はぁ...問題児
(はぁ…。戻ってきたはいいがどうしよう…)
よくわからないトラブルに巻き込まれ、それを解決し戻ってきた俺は改めて悩まされていた。
そもそもフィアはテントの中で何をしているのだろうか。日は沈んだとは言えまだ寝るには大分早い時間の様に思える。
これまでの人生で野営などした事の無かった俺には野営の常識なんてモノは一ミリもわからない。特にする事の無い今の様な場合は出来るだけ早めに睡眠をとり明日に備えるのが正しい姿なのかもしれない。
とりあえずいつまでもこんなところでウロウロしていても仕方が無い。兎にも角にも一度テントの中へ入ってみる事に。
エリスちゃんの時にも思った事だが、こちらだけが変に意識しすぎているのもなんだか気持ち悪いし情けない様な気がしてくる。
意を決してテントの中に入る……と、そこに広がっていたのはなんとも拍子抜けな光景だった。
(――――――フィアが……いない?)
肝心要であったフィアの姿がそこには無かった。若干の安堵を覚えたのも束の間、彼女がどこに行ったのかを考えてみる。
行くところなんて限られている。そもそもが大して選択肢も無い。
一つ、先程の俺と同じ様に外を散歩
だが個人的にこの可能性は低い様な気がする。感覚的なモノとしか言えないがフィアが一人で意味も無く散歩をしている姿が想像出来ない。
二つ、他の者達のテントに行っている
これなら散歩よりは有り得そうだが……だとしたら俺が思っていたよりフィアは意外に社交的なのかも知れない。俺と二人の時の馬車の中の空気からしてあまりそんな感じはしなかったのだが。
(え、もしかして俺が悪い?俺がコミュ障過ぎたからあんなに沈黙が続いたのか?)
そんな事実を認めたくはなかったが、正直に言うが俺は自分が社交的だとは到底思えなかった。
だから可能性としては全然あり得なくもない気がした。
(――――悲しい現実だが……)
とにかく現実的な選択肢はこの二つぐらいだろう。ただ実際フィアがどこで何をしていようと俺には関係の無い事なわけだしそもそもどうしようもないしどうでもいいのだ。
だとするならばこの場での最適解はやはり先に寝ている事なのかもしれない。
(いや待てよ…?先に勝手に寝てしまうのもそれはそれで感じが悪いのか?)
どんな結論に行き着こうとしてもなんだかんだで不安が残る。
「……あー、めんどくさい!なんで俺がこんなに気にしなくちゃいけないんだよ!」
(――――よし、寝る)
考えようによってはこれはチャンスなのだ。そもそもがこんな狭い場所で二人きりでいたら緊張して眠れなそう。というのが当初の悩みだった。
ならば今フィアがいないこの状況は緊張などする間も無く先にさっさと寝てしまえる好機でもあるのだ。
そう決断してからは早かった。俺はさっさと寝具の中に入って眠ることにした
――――おやすみ世界
目を瞑ってから10分程経った頃
「――――ぇ…」
(ん…?)
