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9-3 容疑者の死


「ところでウイルズ・ドランが死んだのは確実なんだろうな。彼女を油断させるための偽記事という可能性は……?」

「それはない。ウイルズが死んだのは確実だよ。そして彼の死の少し前から、容疑者としてあがっていたのも本当。ティナちゃんが無罪だ、という雰囲気になっているのも事実」


 新聞の内容は虚偽でない。クロードとティナの顔に緊張が浮かぶ。


「国の役人が何を考えているかまでは俺もわからないけど……僕が観測した事実だけを述べるよ。

 まず一週間ほど前に、婚約者候補たちとアルフォンス王子の面会があった。その日からドラン家のまわりを役人が調べ始めている」


「面会で何か疑われることがあったんだろうな」


「そうかもね。同時にエイリー侯爵の開催した夜会についても調べ始めた。どうやらウイルズもあの夜会にいたみたいなんだ。しかし、エイリー侯爵の招待リストにウイルズの名前はない。

 そこでもう一度、現場である家のホールを念入りに調べていたよ。第一王子も現場まで来るほどの熱の入りっぷり。最初からそれくらい調べてくれてたらティナちゃんが疑われることもなかったかもしれないのにね?」


 イリエはティナに細い目を向けた。


「その結果。バルコニーの手すりに傷がついていることも発覚した。中庭から魔法攻撃を放ったのではないかと考えられている」

「中庭から……」


 ティナも呟いた。たしかにエイリー家のバルコニーからは中庭は見渡せる。


「中庭からの攻撃があったのか?」

「どうでしょう……あのときは光が強く放たれて、目を閉じてしまいましたから。もう一度目をあけたときにはベレニス様が倒れていたのです」

「中庭からの攻撃は可能なのか?」

「エイリー家の中庭は庭園が美しく、草花の影に隠れて攻撃することは可能だとは思います。飛距離的にも、届くとは思いますが……」


 ティナは言葉を切って考え込む。攻撃は可能かもしれない。しかしどこか釈然としないものがある。


「……ベレニス様の傷は、喉から胸元まで一直線でしたよね。正面の傷です」

「そうだね」

「あのとき、私たちは向かい合っていました。中庭を見ながらお話していたわけではありません。庭からも会場からも、横を向いている形です。中庭からあの傷がつくのでしょうか」

「なるほど……つまり彼女の傷の位置的に不自然というわけか?」


 クロードは難しい顔で考え込んでから、


「バルコニーの傷、二人の立ち位置がここでは正確なものはわからない。中庭からの攻撃が可能かどうかは現時点ではなんともいえないな」

「そうだね。ベレニスちゃんの傷の感じからして、確かに正面からの攻撃に思えるけれど、傷や立ち位置、中庭の飛距離とか。諸々含めて、中庭の攻撃からと判断されたかもしれないし、そのあたりまではさすがに情報が掴めないかなあ」

「そうですか……」

「ただティナちゃんの言う通り、不自然なところもあるよね。この部分はもうすこし調べが進むか、俺が内部情報をさらにゲットできるか、次第だね」


 イリエはうーんと伸びをしながら身体をほぐした。


「とにかく世間的にはウイルズが犯人とされている。

 アイビーちゃんを王子の婚約者にするために、ティナちゃんを婚約者から引きずり下ろしたかった。ついでにベレニスちゃんが死んでもよかった。ウイルズが死んじゃったから真相は闇のなか、だけど国の推測や新聞社が描くストーリーとしてはこんなかんじ」


 事実がどうであれ、表向きの動機としては一応筋が通っている。しかしティナはなかなか納得できないでいる。


「ですが、そんなにうまくいくのでしょうか。私が夜会に来ることまでは推測できても、バルコニーへ向かったのは私の意志です」

「君は人に酔いやすくバルコニーで休むのはいつものこと、と言っていなかったか?」

「私はドラン侯爵と夜会でお会いしたことはありません。もしどこかで私の行動を知る機会があったとしても、ベレニス様までバルコニーにいらっしゃるか、予想できるのでしょうか」

「それはそうだな」


 ウイルズはエイリー家の夜会に招待されていたわけではなく、突発的な反応ではない。中庭にいるとすれば、何か目的を持っていたことになる。


「計画的に忍び込んでおきながら、バルコニーに来るのは賭け、いうのもな」


 ウイルズが犯人の場合、動機はわかる。しかし、どことなく繋がらないのだ。三人はしばし考え込む。


「そもそもその動機は、回りくどくないか? 彼女を婚約者から引きずりおろすよりも、彼女を消すほうが簡単じゃないか?」



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