じかあるいはそれ以上の大きさをした火の玉。
もし魔法なんて知らない子供達がソレを見たなら、まるで太陽が落ちてきてしまったのでは無いかと思ってしまったとしても仕方がないかもしれない。
そう思わせる程にそこにあったモノは異様だった。
「――――黙って俺を通すのと、これで入り口を大きくされて無理やり入られちゃうの。どっちがいい?」
俺のその一言を皮切りに始まる阿鼻叫喚の騒ぎ
「――っな!」「う、うわあああああああああああああ!」「……化物――――魔族だぁああああああああ!」
「逃げろぉぉ!」「急いで応援を呼んで来い!こいつを絶対に中に入れるな!」
「止められるわけが無い…こんなやつを止められるわけない…。」
――――そして……当の本人は思っていたよりもひどい惨状にキョトンとしていた。
正直に言おう。完全に勢いでやってしまった為、今の自分の行動でどんな事になるかなど全く考えていなかったのだ。
(…なんだか思ったよりすごい状況になっちゃったな。どうしよう…)
ただ少しムカつく衛兵をビビらせてやろうと思っただけだったのだ。
当の本人がそんな間抜けな事を考えてるとは露知らず、辺りは今にも最終戦争でも始まりそうな空気だった。
使命感からなのかそれともなにか他に恐い存在でも後ろにいるのか、衛兵達は怯えながらも決して逃げようとはしない。
(もしかして帝国の中には俺よりも強そうな奴が沢山いて、そいつらが来るのを待っているとか?)
皆が皆ビビッて逃げ出すか、少なくとも戦意喪失すると思っていたが結果はだいぶ違った。
「あれ、思ってた反応と違うな…。死んじゃってもいいの?」
「黙れっ!貴様の様なヤツを中に入れては帝国全体の危機にもなりかねん。なんとしてでもここで止める…!」
(なんかかっこいいな…さっきまで凄い悪そうな顔をしてた癖に……)
(――――最早俺が悪者みたいじゃない?これ……でもどうしようかな)
当然ながら殺すつもりなど微塵も無かったのだが、かと言ってもう到底後にも引けない感じの空気。
(冗談でしたー!テッテレー!とか言って魔法を消したら許してくれたりしないかな……)
「んー…じゃあ本当にぶつけちゃうよ?」
「――――ッ!」
息を飲む音がここまで聞こえてきそうだ。最早脅しだけではどうにもならなそうで本当に困り始めていたその時、門の中の方から声が聞こえた。
「ちょっと待ってくれ!」
そこにいたのは――――慌てて走ってきたのだろうか。綺麗な金色の髪をボサボサに散らかし眼鏡も傾いていたが、温厚そうな顔にパッチリとした二重、隠しきれていないイケメンオーラを漂わせた魔法使いの様な見た目をした男だった。
「ユージン様ッ!」
「ユージン様だ!ユージン様が来てくれたぞ!」
――――――友人…?
誰の?
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