はぁ...悶々
心優しき兵士達のおかげで無事野営の準備も終え、それぞれで食事を取っていた俺達。野営セットの中に入っていた簡易的な食事を終えた後、フィアはすぐにテントの中へと入って行ったが、俺はよくわからない入りづらさを感じ未だに外をウロウロとしていた。
(――――なんだこの初めてのキャバクラに入る前の少年の様な気持ちは…)
キャバクラなんて行った事は無かったが、恐らく似た様な感じなのだろうと思う。
何故だかやたらと緊張していた。俺の最近を知る者ならば、エリスちゃんとは同じ部屋で寝たくせに。なんて思うかもしれないがそれとこれとは全然違うのだ。
まず第一に空間の狭さが段違い。エリスちゃんの部屋は立派な宿屋とは間違っても言えない様な部屋ではあったがサイズ的には少し狭めの普通の部屋だった。
それに比べ今回の場所はテント。しかも別段広いわけでもない普通のテント、寝返りでも打とうものなら目の前に相手の顔がくる様な狭さ。
そして更に言うならその相手がフィアというのも大きい。エリスちゃんも確かに可愛いがあの子はまだ若干の幼さを孕んでいた。
何よりも彼女は本当にピュアで、異性と同じ空間で寝泊まりするって事に対してそこまで深い意味を感じていなかった様にも思えた。
そんな空気の中こちらが勝手に盛り上がって手を出してしまうなんて事も当然ありえないわけで。
(だがそれに比べてあの女は違う……あいつは…明らかに男を知ってやがる…。その上でのあの余裕……なんて恐ろしい生き物なんだ)
そんな経験値の差を抜きにしたとしても、フィアはどう控えめに言った所でナイスバデーな事には違いない。その上に露出度まで高いと来た。
そんなのを真横に置いて呑気に寝られる程、俺の男としての成熟度は高くない。
どうするのが正解なのか、決して答えの出なさそうな難題に悩みながらしばらく歩いていると、気付いたら結構な距離を歩いてきていた事に気付いた。
先程自分がいた場所―――皆が野営している辺りの灯りが微かにしか見えなくなっていた。
(あー……、戻りたい様な戻りたくない様な…。もうこのまま一人でアストラルまで飛んで行ってしまいたい…)
「――――だ――」
困った時は逃避に限る。そんな持論に従い逃げ出そうとしたその時、なにかが聞こえた。皆のいる野営地とは反対側の方からなにか人の声の様な物が聞こえた気がした。
(――――ちょっと行ってみるか)
別にこのまま放っておいてもよかったが自分が一応は護衛任務中だった事を思い出し、半分以上はただの興味本位だったが様子を見に行く事に。
するとすぐに怪しい二人組を発見した。粗雑な服装に腰からぶらさがっている剣―――どうポジティブに見ようとしても到底まともな職種についている者には見えなかった。
「あれか?」
「そうだな。昼間見つけた馬車だ」
「どうする?とりあえず頭に報告するか?」
「たいした護衛もいなそうだったし真ん中の馬車には貴族みてぇな服装をした奴もいた。ありゃ金になりそうな匂いがするぜ」
「盗賊ってやつですか?」
「おうよ。だがただの盗賊じゃねぇぞ。なんてったって俺達はここいら一帯で一番恐れられてると言っても過言じゃぁねぇグフィー盗賊団よ」
「そうだ。俺達の名前を聞いたら大抵の奴らは震え上がるぜ」
なんか遊園地のキャラクターにでもいそうな名前の盗賊団だった。
「そうなんですか。あそこの奴らを襲うんですか?」
「そうだぜ。ありゃぁいい金に……――――――って誰だてめぇ!」
どうやら彼等は素でコントの様なやり取りを交わしてくれていた様だ。あまりにも自然に会話が成り立ち過ぎていた為、途中からは気付いた上で自己紹介でもしてくれているのかと思っていた。
「俺も一応あそこで野営してる冒険者なんだけど……襲うのやめてくれない?」
我ながら頭のおかしいお願いだとは思ったが、不必要な戦いは出来るだけしたくない。争う事が無ければ彼等が血を流す必要も無いのだから。
「そりゃちょうどよかった。じゃあてめぇを人質にして奴等に揺さぶりでもかけてやるか!」
「自分から近付いてくるとは馬鹿な奴だ」
だがそうそう物事は上手く進まない、立ち上がった彼等はすぐさま俺の眼前へと剣先を向けた。
(まぁそりゃそうなるわな……)
微塵も圧を感じない剣先を見つめながら頭の中で色々と考える。
正直放っておいていい様な気もしたが彼等とあの兵士さん達が戦った場合、双方被害無しとはいかないだろう。
兵士さん達には恩がある。もし彼等がクイーラだけを狙ってくれると言うのなら別に構わないのだがそういうわけにもいかない。それに兵士さん達はクイーラの私兵なのだから主人が襲われていたなら当然奴を守る為に剣を抜くだろう。
(となると……やっぱりこいつらを止めるしか無さそうか)
「このままなにもせずに帰ってくれるんならなにもしないけど……?」
「そんなもったいねぇ事するわけねぇのは……わかるよな?」
「ですよねー」
もう会話は終わりとでもばかりに飛び掛かってくる二人組、二人とも獲物は片手剣の様な物だった。その剣は見るからに使い古されているモノだった。あの剣の錆の一部になった者も少なくは無いのかもしれない。
(だが…二人共同じ方向から向かってくるなんてな)
あまりにお粗末な特攻に内心でため息をつく、俺はまず右側の男の後ろに回り込み首の裏辺りに軽くチョップしてみた。
「――っがぁ!……いってぇ…」
だが―――そう上手くいくものでも無いらしい。もしここがドラマや映画の世界だったならばこれで気絶してくれる筈だったのだが。
「ふざけやがって…死ねごらぁ!」
そう言い再度息を合わせたかの様に同じ方向から突進してくる二人。
(もうめんどくさいし一旦普通に無力化するか。殺さなければならない程の脅威も感じないし)
俺は再度自分から見て右側の男の後ろへと回り込み、そいつの襟を掴んで顔面から地面へと叩き付ける。そしていとも簡単に失神してしまった相方を見て動揺する男、俺はその男の後ろにも回り込み同じ事を繰り返す。
無事気を失ってくれた二人を前に、俺はこれからの事をしばし考えていた。
「どうしよう…。なんか面白い奴等だったし殺すのも気が引けるしなぁ…」
このまま放っておいてもいいかとも思ったのだが、朝方こちらが出立する前に目を覚まされても面倒な事になる気がした。
という事で―――以前クレナの森で野営した時と同じの小さめのビルくらいの土の塔を建て、その上に二人組を放置しておく事にした。
「あの高さなら目を覚ましても降りてこられないだろ」
とりあえず盗賊の襲撃は未然に防げた。そう判断した俺は野営地へと戻る事にした。
フィアと同じ空間で眠る。という難題は未だ何も解決していないのに何故だか俺の気分はとても晴れやかだった。