「――ねぇってばぁ…」
心地良く落ちていた意識が、何者かの呼び掛けによって無理やり呼び起こされる。
「……なんだよ…」
億劫ながらも目を開けると、そこではいつも通りの露出度高めの服に身を包んだフィアが上からこちらを覗き込んでいた。
(――いや胸!寝起きから胸が!幸せ…じゃない!何の用だよこんな夜中に…)
「ちょっとめんどくさい事になっちゃったんだけどぉ…。話聞いてくれない?」
寝起きの頭でもわかるくらいに、彼女は全然困っている様には見えなかった。今目の前にいる女はいつも通りの気だるげな様子にしか見えない。
「嘘つくな」
「嘘じゃないわよぉ…。下手したら貴方にも関係ある事よぉ?」
もう無視して寝てしまおう。と思った矢先、決して聞き捨ててはおけない言葉が聞こえた。
間違いなく今フィアは俺にも関係ある事だと言った。
(おいおいこいつこんな短時間で何したんだよ……)
少し目を離しただけですぐに厄介事を作れてしまう彼女の破天荒さに若干の畏敬の念すら払いそうになる。
彼女がいかに破天荒だろうがどうでも良かったが、それにこちらまで巻き込まれるとなると話が変わってくる。
(馬鹿サウロ……俺なんかよりこいつの方がよっぽど問題児じゃねぇか…)
なんにせよこちらまで被害を被る可能性のある事ならおいそれと無視は出来ない。未だ寝ぼけていた頭を無理やりに覚醒させ、とにかく話を聞いてみる事に。
「――はい。で?なんですか?」
「そんなあからさまに不機嫌なオーラ出さないでよぉ。今日私遅刻してきたじゃない?ちょっとその事で話がゴタゴタしちゃってね?アストラルに着いたらあの貴族の家に行かなくちゃいけなくなったの」
どこかしらには行っているのだろうとは思っていたがまさかあの貴族の所に行っていたとは夢にも思わなかった。
だがそれも聞いてみれば完全にフィア自身の自業自得の様な気がする。そもそもが別に屋敷に行くぐらいの事が何故イヤなのだろうか、そして何故それが俺を巻き込むなんて事になるのかもわからない。
「そうなんだ。別にいいんじゃないか?遊びに行ってご馳走でも食って帰ってこいよ」
「ご飯食べるだけで終わるわけないじゃない…。このままじゃ私があの男に好き放題されちゃうかも知れないのよぉ?ほっといていいのぉ?」
(――――こいつは何を言ってるんだ?)
妄想も大概にして欲しかった。こんな与太話を聞かされる為にわざわざ寝ている所を起こされたとあっては流石にそろそろ本当に腹が立ってきた。
そもそもがその話が本当だったとして、別にフィアがどこの誰にどんな目に合わされようが俺には微塵も関係の無い事なのだ。自分の遅刻から始まった問題なのに本当に俺が助けてくれるとでも思ったのだろうか、というかフィア自身冒険者なのだから自分の身くらい自分で守ればいいだろう。としか思えなかった。
「妄想しすぎだ。遅刻ぐらいでそんな事になるわけないだろうが」
「まぁ普通だったらねぇ…。でもあのクイーラにはそれぐらいの力があるわ。なんだか貴方は彼の事を馬鹿にしている様だけど、本当に結構凄い人なのよぉ?」
俄かには信じ難い話だったがそれも今の俺には関係の無い話だった。
俺自身勿論クイーラと事を構える様なつもりも無いが、もしそうなったとしても今の俺ならば奴がどれだけの力を持っていようとその全てをねじ伏せられるだけの自信もある。
(ていうかこいつだってサウロと一緒にPTを組むぐらいなんだから結構強いんじゃないのか?)
「偉い奴だからってなにしても許されるってのは気に食わないが。それでもその気になればお前だってあいつの私兵ぐらい倒せるんじゃないのか?」
「あら、かよわいレディに何を言うのかしらこの子はぁ」
「お前がサウロとPT組んでたの見てるんだから俺にそういう嘘が通じないのわかってるだろ」
「あー、そういえば初めて会った時ってサウロとのクエスト帰りだったっけねぇ。まぁ……普通の兵士達だけだったら何十人来ようが問題ないんだけどねぇ」
「……普通じゃないのもいるのか?」
「アストラルには四神柱ってのがいてねぇ…。その内の一人がクイーラのとこの護衛隊長なのよ。しばらく前の話だけども彼女は私と同じぐらいの強さだったからぁ、他の兵士達に彼女まで加わるとなると……ちょっときついかもしれないわねぇ」
『四神柱』聞いた事の無い言葉だったが、恐らくは帝国で言うところの『十賢』や『十剣』の様なモノだろう。
やはりどの国にもそういった武の象徴の様なモノがあるみたいだ。今の所は知らないがもしかするとレスティアにもそういったナニカがあるのかも知れない。
そしてその中の一人がフィアと同じくらいの強さだったという事だが、そもそもがフィアの強さがあまりわかっていないのであまり参考にはならない情報だった。
ただ、フィアがいくら強いと言ってもギルドマスターであるサウロより強いという事は恐らく無い。そう考えるとフィアのレベルは高めに見積もっても150程度だろう。
(――――150レベルが4人か……どうでもいいな)
「お前ならなんとかなるよ」
「ひどくなぁい?」
「ひどくない」
それからしばらくフィアがダル絡みをしてきたが無視して眠る事にした。
――――当初懸念していたエッチな展開になどなる筈も無かった




