それぞれの胸中
レイア達一行がレスティア王国から出立したその頃―――レスティア王城
その豪華絢爛な部屋に似つかわしい煌びやかな装飾のついている服を着込んでいる王族達、そして一目で明らかに高位の魔法使いだとわかる一級品のローブを羽織っている魔法使い。
そして――――向かいには純白のローブを羽織った美女とその取り巻きの姿
「今宵は我が国の建国祭の為にはるばる遠方からご足労頂きありがとうございます――――聖女様」
いつもは傲慢不遜な王も、流石に相手が法国の権威の象徴とも言える聖女である場合は流石に畏まった態度を取らざるを得なかった。
だがそれでも一国の王、必要以上にへりくだる様な事もまた無かったが。
「いえ、こちらこそお招き頂きありがとうございます」
「それで、この度はどういった心境のご変化でしょうか。いつもはいくらお誘いしても来て頂けなかったというのに」
自身が王であるにも関わらず他者とのコミュニケーションに気を使わなければならないという事実に煩わしさを感じていた為だろうか、少々の皮肉を込めた疑問を王が問いかける。
「申し訳ありません。これでも多忙な身でして…。それと今回は――――大事なお話がありまして」
「ほう。大事なお話ですか」
ここまでは社交辞令の場というのもあり和やかな空気の中進んでいた会話だったが、聖女がそう切り出した事により場に緊張が走る。
「はい。―――星が……不吉な動きをしております」
何も知らぬ者が聞いたら「この女、頭でもおかしいのか?」と思ってしまいそうな一文だったが、この場においてそのような反応をする者は一人としていない。
「なるほど。―――どの様な事が起こると?」
そう問われ、聖女が意を決した様に口を開く
「一つの大きな星が黒い星に覆われ……消えようとしています」
「――――つまり?」
中々的を得ない聖女の言葉に、急かす様にそう続けるレスティア王。
「近いうちに……一つの国が消えるという事だと思われます」
聖女の口から出た衝撃的な発言にざわつく室内。だがそれも当たり前の事で、ここ何年かは争いという争いも起きておらず国が消えたりなんだという様な大きな変革はしばらく起きていなかったからだ。
「そしてこのレスティア王国がその事象に深く関係している様なのです。
私達アストラル法国は別にレスティア王国と敵対しているというわけでもありませんし、知ってしまった以上当然報告はした方がよいかと思い、今日ここに来させて頂いたのです」
「なるほど…。それはありがとうございます聖女様。貴方の慈愛の心には誠に痛み入ります」
「それで、……なにか心当たりの様なものはありますか?」
「そうですな。…一応あるにはありますな。ですがそれについてはもう既にこちら側で手は打ってありますので問題は無いかと」
「そうなのですね。ですが星の流れは未だ変わっておりません。差し出がましい事かとは思いますが、もう少し他の策も弄ずる必要があるやもしれません」
遠回しに「お前らの考えは甘い」と言われた様なモノだった為一瞬苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべたレスティア王だったが、すぐさま表情を取り繕い聖女の方へと向き直る。
「――――わかりました。では急ぎ他の手を考えさせて頂きます」
その言葉を聞き安心したのか。緊張の糸が切れたかの様に息を吐き出す聖女。
「ではこれで私は失礼させて頂きますね。この様な煌びやかな場所は私には少々眩しすぎるもので…」
「はっはっは。貴方様程の美貌をお持ちの方こそがこの様な場所にふさわしいと思いますがな。では明日からの建国祭。ぞんぶんと楽しんでお帰りください」
「そうですね。どこか落ち着ける場所で皆さまの楽しそうなお顔を眺めさせていただくとします」
そう言って取り巻きと共に玉座の間から去っていく聖女。
レスティア王は法国の者が皆退出した事を確認すると、ずっと傍に置いていた賢者の方へと向き直る。
「して、どう思う?エドよ」
