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世捨て魔王  作者: R氏
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はぁ...風邪?×2



 辺りを照らす赤黄色の灯り、頭上にはレスティア王国の物らしき旗を模した飾り物がそこら中に飾られていた。

 通りにある店はその全てが忙しなく何かしらの準備をしている。


 「――――多分建国祭とやらのせいなんだろうな」


 街を行く人々の顔は笑顔に溢れていて、どこかいつもより街全体の雰囲気が明るく見える。

 そんな人々の様子を眺めながら一人で歩いていると、向かいから仲の良さそうな親子が手を繋ぎながら歩いてきた。


「ママー、もうすぐおまつりだね!」


「そうねー。アリスはお祭り好き?」


「だいすきー!おいしいものたっくさんあるしみんな笑ってるから楽しい!」


「そっかー。じゃあアリスもたくさん笑ってみんなと一緒に楽しくならなきゃね!」


「うん!」



 (――――ま、眩しい…)


 幸せそうだがあれはカップルじゃない、仲睦まじいただの親子だ。死ねばいいだなんて決して思ってはいけない。

 雰囲気から察するに建国祭というのは向こうの世界で言うところのクリスマスみたいなモノだろうか。

 元いた世界にも建国記念日という日があったのは覚えているが、決してこんな大々的な祭り事などでは無かった。


 先程から何度もすれ違っている恋人達の様子を見るに、やはりただの祭日と言うよりかはクリスマスやバレンタインといったモノの方に近い気がした。

 

 「だったら子供とかカップルがはしゃぐのもわかるか」


 (――――あー……俺も彼女とこういう所歩きたい…)


 思わず胸の内で吐露してしまった本音を慌てて掻き消す。俺は負けていない。決して負けてなどいないのだ。

 何故かセンチな気分になってしまった中、思い浮かべるのは今も一人で退屈そうにしているであろう魔族の少女の事だった。



 はぁ…クレナ――――なにしてるかな



――――――――――――――――――――――――



「――っくしゅん!」


「大丈夫ですか?クレナード様」


 (ビックリしたー!くしゃみなんてしたの何年ぶりかしら…)


 病気になる事などほぼ無い筈の魔族、それなのに私がくしゃみをした事でリストが心配そうにこちらを見ていた。

 流石にこれだけの事でそんなに心配そうにされても困るのだが、昔から彼女はどこか過保護なところがあった。だがそんな所も気に入っているからこそ彼女を傍に置いているのだが。


「大丈夫よ。気にしないで」


「そうですか。それはそうと先程のお話の続きですが…」


「あー、帝国の奴等がなんか動き回ってるってやつね。どうでもいいわよ放っておきなさい」


「ですが…」


「いいから。もし森に入ってくる様なら殺しなさい。森の外で奴らがなにをしてようが私達にはなんの関係も無いんだから」


 そもそもなぜ今リストが私の部屋にいるのかと言うと、最近クレナディア帝国の奴等が森の外をウロウロしているらしい。という報告の為だった

 改めてリストの心配性を思い知らされる。たかだか人間の中で少し腕が経つ程度の者達が何をしてようと気に留める必要など無いのに。


 (――――まぁ、レイアは別だけどね?)


 だがあれほど強い人間などそうそういる筈も無い。言い方は悪いが彼の強さはとうに人外の域へ達している。

 だからこそ基本的に人間が何をしていようが無視でいいのだ。


 そんなつもりは無かったのだが、彼の事を考えてしまったから少しだけ会いたくなってきてしまった。

 彼と過ごした日々はとても刺激的で、あの時だけは退屈も忘れられていた。



 はぁ…レイア――――なにしてるのかな



――――――――――――――――――――――――――



「――っくしゅん!」


 (え、なに?この世界にも風邪ってあるの?これだけ強くなった俺が病気で死ぬとかあるの?笑えないんですけど)


 だが冷静に考えてみると、常識的に考えて病気は存在するに決まっていた。問題はレベルが上がった際に病気に対しての対抗力なども上がっているのかどうかだ。

 恐らくだがこれだけ身体能力が軒並み上がっているのだから内面の方も勿論そうであるとは思うのだが。


 (……まぁいいや。たかがくしゃみ一回で何を深く考えこんでいるんだ俺は)


 最後の晩餐探しは思いの外進んでいなかった。至る所で感じる建国祭の規模の大きさに圧倒されていた事が一番の原因だろうが。


 (でもまぁ結局最後の晩餐はあそこだろう。てかあそこ以外の店知らないしな)


