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にくにくしいヒロインめ!どうせわたしは悪役ですよ!

作者: ぬねめの
掲載日:2023/06/09

「キャー!」

皿が割れ、グラスが散った。

いきなりテーブルクロスごと踏んで全部崩したくせに、妹は、泣いてわめいた。

「ぜんぶお姉さまが悪いの!」

な、なんと。


わたしの転生先は意地悪悪役令嬢だそうでした。

転生前の妹が愛読していた小説、よくその話は聞いていました。

「へえ、そのヒロインの姉が意地悪で……?」

「そうなの、まるでお姉ちゃんみたいなの!いつも言わなきゃわたしに譲ってくれない、意地悪なお姉ちゃんに!」

まさか、そんな本があるのかしら。

にこにこしながら毒を吐く妹。

そんな妹は、いつもなんでも私に譲らせていた。一人一個のはずのハンバーグ、汚しちゃったハンカチ、家族との時間、破けた制服、お手伝いを終えないともらえないはずの遊び時間などなど……。

そして、妹がトラックに轢かれそうなところを、わたしは……。

こうして、わたしはついに命まで、妹に譲り渡した。


そんなことはつゆ知らず、目の前の転生先の妹はペラペラとあることないこと。

「でね、すべてお姉さまが悪いんですの。見ましたでしょ?わたしがああしないと、フォークで刺すって!」

「まあ、こわい」

ヒロイン役らしき妹令嬢はペラペラペラペラと話を継ぎ足していた。周りの人たちの私への目つきがどんどんどんどん怪訝になる。

そして、妹は私を見た。


また、わたしの思い通りになってくれますね、お姉さま?


という目で。


はあ。


「いいでしょう、こうなったらわたしも悪役令嬢、とことんまでいじめて差し上げますわ!」

わたしは一人、真夜中に誓った。こっそり、クッションを細い腕で殴った。


それから、わたしはヒロインへのいじめを始めた。

あらゆる悪事の首謀者である、とされるたび、はて、なんでしょうとしらを切り通したのだ。いや、もともとやってないものは、しらもきりようはないが。


それでもヒロインはいじめを繰り返す。あちこちの花瓶を割ってはやらされたと被害者面。中にはわかっていて、あえて保身のために妹の肩を持つものもいた。わたしの婚約者候補だった王子様とやらも、いつしかため息をついて私を見ていた。


や、やり返さないと……わたしは悪役令嬢なんですから。


わたしは窓を磨いた。割れたツボを買い直した。裂かれたカーテンをつくろい、こぼされた紅茶を拭いた。

「これはすべて、わたしの贖罪のために、わが妹がわたくしに言いつけたことですわ」

わたしは神妙に言った。妹の顔が疑問符に変わり、首をかしげる。

「なんでわたしがそんなこと?」

「素晴らしいですミケーラ様、あの意地悪なマルシャ様に改心するよう言いつけるとは」

「え、ええ、そうよ、わたしがやらせてるのよ」

褒めちぎられ、鼻高々の妹。さらにわたしは告げた。

「はい。わたしは改心しました。つきましては、ゆくゆくは近日にも修道院に移ろうかと」

「え」

「そこまでは……やりすぎだ、ミケーラ」

「う、うそ!」

非難の視線を浴びて、妹は狼狽した。わたしはさらに続ける。

「違います、みなさま。わたしは自ら決めたのです。こんなわたしのいるべき場所はもう、修道院しかありません」

近くの修道院は、川のそば。水車小屋が回り、シスターたちが必死に作っている小麦粉が挽かれていく。なんでも自給自足の日々は、近隣でもかなりつらいことで有名だった。悪役とはいえ令嬢にはなんのメリットもない。

「わたしなんて……今までの行いからして、もういる場所はありません!修道院へ行ってまいります!」

「マルシャ……」

父も力なくつぶやく。しかし、周囲ではやがて拍手が巻き起こった。

「改心おめでとう、マルシャ!」

「マルシャ様、頑張ってくださいね!」

妹はまわりの注意が私に向かうのに不満そうにしながらも、どうすることもできない様子だった。


そう、これはジャイアン効果。

悪人がいきなり改心すると、まわりはふだん善人の行いしかしない人にたいしてよりも、深く感動するとかしないとか。

ようは、そういうことだ。


わたしは部屋に戻り、荷物をまとめだした。そこへ妹がやってくる。

「行ってしまうの?」

「ええ。ごめんね。」

妹は不満そうに美しい顔を歪めた。ヒロインだけあって、いつも見た目はだれにも勝るようだ。

しかし、妹には秘密があった。

だいたいの面倒ごとは、わたしに全てやらせていたのだ。習い事など、他人が見ているところも、身の回りの者を使って極力ごまかしていた。

「わたしがいなくなっても、がんばるのよ」

「うわあ、お姉さま!」

泣きついた妹は、何度もわたしの腹を殴った。痛いといえるほどの力ではない。それでも、姉妹に向けるものかわからないほどに執拗だった。

それは長年のカンで、すごい怨念を感じる気がする。

はじめは不思議に思っていたが、妹の感情の起伏はまさに自己中心的だった。それに気づいた日にはさすがにこっそり泣いた。そして、もうなにかを期待するような親切を向けるのはやめよう、と誓ったのだ。なにかしたとして、ほかの人ならお礼くらい言ってくれるところを、妹からはひとつも聞いたことはない。でも妹は、わたしが失態を見せるときだけは、非常に嬉しそうだった。

それでも、長くいっしょにいようとしたのは、妹が幼く見えたからだ。きっとあんなふうでは困るだろうと、わたしはずっと心配していたのだ。しかし、あれだけ知恵が回るなら、もう大丈夫だろう。私以外には八方美人なため、まわりもミケーラには優しい。あれだけ好かれる才能があるなら十分だろう。

ミケーラは恨めしげに言った。

「わたしのかわりにタペストリー作ってくれる約束は?あなたの婚約者にわたしがプレゼントする予定のやつ」

「あっちにもう作っておいたからね。ピンクのバラのやつ。」

小器用なわたしは不器用な妹のため、なんでもやっていた。

「あなたがいないうちに、また悪口いくらでも振りまいてやるから」

「新しく増えるの?わたしの悪行が。わたしが修道院に行っている間にも?」

「……過去話なら増やし放題でしょ」

低く、ミケーラは言った。

わたしは微笑んだ。

「まあ、もうわたしには関係ないから」


川向こうのわたしたちの屋敷。もう遠くなり、川の音が近づいた。妹の悪口や、まわりの好き勝手な目線よりいい。

「着きましたよ」

馬車から降りたわたしは、いままででもっとも質素な格好をしていた。たくさんの女性にかこまれ、今後はどんな縁談もないだろう。


どう、ミケーラ……わたしの妹よ。

もしかしたら、転生した前の妹だったのかしら。

わたしは悪役を降りた。悪に耐えて幸せをつかむヒロインをやりたいあなたからしたら、これは反則でしょうね。それとも、邪魔者が消えてやりやすくなった?


取りあえず、わたしは新しい生き方を選んだ。華やかな場での奪い合いには興味がない。けれど、もうわたしの人生は譲らない。


もう、二度と会わないでしょうね。

お読みいただきありがとうございました。

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