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ある日の日常~四年前~

作者: 狼☆


『2046』



 ……あった。俺の番号が。2046、間違いない。

 俺は今、どんな顔をしているだろうか。嬉しそうな表情だろうか? それとも、これからの事を思って不安な顔をしているのだろうか?

 ……恐らくはどちらでもない、無表情であることだろう。なんの感情も感じられない、冷たい目をしているのだろう。


 周りを見れば、喜びはしゃぐ顔と五月蝿い矯声だ。落胆した様子を見せる顔はあまりない。それもそうだろう。そもそも定員割れしているし、カリキュラムに専門課程が入ってくるから、五教科のレベルが普通校と比べて断然低いのだ。中学の平均評定が3,0。こんな俺ですら簡単に合格出来るようなレベルである。


 俺は、裡副工業高校インテリア科に合格した。

 入学式、俺は早々に遅刻した。しかも、全員長袖なのに対して俺一人半袖。やってしまった。制服ならなんでもいいだろうと思っていたが、まさか指定されていたとは。

 しかしここまで来てしまったらもう仕方がない。俺の出席番号は19番。38人を二列にするので、最後尾になる。俺はそのまま体育館に侵入し、一番後ろの椅子に座った。



 入学式が終わり、教室に入る。我が一年四組の教室は四階の真ん中。科目教室、トイレ、玄関。何処へ行くにも、物凄く不便な位置にあった。

 教室内を見回す。裡副工業高校は俺の出身中学の近くにあるため、この中にも見知った顔は多い。



 ふと、左前方に違和感を覚えた。窓側の三番目に座る女の子。肩より少し長めの綺麗な黒髪。ほっそりした体型。あの後ろ姿には見覚えがある。入試の時に俺の左前方に座っていた子だ。


 入試の時なんて、俺は周りを見ていなかった。ただ眠いのと、「次の試験はなんだっけ?」しか頭に無かったからだ。だから、他校の生徒で頭に残っていたのは彼女だけだった。

 気になって仕方がなかった。何故こんなに気になるのか、自分でも訳がわからなかった。ただ、彼女のその後ろ姿は俺の脳裡に焼き付き、いつまでも消えなかった。




 二年生になった。裡副工業高校では毎年『体育祭』『裡工祭』『工業祭』をローテーションで催される。去年は体育祭。今年は裡工祭だ。俺達二年四組は紙で色んな物を作る“ペーパークラフト”の作品を展示したり、バルーンアートをしたりした。客の入りも良く、評判も良かった。大成功と言えるものだっただろう。

 俺は学校生活が楽しいと思えるようになり、時折本来の笑顔を見せることもあった。




 二日間の裡工祭が終わり、疲れた俺は帰って家でだらだらし、その日は十時に寝た。普段の何倍も疲労が溜まっていたため、直ぐに寝付いた。揺り動かされても起きないほどに、深く。 裡工祭の振替休日が終わって朝早く登校する。この休日の二日間、ずっと幼稚園の子ども達と遊んでいた。全身筋肉痛でかなりダルい。

 裡工祭の翌日朝に家の近くに停まっていた救急車の事を考えながら席に座り、机に突っ伏す。正門から校舎までの二百メートルはある下り坂と二年四組の教室がある四階までの階段は、俺の体を徹底的に虐めてくれた。最早今日は二度と起き上がらないぞ。先生が何を言おうとも、知ったことか。



 そんな俺の決意は、担任の一言で呆気なく霧散した。 あの子が、事故に遭ったという。裡工祭が終わった後に上級生の運転で夜通しドライブして、明け方に居眠り運転で街路樹に激突。後部座席で寝ていた彼女は眠ったまま意識を取り戻さず、病院に運ばれた。運転していた上級生の容態は知らない。



 事故現場は、裡工祭の翌朝救急車が停まっていた場所だった。



 皆でそれぞれメッセージをCDに吹き込んで、彼女の枕元で流した。

 皆で千羽鶴を織った。

 誰も、最悪の事態なんて考えなかった。皆が信じて疑わなかった。彼女は、必ず帰ってくると。


 俺も、そう信じていた。「…………??」


 彼女が事故に遭って一ヶ月半が過ぎた。

 午前三時半頃、俺は不意に目を覚ました。別に寒くはないし、逆に暑くもない。

 騒音もない静かな暗闇。尿意で目を覚ましたのかと思ったが、どうやら違うようだ。

 何故起きたのかがわからない。それに、何か奇妙な感覚と耳鳴りがする。

 この感覚、まさかアレだろうか?




 去年の体育祭の練習の時、俺は一人の生徒に目を奪われた。三年調理科の男子生徒。フォークダンスを踊っていた三百名近い三年生達の中で、彼だけに目が留まったのだ。どうしても目が離せない。彼の身体から光のようなものが見えた気がした。この光、入試の時にも見たかもしれない。左前方に座っていたあの子。なんの光なのだろうか?





 その男子生徒は体育祭の最中に倒れ、翌明朝に亡くなった。「……まさか」


 ふと思い出した、去年のこと。俺が目を留めた人物が亡くなった。しかし偶然として片付けることも出来る。そう、きっと偶然だ。

 不安と恐怖がじわじわと襲い来るが、俺は無理矢理それらを頭から追い出して眠った。










 翌朝、ホームルームが終わると同時に、担任は泣き出した。


彼女は正に誰からも愛される明るい女の子でした。最終的に完成した千羽鶴は、他クラス・他学年の生徒まで手伝ってくれたため、桁を一つ飛び越えたほど。

その後彼女の机の上には可愛らしい写真立てと一緒に沢山のお菓子や花やぬいぐるみなどで賑わい、彼女の人柄を如実に表していました。


『光』は、今も目に映ります。最近も後輩が一人亡くなりました。ほとほと自分の眼が嫌になります。

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