 フレルさんの出店という選択肢もあったが、なんとなく今の気分的にはそういう一品物では無くちゃんとした料理が食べたいと考えていた。

 その為多少名残惜しくはあったが今回は選択肢から外させて貰った。




「――――って事で着きましたエリス亭」


 勿論そんな名前では無いのだが特に看板の様なモノも無かった為、自分の中で勝手にそう名付けてしまった。

 いつも通りの閑散とした空気を放っているこの店の異質さが今日は特に際立って見える。他の店はどこもてんやわんやしていたのにここだけはまるで通常運転そのものの様に見えた。


 (個人的にはその方が助かるけど……大丈夫なのか?この店…)


「いらっしゃいませー!――あ、レイアさん!いらっしゃいっ」


 例のごとく俺を出迎えてくれたのは茶髪の美少女――エリス。


「じゃあ今日もお任せで。もちろん――」

「野菜は抜きですね? もーっ、いつになったら野菜食べるんですかー?」


 一番重要な部分を食い気味に被せてくる彼女、こんなやりとりを交わしていると自分ももう立派な常連なんだな。なんて思えた。


「まぁまぁ、そこは勘弁してよ…」


「仕方ないなぁー…」


 そう言って少し不満げに厨房の方へ入っていくエリス。果たして今日はどんな料理が出てくるのだろうか、ここの料理は全て美味しいから自然と楽しみになってしまう。

 個人的には最初に出してくれたパスタの様な食べ物が一押しだ。


 (あ、そういえば出発って明日だったよな…。今日の夜どうしよう…)


 今の今まで忘れていたが、俺が早く向かってしまいたかったのにはそれもあったのだ。

 宿を見つけられず野宿なんてしている所をもし知り合いに見られでもしたら、まずお互いにとても気まずいだろうしその後も変な目で見られ続ける事間違い無い。

 フィアの登場や突然のクエストやなんやでその事を完全に失念していた。


 (まじでめんどくさい事してくれたな、あのじじい…)


 そんな感じで頭の中でサウロへの怨嗟の言葉を読み連ねていると、いつの間にか料理を持ったエリスちゃんがすぐ傍まで来ていた。


「お待たせしましたー!」


 例のごとく食レポは省きますが、今日の料理もとても美味そうだった。


「あ、そうだ。明日街を出る事になったんだよね」


 この子にも色々とお世話になったし一応。そんな事を思い出立の事を伝える事に。


「――――え、もう帰って来ないんですか…?」


 そう言われて彼女の方を見ると、彼女はとても悲しそうな顔をしてこちらの事を見ていた。


 (――――え、なに?やっぱ俺の事好きなの?)


 そんな戯言が浮かぶが一瞬でかき消す。だがこれはもしこちらが勘違いしてしまったとしてもおかしくは無いのではないだろうか。

 そう思ってしまうくらいに彼女は本当に落ち込んでいる様に見えた。

 

「いや、そういうわけじゃないよ。昨日言った通りこの腕を治せる様な凄い僧侶がいないか探しに行くだけだから」


「…あ、そうでしたね……しばらく会えないのは寂しいけどその理由じゃちょっと引き留めるわけにもいかないですね…」


 そういえば先日、彼女には知り合いや友達が全然いないのだと聞いた事を思い出す。そう考えればせっかく色々と話せる様になった友達?と離れてしまう事が少し寂しいのかもしれない。


 (……キモい勘違いしてすいません!)


「結果がどうであれすぐ戻ってくるからさ。またすぐ会えるよ」


 そう言うと彼女は少しだけ何かを考える様な仕草をしたかと思いきや、すぐにこちら見て口を開いた。


「――――レイアさん…。出発明日って言ってましたよね?じゃあ今日はどこに泊まるんですか?」


 それは昨日のこちらの事情を知っている彼女からすれば当然の疑問だったのだろう。

 痛い所を突かれた。と思いつつもどうすれば余計な心配をさせずに済むかを色々と模索したが、結局いい答えなど見つからなかった。


「……適当に探すよ。昨日より時間も早いしなんとかなるでしょ」


「ならないと思いますよ。だって祭り明後日ですもん!」


 思わぬ追加情報に狼狽える。まさかそこまで目前に迫っているとは正直思っていなかった。

 だとしたら昨日ですら満室だらけだった宿屋達に運良く空き部屋があるなんて可能性は限りなく低い。


「……うーん…」


 ここで余計な事を言うとまたしても彼女が「泊まっていきますか?」なんて事を言い出す可能性があった為、とりあえず今は唸る事しか出来なかった。

 勿論、別に彼女と同じ部屋で寝泊まりする事がイヤなわけでは無い。だがあまりにも借りを作り過ぎるのもそれはそれで気が引けるのだ。

 

 だがそんなこちらの考えは全くと言っていい程無駄に終わる。


「……本当ならもう少し時間が経ってからお話しようと思ってたんですけど…。レイアさんがしばらくこの国を離れちゃうなら仕方ないですね…


 ――――少し聞いて貰いたいお話があるので今日も泊まっていきませんか?」





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