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世捨て魔王  作者: R氏
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はぁ...聖人だ



 レスティアを出立してから数日間――――俺達は何もない平坦な道をずっと進み続けていた。


「どうでもいいんだが……暇すぎる!」


 自分でもこんな道中に危険なんてあるのか疑問を抱いてはいた、いたのだがそれにしたって何も起きなさすぎる。

 たまに遭遇する魔物は見るからに低級の魔物ばかりで、こちらを襲う素振りすら見せない。

 フィアは賊の類もいるとは言っていたが、そんな輩が出てくる気配も一切無い。


 (……え、俺達いる?)


 そんな疑問が出てくるのも当然の事だった。貴族とはこんな平和な道ですら過剰気味の護衛をつけて動くモノなのだろうか。

 百歩譲って私兵以外の護衛をつけようとする事は理解できる。誰でも自分の命は大事なのだから。だがそれにしたってAランクの冒険者の力が必要だとは到底思えなかった。せめて護衛を頼むのならもっと生活に困っている様な低ランクの冒険者達に斡旋してやって欲しい。


 そして何より一緒にいるのがフィアというのが一番の地獄だった。彼女は基本的には何も話さないのだ。

 結果――――ただでさえ人見知りの俺に女性との会話をリードし楽しませるなんて事が到底出来るわけも無く、最後尾の俺達の馬車は異様なまでの沈黙に包まれていた。


「えーっと…フィアさん?」


「なぁに?」


「暇ですね…」


「そうねぇ」


「――――……」


 (いやキツイ!まじでキツイ!)


 変なタイミングでクレナやエリスちゃんの偉大さが身に染みてわかった。

 無邪気に楽しそうに色々と話しかけてきてくれていた彼女達、そのおかげだったのだあの楽しかった時間達は。

 別にフィアの事が嫌いなわけじゃない。むしろ見た目に関してだけで言うのなら正直かなり高レベルである事は間違いない。だが無口な女性との過ごし方は本当にどうしていいのかわからなくなってしまう。

 俺には今この空間が地獄以外の何物にも思えなかった。


 (――――これなら一人の方がよっぽどマシだった…)


 今のペースで進んでいくならアストラル法国に着くまでは最低でもあと数週間はかかる。

 こんな地獄の時間があと数週間も続くなんて考えるだけで鬱になりそうだった。


 (魔物でも盗賊でもいい、誰か俺達を襲ってくれ…)


 いつしか俺はそんな事を願う様になっていた。だが都合よくそんなモノが現れるわけもなく、それからも俺達は沈黙に包まれたままの馬車の中で無駄な時間を浪費していった。

 そしてやがて日も落ちてきた為、野営の準備をする事になった一行。


「野営って初めてなんだけどさ。俺なんも持ってきてないけど大丈夫なのか?」


「私も何も持ってきてないから大丈夫よ~」


 (……??―――――それ大丈夫じゃなくない?

 普通「私が持ってきてるから大丈夫よ~」じゃない?

 別に仲間を探していたわけじゃないんですけど?)


「え、外で寝んの?俺達」


 そう言うとフィアは特に気にした様子も無く答えた。


「そうねぇ。まぁどうにかなるでしょ~」


 どうにかはならないのだ。都合よく野営道具をドロップする様な魔物が存在する筈も無く、このままだと寝る場所はおろか食事にすらありつけない。

 先日急にクエストに参加する事になった俺とは違い、フィアがこのクエストに参加する事は前から決まっていた筈だ。なのにも関わらずなんの準備もせずに着の身着のまま今ここにいる目の前の女に戦慄を禁じ得ない。

 

 (こいつに何かを期待するだけ無駄だ……)

 

 早々にフィアへの見切りをつけた俺が、せめて寝やすそうな場所を探そうと思いフラフラしていると先頭の馬車に乗っていた兵士達がこちらへとやってくるのが見えた。


「君たち野営の道具とか持ってきていないのか?」


「……そうなりますね」


「じゃあ余分に持ってきている分がワンセットあるからそれを貸してあげようか?」


 それは思ってもみなかった言葉。すぐにでもその差し伸べられた手に飛びつこうと思ったが一旦気持ちを落ち着ける。

 

 (……何か裏があるのか?今日知り合ったばかりの俺達に無償でそんな話を持ち掛けてくるか?)


 なんだか自分の心がいつの間にか汚れてしまった様で少し悲しかったが、この懐疑心もこの世界で生きていく為には必要な物なのだ。

 何よりも彼らはあのクイーラの私兵なのだ。主人があんなクズなのだから兵達も所詮同じ穴の狢だろうと思ってしまうのは無理のない事だった。


 (見返りは……フィアの身体……とか?だったら―――別にいいか)


「いいんですか?」


 そう聞き返すと兵士は綺麗な白い歯を見せながら笑った。


「構わないよ。この旅の間は仲間みたいなものだしね。困った時はお互い様さ」


 その笑顔に裏がある様にはとてもじゃないが見えなかった。この人達は純粋に綺麗な心を持った人達だったのだ。 

 必要な事だったとは言え、下衆な勘繰りをしてしまった事を心の中で詫びる。

 

 (今日はこの人の寝ている方に足を向けて寝られないな)


 こちらのお礼を聞き届けるとすぐに兵士さんは自分達のテントの方へと戻っていき、やがて余剰分の野営道具を運んできてくれた。そして野営道具を置いたらすぐに自分達のテントの方へと戻って行った。


「よかったなフィア。優しい人達で」


「そうねぇ。じゃあ今日はそこで寝ましょうかぁ」


 話に一切入って来なかった癖に当たり前の様に共に野営道具を使おうとしているこの女に少しばかり腹が立ったが――――俺はここで重大な見落としをしていた事に気付く。


 テントは一つ。そして俺達は二人。そして俺達は男と女。


「……どっちがテントで寝る?」


 意を決して聞いてみるがそれに対するフィアの答えは早かった。そしてそれはフィアらしいと言えばらしい答え。


「え~?二人で寝るんじゃないの?外の方がいいのぉ?」


 外の方がいいわけがない、生憎と俺にはそんなマゾ性は無い。


 (だがこんな狭い空間で二人で寝る?しかもこんなナイスバデーなフィアと?)



 ――――――今夜寝れるかなぁ。俺




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