「そうですね。聖女の星予知は内容こそ不明瞭な場合が多いですが正確さは確かなものがあります。例えば……以前帝国に起きた災厄、通称クレナードの怒りも彼女は予言しておりましたし」
「ではとりあえずは信じる方向でいくとして、まだ未来が変わっていないと言っておったな。あの勇者一人では魔王を倒すのに力不足。という事か?」
「どうでしょうな。魔王自体はそこまで強いわけではありませんし勇者の素養を持つ者ならば問題なくその任をこなせると思うのですが…」
「我々が思っている以上にまだ奴が弱い。という事か?」
「まぁ可能性があるとすればそれぐらいかと…」
「なるほどな――――ならばあと半年だ。半年後に奴を呼び戻し力を見せてもらうとしよう。その時点で力不足と判断したならば奴の事は……殺して構わん。多少もったいないが今回も他の高位冒険者を使うとしよう」
「畏まりました。わざわざ呼び寄せたのだからこれぐらいの仕事はこなして欲しいものですがな」
「そうだな。もし今回、奴一人での討伐に失敗したなら次からは複数の勇者を召喚する事も視野に入れないとならないな」
「ですが国王様、複数召喚ともなると今回の様に放任していては管理が困難になるかと……」
「ならば次からの勇者達は城内で優しく扱ってやるとしようじゃないか。さすれば情も湧き、困っている国民達の為に頑張ってくれるのではないか?もしそれでも頑として歯向かう様な者がいたなら、その者だけを秘密裏に消せばよい」
「畏まりました」
様々な企みが交錯する王城内、そこは間違いなく今この世界で一番悍ましい空間だった
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今の話はなんなの?
あの勇者見習いを殺す?そう聞こえたんだけど聞き違いじゃないわよね。
黒い星とか大きい星とかそこらへんの話は全く意味がわからなかったけど、勇者見習い関連の話だけは私にも理解が出来た。
お父様はこの間、彼には決して危害を与えたりはしないと言っていた。彼には自分のやりやすい環境で修行をしてもらうだけだと。
その結果彼がこちらの望み通りの勇者になれなかったら――殺すって事?
こちらが勝手に呼んだのに?
それは……なんて理不尽な話なのだろうか。私の前にいる時のお父様とさっきのお父様が同一人物だとはまるで思えなかった。
どちらが本当のお父様なのだろうか。そんな事を考えている内に私はなんだか恐くなってきてしまった。
この話を彼に伝えるべきなのか、そんな勝手な事をしたらいかに王族とはいえお咎めを受けるかも知れない。
でももしこれを伝えずに彼が殺されでもしたら、私はその事を一生引きずってしまうと思う。
とにかく私は、私のお付のメイドであるイリスに相談してみる事にした
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「あーあ、レイアさん行っちゃったなぁ」
今頃彼はレスティアから出てアストラル法国に向かう道中だろうか。確かアストラルまでは普通に歩いて行ったら確か一か月程だったと思う。
向こうでの滞在期間も考えると……次に会えるのは三か月後とかになってしまうのだろうか。
お母さんが倒れて、お父さんもいなくなってしまってからずっと働き詰めだった私の生活
――――そんな中で唯一心を開けた人
正直どうして自分がこんなにも心を開けているのかは自分でもわかっていなかった。
他の下卑た目で私を見てくる人達と違ったからなのか、それともなにか私と似た様なモノを無意識の内に感じたのかもしれない。
彼はこの街に身寄りがいないと言っていた。好奇心のまま彼の身の上話を探るのは流石に憚れたので深く聞いたりはしなかったのだが、もしかしたら彼にもなにかしらの深い事情があるのかもしれない。
まだ知り合ったばかりで何を世迷言を…と思われるかも知れないが私は彼だけには本当に心を開けているのだ。
友達と呼べる様な者もなく、遊ぶ相手も相談できる人だっていない。
そんな生活は本当に――――孤独そのものだった
(あー、また色々とお話したいな…)




