病室
(勝てた、勝てたんだよな。な?)
心臓がバクバクと酷い具合に鳴り響く。
かなり余裕ぶった態度を見ていたが、実際はこうである。
今にも死んでしまいそうなくらい鳴り響き続けているのだ。
運が良かったと言うべきだろう。
俺は武咲に言った通りツボを、経穴を見極めて戦う。
しかしその実態は……ほとんど使えない、だ。
完全に習得しきれていないのだ、八割ぐらい。
今回使ったのはなんとか成功率が高いもの。
これ以外にも技は色々あるのだが、俺が使うとなるとかなり成功率が低い。
俺はある人にこの技を教わっているのだが、その人に弟子はもっとたくさんいる。
それこそ俺以上に技が使えるやつなんていっぱいる。
だからこそ、なんで俺なんだ、と。
「武器破壊の《鉄発》……成功するとは思わなかったな」
少し赤くなった右手の親指を見て、戦闘内容を思い出す。
剣を破壊して見せた技の一つが《鉄発》だが、あれ使った後は親指が痛くなる。
彼女の剣を破壊した時は右手で、《転天》を使った時が左手。
《鉄発》を使うと、しばらく使った指で押せなくなるのが困りものだ。
まぁそれも近いうち解消できるようになりたい。
この学園で戦いを経験すれば、なんとかなるだろうか。
そんな考え事して歩いていると、突然目の前にスーツ姿の誰かが現れ、驚きのあまり尻餅をつきかける。
「君は……押木くんか」
「校長先生!?い、一体どこから……いや……それが、能力ですか」
「ああ、《座標転移》。俗に言う瞬間移動というやつだ」
「……座標転移、ってことは……自分以外も対象なんですか?」
「そうだ。と言っても、あのアホはそんなことしなくても……いや、それよりもちょうどよかった」
そう言って俺の肩を触ると、その瞬間ぐわんと大きく視界が歪む。
歪みによって少し足がおぼつかなくなり、それと同時に吐き気がもたらされ、口を押さえながら座り込んでしまう。
「お、オェッ……!!」
「す、すまない。初見でこれをやると脳みそに直接影響が出るのを忘れていた」
「忘れないでくださいよ。そんな、大事なこと……」
そんなことを呟きながら立ち上がると、病室の前のような場所にいた。
ドアの上に置かれている札を見ると、保健室と書かれている。
保健室にしては些か大きすぎるような気もするが、学校の内容が内容だからなんとなく納得できる。
「こんなところに一体……」
「やはははっ!!!よく来たな、ねっ!!」
「ちゃんと話せ。無撃」
「おっとすまない。テンションが上がるとどうにも喋り方がおかしくなってしまってな、なはははっ!!!」
「知ってるよ。昔っからお前はそうだった」
かなり心配になる理事長だが、どうやら校長先生が抑え役らしい。
昔っから、って言ってるところからかなりの仲のようだ。
幼馴染とかだったりして、流石にそれはないかもしれないが。
「さて……君君、確か押木くんだったね?あの技、なんて言うんだい?能力じゃないんだろ?」
「……」
実のところ、ああなるとは予想していなかった。
だってあんな告発されるなんて思っていなかったのだ。
武咲とか言う頭のおかしい女が、突然叫び出して俺を無能力者だと糾弾した挙句、退学を賭けた決闘とか言い出すから。
本来は適当にこれこれこう言う能力ですよー、で通す予定だったのに。
実際、入学の申し込みで書いたやつはそんな風に書いてある。
「……ええ、まぁ。能力者じゃないとバレてしまったんで」
「そう言う割にはノリノリだったけどね。まぁいいか、で、あれなんて言うんだい?」
「櫛義流、だとか」
ちなみに櫛義って言うのは師匠の名前である。
師匠の一族が代々受け継いできたとかなんとか。
あの人、嘘ばっかだから本当かどうかわからないけど。
「ふーん……そうか……なるほどね」
突然、理事長はジッと俺のことを見つめ始める。
一体どうしたのかと思っていると、ニヤリと笑って俺の肩をバンバンと勢いよく叩く。
「いいね!」
「なにがっ!?」
「細かいことは気にするな!いい大人になれないぞ!」
「よくわかんないんですが……」
「私が納得したからどうでもいいんだよ。ほら、入りたまえ!」
この人マジで大丈夫かと思いながら、押されて病室に入る。
中に入るとベッドの上に寝転んでいる少女が一人。
武咲 華乃、俺が負かした張本人である。
俺はとりあえず片手を上げて挨拶をした。
「……えっと……よっ」
「……なんですか」
その病室は随分と、険悪な空気だった。