保健室
重苦しい空気の中、体を起こした武咲の視線が刺さりまくる。
もはや痛みを錯覚するレベルの睨みだ。
(誰か助けて……)
などど思いつつ、俺は口を開く。
「もう大丈夫なのか?《転天》の効果は」
「ええ、なくなりました。おかげさまで、こんなところに運ばれてしまいましたが」
なにも言葉が返せず、俺は口を噤む。
そんな嫌味みたいに言わなくても、と思っていると彼女が口を開く。
「……アレは、なんなんですか」
「アレって……ああ、櫛義流か。言ったろ、ツボを押してんだ。あとあらゆるものに存在する経穴を押し、そこから全体的に流れてる力をーー」
「だからッ!それが無茶苦茶だって言ってるんですッ!!」
「そうは言われてもな……こっちからしたらお前の方が無茶苦茶だぜ。次々と体から武器を生み出しやがって……つっても、際限なく、ってわけではないんだろ?」
「そんなことは……」
「腕掴んだ時わかったよ。俺を刺すためにナイフ生み出したろ。あの前と後じゃ、血液の流れ、というよらの量が変わってた」
「っ……!そんなことまで……」
つまりは、彼女の能力は血液と引き換えに武器を生み出す能力。
際限なく生み出せるわけではない。
血液と引き換え、ってのはかなり危ない能力なのは間違いないだろう。
流石に失血死とかはないだろうけど。
「……あなたが言った通り、私の能力は体中に流れる血液を利用して武器を生み出します。使用量は基本的に大きさと比例し、大きければ大きいほど血液が失われて行きます」
とのことらしい。
俺がそのことで言葉を返そうとした瞬間だった、突然ドアが勢いよく開けられる。
中に入ってきたのは理事長、まさか会話中ずっと入り口にいたのだろうか。
「押木くん!急ぎたまえ!クラスでの説明会が後、五分で始まるぞ!」
「え!い、急ぐってなにを!?」
「言っただろう君。勝ったらこっちの条件を飲んでもらうって」
「あ、そうか……」
それで校長先生はこっちに連れてきたのか。
確かに俺はそんなことを言った。
なんとなくで、面白いから。
漫画とかでよくありそうな感じだったし。
「それで、私はなにを。退学ならば既に準備できていますが」
「なんで退学なんだよ……そう、だな……」
なにが最も嫌がらせで効果的になるか。
と考えたとき、彼女の前の言葉を思い出す。
明らか様に俺に対して敵意を抱いてる、今だってそうだ。
無能力者である俺が、ここにいることが許せないということらしい。
ならば。
「友達だ」
「は?」
「友達なる。それが俺の出す条件だ」
「……あの。意味がわからないんですが」
「お前は退学しない、俺と友達になる。それだけだ!」
「……いや、やっぱり意味がわからないんですが……まぁ、それがあなたの出す条件だと言うのならば、私は飲み込みますけど……」
未だ彼女は困惑していた。
そんな困惑した顔をされると、俺もこれが正解だったのかわからなくなる。
なんか違う気がしてきた。
しかしもう取り消すことはできないだろう、飲み込むと彼女が言ったのだから。
「話は終わったね!じゃあこの保健室は閉店だ!さあ教室に向かいたまえ!」
「君たちの教室は1-γだ。ここの三階にある」
保健室の入り口に、いつのまにか立っていた校長が上を指差して言う。
武咲はベッドから出てきて、立ち上がると軽く腕を回す。
そして俺の方を見て、行きましょうと言った。
俺はお、おうと軽く返事をして、一緒に教室へと向かう。
向かい途中のことだった、彼女は俺に聞く。
「……あなたは何のためにこの学校に来たのですか。無能力者の身で」
睨むように視線だったが、俺はその言葉に立ち止まる。
俺がここに来た理由、それはたった一つだ。
師匠に無理やり行かされたから。
だが……。
「……人を探してる」
「人、を?」
俺も師匠も、他の弟子たちも。
皆、ある一人のことを探している。
俺たちの姉弟子で、師匠よりも強力な力を持ち。
そして突然出て行ったあの人のことを。
俺が専念したかったのは、あの人を探すことだ。
あの人を見つけ出して、問いただす。
それだけだ。
「何故、人探しでこんなところに」
「さぁな。俺もわかんねぇよ」
「何故わからないのですか」
「そりゃだって。師匠が勝手に……」
そう言えば、何で何だろうか。
師匠は俺を無理やり学園に送った。
俺があの人を探したいことわかっている上でだ。
なんか考えてると、わけわかんなくなってくる。
「……まぁ、いいでしょう」
「そう言うお前は学園に来て目標とかあんのか?」
「私は……私、は……」
彼女は歩きながら考え込む。
そして少し後、教室の入り口に着いたとき、彼女は足を止めて俺の方を見て答えた。
「父に認めてもらうため、です」
そう言って彼女は先に、教室に入って行った。