高校生活0日目
入学式前日のこと
古くからの決まり事で何曜日であっても学校の入学式、新学期の始まりは4月2日である。たとえ日曜日であってもそれが覆ることはない。単調な日常はわかりきった予定から始まる。決まっていて覆ることはなくてわかりきっているからつまらなく感じる。退屈を紛らわすために反発したり傷つけあったり、誤差範囲のイレギュラーで世界は回っていくのだと思う。そして本日は4月1日所謂エイプリルフールと言われ午前中はうそをついてもいい日だなんていわれているが、嘘ではなく入学予定の高校に来ている。そこには自分のほかに50人の同級生となるであろう面々と、全教師、先輩であろう生徒が朝っぱらの0時、深夜に集っている。ちなみに今日は日曜日である。
点呼が終了し、確認が取れたのであろう。先生の中でもひときわ偉そうな人がマイクを手にし話し始めた。
「3年生諸君緊張していると思いますが、春休み中の鍛錬の結果をしっかりと発揮し今年も問題なくこの地で学べるように”うろさま”を門まで導いてください。2年生諸君は3年生の導く姿を見て来年同じことを行うという自覚を持つとともに、近隣住民の方に”うろさま”が気づかないようにしっかりと結界を張る人は結界を、呪を結ぶ人は呪を、それぞれの役割を行ってください。1年生の人は邪魔にならないよう教師の後ろから路導を観導し、この地を移動される”うろさま”の姿を確認してください。観導後、姿が確認ができなかったものは近くの教師に申し出てください。」
先生は名乗りもせず、説明だけ行いマイクを置いた。自分を含んだ生徒は、「はーい」とか「はぁ」みたいなとりとめのない返事をし、付近の先生に誘導されるままに移動した。自分の背は低いほうではないため必然的に後ろのほうに追いやられる。初めて見るわけではないし、見たいわけではないから構わないが中学からエスカレーター式に上がってきた自分たちではなく受験して高校から入ってきたやつらには物珍しいだろう。特に列になるでもなく教師の後ろにいるからできるだけ新しく来たであろう同級生に邪魔にならない後ろのほうに移動した。
「よっ」
後ろから背をポンとたたかれた。中学からの付き合いの佐藤が同じく中学からの付き合いの金田の手を引いて立っていた。こいつらちびの癖に後ろに来て・・・いいのか?
「佐藤に金田、見なくていいのか?」
「別にいいんじゃね見えるのはわかってるし」
「ねむい・・・」
佐藤は適当に目をそらし、金田は眠そうに揺れている。自由か。あきれている自分に結構な勢いで人がぶつかってきた。
ドンっ
「うわっ」
「んぎっ、すみませんっ」
自分はびっくりはしたものの倒れることはなかったが、人の圧で押し出されたらしいそいつは変な声を出して地面に転がり謝ってきた。
「大丈夫ですか?」
「すみません大丈夫です。」
手を差し出すと素直に手を取り立ち上がった。
「ありがとうございます。」
お礼を言いながら膝についた砂を払うそいつは残念なこと男だった。背は自分よりは少し低い170㎝ぐらいだろうか、真ん中分けで眼鏡で少しおどついている。初めて見る顔だ。確かにこいつだったら人の圧に負けそうだ。弱そうだ。
「あのー・・・怒ってます?」
じろじろ見すぎたせいかやや引き気味に声をかけてくる。怖がらせたか。
「いや、ごめん見すぎてしまって怒ってないです。」
「そういってもらえるとありがたいです。制服ですし、1年生ですよね?」
ほっとしながらも恐る恐るといった感じで聞いてくる。
「そうだよー」
「敬語やめよう?ぞわぞわする。」
自分の代わりに金田が答え、佐藤は鳥肌立った肌をなでる。ようやくそいつは安心したようで笑顔を見せた。
「先輩かと思ったー、よかったー死んだかと思った。えっと、ぼくはは1年弐組の黒井賢太郎です。よろしくお願いします。」
黒井は眼鏡をあげながらすっかり緊張の取れた顔で自己紹介をした。
「よろしく。おれは佐藤修武今スナックパンが食べたい。」
「黒井君よろー、私は金田帆でーす。ねむい。」
「おれは岡野魁人です。よろしくね。あとちょっと気になってるんだけど何持ってんの?」
自己紹介ついでに自分が気になっていたことを聞いてみた。地面にころがったときも手をつくでもなく何かをずっと持っているのが気になっていた。
「あーこれね、どんぐり。」
大事そうに握りしめていたのはどんぐりでした。
「黒井って変な奴だろ」
思わず声に出た。
「否定できない。」
黒井は悪びれることなく答える。
「黒井のこと、どんぐり・・・ぐり君って呼んでいい?」
あほなことを金田が言い出す。いいわけあるか。
「いいよー」
いいのかお前。
「よろしく、ぐり君!」
どうやらおれらは相性がいいらしい。
ごそごそと新たな出会いと親睦を深めていると周りがざわついた。時刻は1時3分まだうろさまがいらっしゃるには早い。あたりを見回すと自分らの周りを囲うように透けた壁のようなものが現れた。
