エリスの過去Ⅱ
お父さんが帰って来なくなってからしばらく経ったある日、私たちの家に見慣れない来客があった。
その人は灰色のローブを羽織ったとても偉そうな魔法使いの人だった。そして――――その人が言い放った一言は幼かった私の時間を止めるには十分過ぎる威力を持った言葉だった。
「君の父親は仕事に失敗した。もう帰ってくる事はないだろう」
――――え、なにを言ってるの…?この人
お父さんがもう帰って来ない?そんなわけない。約束したもん。
お父さんが私との約束を破った事なんて今まで一度だって無いもん。
嫌がらせ?この人は苦しんでる私達に更なる追い打ちをかけようとするイヤな人なのかもしれない。
「言葉も出ない――か。まぁ無理も無いがこれから話す話はちゃんと聞いておけ」
そもそも私の返事など必要としていないのか、その人は勝手に話し続けた。
「君の母親の病気はそんじょそこらの医者じゃ治す事の出来ない難病だ。そして治すにしても莫大な費用がかかる。
だからこそ君の父親は今回の仕事が危険な仕事と知りつつも受けざるを得なかったのだがな」
――――やっぱり危険な仕事だったんだ
「そして奴は仕事に失敗した。だが母親の病気を治す手段は他にもある。――――代わりにお前が働くんだ。こちらが指定した職場で働き続けろ。そしたらいつの日か目的の額が貯まった時には母親の病気を治してやろう」
多分だけど…。この人が言ってる事は本当なんだろうなって思った。
お父さんはもういない。
――――――――――視界がぐらつく
どうしてこんな事になってしまったのだろうか、少し前まであんなに幸せだったのに。
私たちがなにか悪い事をしたのだろうか。そんなわけない、お母さんもお父さんも私もなんにも悪い事なんてしていないし誰にも迷惑もかけていない筈だ。
(なのにこんな仕打ち…。ひどすぎるよ)
突然訪れた人生最大の不幸に私が打ちひしがれていると――――目の前の男の人が突然大きな声を出した。
「いい加減にしろ!現実を受け止めろ!父親は死んだ。だが母親は生きてる。その母親の為にお前は自分の生活を捨てられるのか!?捨てられないのか!?」
お母さんは生きてる…。お母さんはもうすでにほとんど意識も無い。
それでも生きてる……。私はまだかろうじて1人じゃなかった。
「――――でもお母さんにそんな時間は無いと思います…」
それは見るに明らかだった。私が一生かけて稼げる様な額を貯め終わる頃までお母さんの身体が持つとは到底思えなかった。
「――――それまでの延命措置はこちらでどうにかしよう。ただ症状を抑えるのと治すのではレベルが違うのでな。治すのは金が溜まり次第だ」
お母さんが死なない…。だったら私の答えなんて1つに決まってる
「――――やります。私なんかにお母さんが助けられるなら…!」
私がそう言うと男は満足そうな顔で頷いた。嘘は言って無さそうだけれどこの人の事は到底好きになれそうも無かった。
「そうか、わかった。では働き先はこちらで決めておく。決まり次第使いの者をよこそう」
そう言い男はそそくさと出て行った。
私は隣で眠り続けるお母さんの顔を見て改めて決意を固める。
「絶対私が助けてみせるから…!二人で一緒に生きて行こうね…お母さん」
それから数日経った頃使いの人が来た。私の働く先は道外れの質素なお食事処だった。
――――こんな所で莫大な治療費を稼げるの?とは思ったがそもそも私に選択肢なんて無かった。
話を聞くと私はここで休みも無しに毎日働き続けるみたいだった。毎月最低限の生活費だけ渡され、寝泊まりもお店に住み込んで働くみたいだ。
お母さんは少しでも環境のいい場所にいないと危ないと言われ王城の方で保護してもらう事に。
せめてもの心の支えだったお母さんとすら一緒にいれないという事実に心が折れそうになったが、それでも折れる事は許されない。
私が折れるという事―――それ即ち私自身がお母さんを死なせることと同義なのだから。
今までの生活とは180度違う生活になるけど必ずやりきってみせる。
だってもう――――私にはお母さんしかいないのだから。
この店で働き始めて1年が経った。休みも無く遊ぶ暇など勿論ない私から友人達も自然と離れて行った。
(――――1人ってこんなに寂しいものなんだ…)
そもそもこんな道外れのお店に来るお客さんの数なんて知れているし、同年代のお客さんが来る事なんてほぼ無かった。
たまにくる若い人もイヤらしい不快な目で私の事をジロジロ見てくるし、そんな人をお客さん以外の目で見れるわけもなく、私の孤独感は日を増すごとにどんどんと増していった。
それでもお母さんの為――と思い慣れない料理も仕入れも片づけも全て1人でこなし続けた。
外に買い出しに行く時などに見かける他の同年代の子達を見て羨む事も最早無くなった。
――――どうして私ばっかりがこんな目に…
最初の頃はそんな事を思う余裕もあったが、楽しい事など全く無くただただ労働だけで過ぎていく日々に徐々に心が無になっていくのを感じだしたそんな時だった
――――――――彼に出会ったのは




