後編
「はーい!これでお仕事完了!もう帰ってもいいです?あ、依頼料は専用口座にちゃんと振り込んどいてくださいね?」
「ジャスミン!?」
途端に可憐な少女が元気いっぱいの声を上げて、すがりついていたジェイミーからも離れる。
「あー疲れた!久々に酷い案件だったわよ、王様!あとこのお嬢さんはあれには勿体ないわ。教育完璧だし。他国に取られないうちにまともな人を選んで貰いなよ」
「分かっておる」
「ジャスミン様?」
「ジェイミー様、良き伴侶を見つけてくださいね。あれと婚約破棄出来て良かったですねぇ」
ジャスミンはぽんぽんとジェイミーの背中を優しく叩く。
まるで友達みたいに。
「いやーほんとたくさん話してみたかったよ!うんうん、もしこの国に愛想尽きたら、いい男紹介してあげるからね?こう見えてもコネ沢山あるんだ」
「え?」
「あ、あと、王様リットンだっけ?あの子色々頑張ってたから報われると嬉しいな。バカ王子に正しい意見言ってたのあの子だけだったよ!報告書送るから読んでね!ドレス売ったお金は特別報酬で認めてくれると嬉しいなー」
「分かった分かった。だから我が国の才女を拐かさないでもらえまいか。リットンの処遇はきちんと査定いたす。それより我が国に身を寄せるつもりは……「ないよ」」
「やはりか」
「この仕事楽しいし、お嬢様が無理になっても側室とかまだあるからね!色んな女の子演じるの楽しいし!」
「気が変わったらいつでも連絡を。此度の任務はこれでしまいだ」
「あいあいさーじゃね、ジェイミーちゃん!」
「まて、ジャスミンどういう事だ!?」
「あーバカ王子?簡単に言えばあなたの後継者としての査定。見事落ちました。お疲れ様でした!」
ジャスミンがさっと優雅な一礼をすると、唖然として固まっていたリカルドとその取り巻きが、ようやく動き出した。
「衛兵、リカルド達を捉えよ。沙汰があるまで幽閉せよ」
疲れたような王の声に衛兵達はリカルド達を囲み引っ立てる。
王族相手とも思わぬ所業にリカルド達は抗議の声をあげる。
「何をする!私はこの国の王子だぞ。間もなく王太子に……」
「ならぬ。サイラスが次期王太子候補となる。ジェイミーは婚約者候補。こればっかりは相性だな」
「父上!」
「そもそも伴侶となるべき人物を真っ当な理由もなく蔑ろにする時点でダメだな」
「何故です!父上にだって側室が!」
「ヴェルダが認めた者だけだだから仲が良い」
そう王言うと王はサッと手を振る。
「皆の者、我がバカ息子の為に要らぬ心労をかけたな。仕切り直しだ!サイラス」
「はっ!」
「ジェイミー嬢をエスコートせよ」
「身に余る光栄です」
脇に控えて一言も発していなかった第二王子のサイラスが壇上からサッと降りてきてジェイミーに手を差し出す。
控えめなサイラスはパッと見が兄に比べれば地味だが整った容姿をしている。
顔は理知的で思慮深さを伺わせる。
「ずっとお慕いしておりました。どうぞ婚約者候補の一人に加えてください」
「……え?あの……その、はい」
サイラスの大型犬を思わせるキラキラの瞳に大きなしっぽがブンブンと振り回されているような錯覚にジェイミーはとらわれた。
可愛い。
思わず頷いてしまった顔が熱い。
今、たった今、婚約破棄されたばかりだというのに!
そこではたと気づく、全くリカルドに未練も何も無く清々した思いしか無いと言う事に。
「あの……婚約破棄したばかりで……その、直ぐには……」
「勿論です!兄からいつ奪えるかそればかり考えて、やっと巡ったチャンスに浮かれました!ゆっくり私をまず知って頂けたら!お友達からで構いません!」
「……あの……よ、よろしくお願い申し上げます」
「うんうん、焦っちゃダメだようんうん」
何故かしたり顔のジャスミンがギュッとジェイミーの手を握る。
「この王子もダメだったら私を呼んで?いい男紹介するから」
「ジャ、ジャスミン殿、お願いですから僕にチャンスを」
「大事にするんだよ?」
「分かっております」
「うんうん、じゃ、この辺で!アディオス!」
そう、ジャスミンは挨拶すると足元が光り虹色が飛び出すとフッと残像を僅かに遺してジャスミンは消えた。
「皆の者!パーティーの再開だ!卒業おめでとう!グラスを持て!乾杯!」
王の一言で気を取り直して卒業パーティーは再開された。
サイラスとジェイミーはお互い頬を染めながらパーティーを楽しむのであった。
この二人が国王と国母になるかはまた別のお話し。
「そうそう、別のお話しなのよ!ジャスミンちゃんいい仕事した!お金もバッチリ入ってホクホク!」
ここは婚約破棄させギルド。
通称『査定ギルド』
各国の国を憂う者が重要職であるにも関わらずその資質が本当に無いものを廃嫡するためのギルド。
ギルド員はあらゆる役を熟す名もない完璧な役者達。
ジャスミンは付けていた可憐な少女のメイクを落とすと次の依頼書の貼ってある掲示板へと向かった。
次の名前は何にしようかな?と楽しそうに呟きながら。