「うわー実物の結界は初めて見る!」
黒井はどんぐりを持ったままきょろきょろと結界を見回している。
「岡野たちはあんまり驚かないね?」
黒井は珍しくて仕方ないように見回している。
「まぁおれらは中学からこの学校だし、結界とかある程度の呪ぐらいは高校の外鍛錬の校庭でよく見るから見慣れてるかな。」
「だから3人は仲がいいのか!」
ようやく納得したようにうなずいた。確かに入学式の前なのに親しげにしていたら先輩か何かかと思うのもうなずける。
3年生が呪を唱える声が響き始める。声が重なって大きなうねりのように感じる。夜中の真っ暗な空間がうっすらと光始める。”おそら”と現世をつなぐとびらが作られている。光は大きな円状になりだんだんと円の中心の色が薄く、明るくなっている。ゆっくりと揺らぎ、円の中心が異質な空間と化した。
向こう側の空はピンク色で何かが横切ったり移動したりしているのが感じられる。とびらがひらかれた。
「あのピンクのとこが”おそら”かー。なんかおいしそうだ。」
「はじめてみるものを食べる想像するやつは危険だってばぁちゃんが言ってた。」
「佐藤のばぁちゃんすごいなきっとその通りだ。」
「自分でいう奴があるか」
「ぐら君って弐組の人っぽくないよね。話やすいや。」
金田はしみじみ言った。
「「わかる」」
「えっなんで?」
佐藤とおれは思わずハもる。部活の先輩たちの話を聞く限り壱組、弐組のやつらは嫌な奴が多いらしい。どこの学校も生徒のスペックである程度のひいきやカーストが存在する。うちの学校も例外ではなく学業、導力の優れた生徒は壱、弐組に振り分けられる。自分らのように導力を持つが量も質も大したことが無いやつらは参、肆、伍組に振り分けられ壱、弐組の生徒の邪魔をしないように学校生活を送ることとなる。だから、普通に弐組の人間と話したりするとは思ってもなかった。それは佐藤も金田も同じようで思わず口に出してしまった。黒井はそんな内情を知るはずもないからかハもったおれらを不思議そうに見ている。おれらは弐組に振り分けられるぐらい優秀な奴がどんぐり拾ってるほうが不思議である。っていうか今4月だぞ。どこにあったそのどんぐり。
俺らの態度に口を開きかけた黒井だが、声が出る前にあたりの空気が変わった。
来る
3年が唱える声は依然と響いているがあたりはなぜは寒々しい静けさを感じさせ”おそら”とつながるとびらの向こうも先ほどまで感じられたいくつかの気配が消え静まり返っている。
おれらは体験済みだが、初めてこの空気を感じたときはただただ恐怖を感じた。おれは黒井に目を向けた。黒井はとびらを凝視しているようだった。
黒井以外のおそらく初めて体験するであろう生徒は皆とびらを見ている。
時刻は大体2時であった。とびらからドッという空気とともにでかい魚みたいなものの群れが飛び出してきた。その群れはうねり、結界にぶち当たりながらも結界に沿って進んでいき校庭の終わりにある池に水面を揺らすこともなく吸い込まれていった。時間はおおよそ1時間であったが一瞬の出来事のように感じられた。
「めっちゃ魚だった」
黒井は瞳孔全開でつぶやいた。どうやら見えたらしい。
「あれは刺身がうまそう・・・」
こいつの目には”うろさま”はどう見えたんだよ。
おれらはもしかして進級早々やばいやつと出会ってしまったかもしれない。思わず、佐藤と金田に目を向けると二人とも冷や汗をかいている。考えることは同じようだ。
語彙
うろさま:”おそら”にいらっしゃる存在の総称。神様のようなもので現世では実体が不安定な生物。特定の時期に移動を行いそのルート上に現世がある。迷子になりやすいため導く必要がある。
結界:そのまま結界。
呪:導くために行う術などの総称。
路導:うろさまを導くこと。
観導:路導を見届けること。
人物紹介
岡野魁人:男、身長180㎝、好きなタイプは賢いアホな女の子。理想の出会いは空から女の子が降ってくるシュチエーション(ラ〇ュタ的な)。げんじつてきでないせかいににげるけいこうがあるありふれている。
佐藤修武:男、身長159㎝、好きなタイプはご飯をおんなじぐらい食べれる女の子。理想の出会いは図書館とかでうっかり手が重なって「っあ」ってなってきまずくなるやつ。ひとにやさしいじぶんがすきだからがんばる努力はできる。
金田帆:女、身長140㎝、好きなタイプはイケメンで身長が高くて優しくなくていいから父親を殺してくれるポテンシャルのある奴(男女問わず)。理想の出会い、相手の戦闘力が解れば何でも。なやみななさそうなやつはじぶんのじんせいにいなくていいよとおもってるマジで。
黒井賢太郎:男、身長171㎝、好きなタイプは思い通りにならない子、乳がでかいとなおいい。理想の出会いは特にない。いきているものならなんでもきほんてきにすき基本的に。