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11-1 レジーナ・マリオット


 日が沈みかけるころ、馬車は止まった。

 マリオット領に入る前の森に馬車を置いていくとイリエが宣言したのだ。


「マリオット領にも王都から派遣された衛兵がいるんだ。レジーナちゃんには村人のように森の道から領地に入れと言われている」


 立派な馬車は田舎では目立つだろう。

 警戒しつつも、護衛を連れて三人はマリオット領へ移動した。


 マリオット領は王都から二日程かかる小さな領地で、特産物の果物を出荷し、生計を立てている。

 レジーナは五人兄弟の末っ子で、領地経営には携わらない。魔力が高いレジーナは王都での出稼ぎ目的で学園に入学したのだ、とティナは聞いていた。


 マリオット領に入ってすぐ、果樹園の前で若い青年が気軽な雰囲気で声をかけてきた。

 村人のようで果実の入った箱をしっかりと持っている。


「失礼ですが、ティナ様でしょうか」


 近づいてきた青年は真面目な顔で声を潜める。

 

「まず自分から名乗ったらどうだ」

「レジーナからの依頼を受けて、ここでお待ちしていました」

「レジーナちゃんの家まで案内してくれるの?」

「いえ……マリオット家ではなく、我が家に来ていただけますでしょうか」


 青年の要望に三人は顔を見合わせた。

 ベレニス事件の疑いが晴れた今、ティナはセルラト侯爵家の令嬢である。

 マリオット家ではなく彼の家に案内されるというのは通常考えられないことで……それもまた衛兵からの目を警戒しているのだろうか。


「レジーナ様には何かお考えがあるのでしょうか」

「どうする? 村人みんなに襲われちゃったら」


 青年の後をついて歩きながら、イリエが物騒なことを言うのをクロードは目でたしなめた。


 青年の家は村の住宅地の中にあった。どうやら一人暮らしのようで、クロードの家に雰囲気は似ている。


「すみません、今お茶を淹れますから」

「結構だ。毒が入っていても困る」

 

 クロードは冷たく言い放つ。青年は眉を下げると、


「……わかりました。レジーナもすぐに来ると思うので、しばらくお待ちください」


 そう言って、レジーナを呼びに行くと出て行った。イリエは「どうする? この家燃やされちゃったら」と物騒なことを言っているうちに、レジーナは現れた。

 服装は魔法局のローブではなく、ワンピース姿で髪の毛も下ろしている。いつものレジーナらしい姿ではなかった。


「ティナ様、ご無事でしたか!」


 ティナを見つけたレジーナはほっとしたような表情に変わる。あまり表情が変わらない女性ではあるが、いつもより幼く見えるほどに彼女は心情を明らかにした。

 そんな彼女の様子にティナは胸があつくなる。


(やはりレジーナ様は私を陥れてなどいない)


 レジーナがティナに駆け寄ろうとする前に、クロードが前に立ちはだかった。手には黒い手袋が握られている。


「この手袋をしてもらえるか」

「……魔力封じの魔道具ですか。構いませんよ、私はティナ様に危害を加えるつもりはありませんから」


 レジーナはすぐに手袋を受け取って手にはめる。隣りにいた青年も同様に手袋をつけた。


「ティナ様が王都に戻られる前に、お耳に入れたいことがありました。——どうぞおかけになってください」


 木製のテーブルに座るように促され、三人もひとまず席についた。


「まさか本当にあなたがティナ様の居場所をご存知とは思いませんでしたが……ご無事でよかったです」


 席についたレジーナは笑顔をつくったあと、真剣な表情で声のトーンを落とした。


「王都ではなく、ここでお話するのは理由があります。今、私は王政府の衛兵に常に監視されています」

「心当たりはあるのか?」

「殿下との面会してからですので、ベレニス様の事件の重要な容疑者だったかもしれません。私もあの夜会に参加していましたから。しかし、私だけでなくマリオット領にも衛兵が滞在するようになったのですよ」


 マリオット夫妻は、魔法局にも政治的なものにまったく関与していない。ティナのことすら知らなかったのだと言う。


「それなら君が友人として、ティナちゃんを匿っていると思ったのかもね」

「私もそう思っていました。しかしティナ様が無罪と報じられた後も、監視は依然続いているのです。私だけでなくマリオット領もです」

「ではなぜここに招いた。王都で話しても、ここで話しても同じではないか?」


 クロードはまだ警戒しているように部屋を見渡した。


「王都では監視の目が強く、会話が筒抜けになってしまいます」

「そうそう。レジーナちゃんは俺と話すのも気を遣っていたんだよ。書類にメモを挟み込んできたりね」

「この地のことを王都の人間は詳しくは知りません。先ほど皆さんが入っていらした道は地図に乗っていない地元の人間が使う道ですから、貴女たちがマリオット領に入ったことは知られません。そしてこの家と私の家は裏道で繋がっているのですよ。衛兵もさすがに館の中まで入ることは出来ませんから」

「なるほどねえ。衛兵にティナちゃんと会ってることもばれないってわけだ」

 

 衛兵からすれば、レジーナはマリオット家から出ていないと思うだろうし、ティナたちがマリオット領に立ち入った事も知られないだろう。


「ご不安な思いをさせてすみません。ですが、王都に入るまでにどうしてもお話したかったのです。ティナ様の身に危険が及ぶかもしれませんから」


 レジーナは前置きを終えたのだろう。三人を見て、声のボリュームも落とした。


「王都で、最近よく人が消えているのです。ティナ様と同じく……魔力が少なくなってから、消えているのです」


 レジーナはそう言って語り始めた。



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