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世捨て魔王  作者: R氏
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はぁ...いい子


 

 想定していたよりも数倍重かった彼女の過去を聞かされた俺は色々と考えさせられていた。


 (そうか……冒険者だしな――そういう事も少なくないんだろうな)

 

 借金+親の死、そしてそのせいで満足に友達も作れずにずっと働き詰め。

 それは完全にどこかの物語のヒロインの様だった。


 単純な俺は簡単に心を動かされてしまっていた。だがそれも当然だった、平和な日本においてそんな稀有な人生を歩んでいる者など極僅か。

 初めて間近にみる苦労者に感情を動かされないわけが無かった。


 (この歳で親の借金を肩代わりしているなんてどれだけ大変なんだよ)


 今でこそまともに冒険者の様な事をしていて多少はまともに見えているかもしれない俺だったが、この世界に来るまでは正真正銘ただのニートだったのだ。

 そんなぬるま湯に浸かりきっていた過去の自分の事を振り返ると、なんだか恥ずかしくなってきて彼女の事が直視出来なくなった。


 (なんかもう……生きててごめんなさい)


 いや流石にそこまでへりくだる必要は無いのだが、でも本当に凄いと思った。

 親の借金を返す為に友達と遊んだりするのも我慢して毎日働きづめ、普通の人間にそんな事が出来るとは到底思えなかった。

 何よりも親が亡くなった事を知ってすぐにそんな強い決断を出来る彼女の強さに一種の憧れすら感じる。


 頑張っている相手に対して同情なんて失礼なのはわかっている。

 わかってはいるのだが……それでもやはり少し不憫に思ってしまう。


 だが唯一の救いとしては彼女が水商売の世界にその身を落としていなかった事だろう。

 別に水商売をしている者達を蔑んでいるわけでは決してない。でも、彼女にはそういった仕事は似つかわしくない――と思った。

 借金の為にしたくもない仕事をする。なんて事を彼女にはして欲しくなかったのだ。


 (というかそもそも借金ていくらぐらいの額なんだろうか。出来る事なら俺が肩代わりしてあげたい……)

 

 そう思ってしまうぐらいには俺の心は揺り動かされてしまっていた。


 ただ間違ってもそんな事はしないが―――それこそただの憐れみに違いない。

 必死に今を生きている者に向かってこれ以上失礼な事も無いだろう。


 だから結局のところ俺にしてあげられる事などほとんど無いのだ。

 ならばせめて彼女が言っていた通り、相談や愚痴を聞いてあげるぐらいの事はしてあげたい。

 それと本当に気持ち程度の事だが、こっちの世界にいる間の食事は全てこの店で済ます事を密かに誓った。


「本当に……色々と大変だったんだね。完全に部外者の俺なんかに言える事はほとんど無いんだけどさ―――無理だけはしないでね。もし限界が来そうだったらまず俺に言ってみて欲しい」


 そう言うと彼女は俺の目を見つめ―――優しく微笑んだ


「ありがとうございますっ!でも簡単にそんな事言っちゃってもいいんですか?いっぱい頼らせてもらっちゃうかもしれませんよ?」


「いいよ。別に俺に出来る事なんてたかが知れてるしな」


「そんな事無いですよ!こうやって話を聞いて貰えるだけでも凄く楽になりますし。本当にこうやって落ち着いて人と話す事もしばらく無かったので!」


 彼女からしてみれば何気なく言った一言だったのかも知れない。だが――――どれだけ忙しいとそんな事になるのだろうか。

 貧困層にも比較的優しいとされる日本で育ってきたこんな俺だからこそ思う事なのかも知れないが、効率よく仕事をする為にも休みは必要な物だと思うのだけれど。


 だが単にそんな事も言ってられない状況なのかもしれない。

 それより彼女の親の借金の原因が気になった。もしこれがギャンブルなどによる借金だったなら、もういよいよ俺はどんな顔をしていいのかわからなかったが。


 だがそこは彼女の人となりを更に深く知る為には放っておいてはいけない疑問に思えた。


「ちなみになんだけど……親の借金の内容みたいなのって…聞いても大丈夫?」


「ごめんなさい…。正確には借金では無いんです。お母さんが病気で…。その病気の治療費を稼ぐ為に働いてるんです」


 結果、予想の遥か上を行く善行少女っぷりを見せつけられてしまった。


 (なにがギャンブルだよ……もう死ねよ俺…)


 どの世界でも変わらない事はあるのだ。と思った。

 元居た世界でも歳をいった家族の治療費の為に一生懸命働いてる者はいた。だがこちらの世界の方があちらの世界よりもそういう事に関して厳しそうな気がした。

 もちろん保険とかの類も無いだろうから国は然程助けてくれないだろうし、本当に自身で稼ぐしか無いのだろう。


 (ダメだ……お母さん大好きっ子の俺としてはこの子は俺の琴線に響きすぎる…

 こんなにもいい子を放っておく事なんて俺には出来ないよ母さん…)


「なんか改めてこんな事言われても変な感じだと思うんだけどさ……

 やっぱめっちゃいい子だな、エリスちゃんって」


「え、急にどうしたんですか?」


 突然の賞賛に困ったように笑う彼女。


「アストラルから戻ったらいの一番に顔出すからさ

 絶対にまた話そうな――――たくさん色んな事を」


「はい!約束です!」



 そう言って見せてくれた彼女の笑顔は―――後光が射しているかの様に眩かった




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