はぁ...なんかゴメン
「なんだよもう帰んのかよ。全然暴れ足りねぇぜ。ソルジャーもレイアにほぼ取られたしよぉ」
「サニスの馬鹿!レイアさんは助けてくれたんでしょ!取られたなんて言ったら感じ悪いから!」
ヒールでほぼ全回復したサニスはまだまだ暴れ足りないらしく、そんな悪態にも似た愚痴をこぼしていた。
そんなサニスをリーナが叱っていたが、俺としては特段気にしてはいなかった。
サニスという男は純一無雑なのだ。自分の欲に素直なだけで、無為に周りに負の感情をぶつけたりはしない男だと知り合って間もない俺にもわかっていた。
「全然気にしてないからいいよリーナちゃん。サニスもそんなつもりで言ったんじゃないだろうしね」
「たりめぇだろ?リーナはいちいち気にしすぎなんだよ。これだから女は――」
本日二度目の女性批判が始まりそうだったから俺がまたもアスロに出発を促そうとしたその時だった。
「ッギィヤァアアア!!」
突如聞こえてきた魔物達の雄叫びに全員が正面を見やる。すると正面からは10体はいそうなゴブリンの群れがこちらへと向かってきていた。
「ッ! なんでこんなに一気に!」
「おい流石にやべぇんじゃねぇか!?この数は!」
魔物の住処の中とはいえ、しばらく魔物の姿が見えなく緩んでいた先程までの空気が一瞬にして張り詰める。
アスロとサニスは急いで立ち上がり武器を構えたはいいが、押し寄せる魔物の群れにどう対応していいのかまるでわかっていない様子。リーナに至っては状況に理解が追い付いていないのか、それとも理解した上で諦めているのかわからないが、唖然と魔物達の方を見やっていた。
(――――どうすんだろこれ…)
どう見ても一番冷静なのは俺だった。だが新入り兼余所者の俺がこんな状況で指示を出してもいいものなのか迷ってしまっていた。
正直あの程度のゴブリンの群れに命の危機を感じる事は無いのだが、それでも万が一という事もありえる。自分が指示を出すという事はもしもの場合のその責任も自分が負わなければならないという事なのだ。
やがてゴブリン達との距離が半分程まで縮まった時、ようやくアスロの思考が落ち着きを見せた。
「――――引き返そう!僕が弓で牽制しながら殿を引き受けるからみんな走って!」
「わ、わかった!急ごうレイアさん!」
「じゃあ先頭は俺が行く!もしなんかあったら援護射撃頼むぞレイア!」
アスロの叫びにも似た指示を聞いて後の二人も慌てて動き出す。
誰かの援護なんてした事も無かったがここで意義申し立てなどしている余裕はどう見ても無さそうだった。
「わかった!」
そこからはひたすらに出口に向かって走った。皆疲れが溜まっているのか走る速度がとても遅くもどかしくも感じたが、そこに対して文句を言う程無神経でも無かった。
だがそんな速度で走っていた為ゴブリン達との距離は縮まりこそしなかったが広まりもしないままだった。
皆に合わせてゆるく走っていた為に俺の心にはまだゆとりがあった。そしてそのゆとりを有効活用する為に色々と思考を巡らせていた時、ふとこんなワンシーンが脳内に浮かび上がってきた。
「レイアさん…。――――後ろからなにか聞こえません?」
そんなリーナの声が脳内を反芻したその時だった。
「っ止まれ!」
先程以上に緊迫した様子のアスロの声が響いた。
やはりイヤな予感とは大抵当たるモノで、遠くの方から徐々に大きなシルエットが浮かび上がってくる。
(ゴブリン…?いや、ゴブリンにしては異様にでかいな)
「おいおいおいおいおい!ざけんなよマジで――っ!なんでこんなとこにオークがいやがんだッ!!」
そこにいたのはゴブリンとはまるでレベルの違う魔物だった。
ゴブリンとは比べるまでも無く、人間の倍近くはありそうな巨大な体躯。口から垂れている涎はまるでこちらの事を餌としか見ていない様にも思えた。
獰猛さを隠す事無くギラついた眼光をこちらに向け、奴は吼える。
「グウオオオオオオオォォッッ」
この状況は紛う事なき非常事態だった。
客観的に見て、あれとサニスが戦うのは相当にきつそうに思える。小さめのゴブリン程はある棍棒を持つオーク、その一振りをサニスが受け止めきれるビジョンがどうしても湧かない。
基本的には黙っているつもりだったがそうも言ってられなそうな状況、めくるめく状況にいちいち絶望の表情を浮かべるリーナもなんだか不憫に思えてきた。
「アスロ。前のオークより後ろのゴブリン達の方がモロそうだし、後ろに魔法を撃つからそしたら少し下がって態勢を整えてみんなでオークに当たろう」
先程まで自分からは何一つアクティブなアクションを起こしていなかった新人魔法使いの発言にアスロが当然の疑問を呈す。
「そんな事が…出来るのか…?――さすがに一回の魔法で10体以上のゴブリンを倒すなんて無理じゃないか?それにさっきも無詠唱魔法を使っていたし魔力だって…」
「出来るかどうかじゃないだろ?やらなきゃ死ぬんだ。やってみせるさ」
何故だろうか、オークは勿論の事ゴブリンだって元の世界で見ていたら発狂するぐらいに醜悪で恐ろしい風貌をしている。
だが今俺の心にはさざ波程度の不安すら沸き立っていなかった。
(俺の事を殺しかけたあの黒猪のお陰で色々な感覚が麻痺しているのかもしれないな)
甚だわけがわからないだろうが、自信満々に歩み出る俺の様子を見てアスロが後ろへ下がる。
皆が少し離れたのを確認したところで俺は目を閉じる。
(イメージしろ。この状況では一体すらも撃ち漏らしてはいけない。―――ゴブリン達を殲滅しうる火炎の流星を!)
やがて目を開いた時、俺の周りには二十を軽く超えるファイアーボールが浮かんでいた。
不思議と今まで魔法を使った後に感じていた様な疲労感や脱力感は無かった。もしかすると魔法は使えば使うだけ慣れて行くとかそういった事なのかもしれない。
視界は洞窟の中とは思えない程に眩く煌めいている。
目の前の異様な光景にアスロ達も、魔物達でさえも動きを止めて見入っていた。
「――いけッ!」
『ドドドドドドドォォォォンッッ!!』
紅い流星群が正面の魔物達に着弾すると同時に、耳を劈く様な轟音が洞窟内に鳴り響く。
こんな洞窟の中であれだけの爆発が起きたのだ。こちらの耳へのダメージも中々に馬鹿にならなかった。
(……てかミスった――――全然考えてなかったけど崩落とかしてたら普通に全員死んでたな…)
そんな一人反省会をこっそりと終わらせ、魔物達の方を見やる。無意識の上だったがリスクを冒した甲斐もあってかゴブリン達はただの肉片と化していた。
バラバラになった肉と内臓、よく見ると骨や眼球みたいな物までがあちらこちらへと散らばっている。
ゴブリン達の中に生き残りがいないのは明白だった為、すかさずその空いたスペースの方へと駆け出す。
「後ろが開いた!全員一旦下がって態勢を整えよう!」
ちなみにサニスはオークと向かい合っていた為、こっちの事は全く見ていなかったみたいだ。
でもだからこそ今の爆音に一番驚いていたのはサニスだっただろう。サニスは耳の痛みに大きく顔を歪ませていた。
そして何が何だかわからないと言った顔で、両手で耳を押さえながらこちらへと走ってきた。
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