エリスの過去
「いらっしゃいませー!」
今日もいつも通りの日常が始まる。
レスティア王国の王都、でも王都とは名ばかりの平民街のこれまた人目のつかないお食事処。
――――――そこが私の職場だ
私はまだ17歳、普通のこのぐらいの年の女の子達は友達や恋人と遊んだり結婚していたり、みんな楽しそうにしている。
でも私にはそんな呑気に遊んだり人生を謳歌する様な事は出来ない。
――――何故なら私には多額の借金があった。
私の家は元々普通の中流家庭だった。
別にお金に余裕があるわけでは無かったが、かといって生活に困る程だったかと言われたらそれはそれで違うと言えた。
お母さんはとても綺麗で私の憧れだった。私と同じ栗色のロングヘアーに整った顔立ち、スタイルだって貴族の人達と比べても全然負けていないと思えるぐらいに抜群だった。
お父さんは、美青年か?と聞かれたら多分違うと答えると思うけど…。それでも優しくて頼りがいのある私にとっては世界一かっこいいお父さんだった。
お父さんは普通の人と比べて身体能力が高かったみたいで「冒険者」という仕事に就いているとお母さんからは聞いていた。
大好きなお父さんに危ない事はして欲しくなかったけど、それでも「お父さんは強いから大丈夫!」と言って聞いてくれなかった。
――――――私たちは幸せだった
昼間はお母さんや近所のお友達と遊んで、お父さんが仕事から帰ってきたらみんなでお母さんの作る美味しいご飯を食べる。そんな何気ない生活が私は大好きだった。
でも――――そんな幸せな日々は突然終わりを告げる
「ゴホッゴホッ…」
「大丈夫?お母さん…最近具合悪そうだよ…?」
いつからかお母さんがつらそうに咳をする事が増えた。それまでは全然そんな事無かったのにその頃のお母さんはとても具合が悪そうだった。
でもお母さんは決まって
「大丈夫!こんなのただの風邪だからエリスが心配する事なんてなーんにもないよっ」
と言って誤魔化すのだ。いくら私が子供だと言ってもただの風邪がこんなにも長引く事が無いのはわかる。
それに加え最近はお父さんの帰りも以前に比べて遅くなる事が増えた。
私の知らない所でなにかが起こってるんじゃないの…?なんて不安になっていたそんな時
――――――ついにお母さんが倒れた
病名や詳しい話は私には聞かされていなかったけれど簡単に治る様な病気じゃない事はなんとなくだがわかっていた。
今思えばお父さんの帰りが遅くなっていたのもそんなお母さんの治療費を頑張って稼いでいたからなのだろう。
「…お母さん。私になにか出来る事無いの?言ってくれたら私なんだってするよ?」
「じゃあ……エリスは外で遊んでおいで。エリスの幸せそうな顔を見るのが一番の薬だから!」
お母さんはそんな事を言うが、大好きなお母さんがつらそうに床に伏しているのに私だけが遊びに行くなんて……出来るわけが無かった。
「こわいよ…。私を1人にしないで…。お母さん、お父さん…」
それから少しして、お父さんが大きな仕事を受けしばらく家を空けるという事を聞いた。
なんでもその仕事を成功させた暁にはお母さんの病を治してくれる。と王城の方から大きな仕事が来たみたいだった。
子供の時の私は知らなかったがお父さんは中々に名のある冒険者だったのだ。そんなお父さんの力を見込んで王城の方からわざわざこんな平民街まで仕事を依頼しに来たのだと言う。
「その仕事危なくないの…?そんな無茶な事しないでも私も一緒に働くよ?みんなで一緒に頑張ったらなんとかなるんじゃないの?……お父さん!」
そう言うとお父さんは優しい顔で私の頭を撫でてくれた。
「危なくなんてないさ。ただ――しばらく家を空ける事になるだろうからエリスはお母さんの傍にいてやって欲しい。ああ見えて母さんは寂しがりなんだぞ?」
お父さんはそんな事を言うが私にはそんなイメージ全然無かった。私から見たお母さんは完璧な人で寂しがりな一面など一度も見た事が無い。
でもお父さんがそう言うのなら本当にそうなのだろう。ただでさえ体調が悪くてつらそうなお母さんを1人きりにしておく事なんて勿論出来るわけが無かった。
「――――わかった!……その代わり絶対に帰って来てね?約束だよ?」
「あぁ!約束だ!」
そう言ってお父さんは私を抱きしめてくれた。
お父さんの温もりは私を心の底から安心させてくれる。
いつか近い将来、また家族みんなで笑って過ごせる様になる――――そう信じさせてくれた。
――――――でもそれが…お父さんと私が交わした最後の言葉だった




