舞台
「ここは能力者と異世界人のための学校。貴方のような人間が来る場所ではない。なんの能力も持たない貴方がッ!!」
キッ、と力強く睨む姿に俺は思わず視線を逸らして隣の二人を見てしまう。
二人とも少し驚いたような顔をして俺を見ていた。
驚きたいのは俺の方だ。
あの敵意に満ちたような目、嫌な感じしかしない。
「 ……うーん、何言ってんだ。アイツは」
「押木くんに、決闘を申し込むとか……いや、それよりも君は……!」
「どういうことだ。能力がないとは」
「無事入学できたら話すさ」
少女の方に横目で視線を向けると、少女は未だ指を指しているし睨んでいる。
ついでに周りのほうも見れば皆、騒めいたり呆然として俺のことを見ていた。
理事長なんかすっごい笑みを浮かべてニヤニヤしているではないか。
楽しんでんだろ、と文句を言いたくなったが、今は先にこっちを解決しなくてはならない。
言い訳するのも諦めて、俺は立ち上がると少女こと武咲 華乃に指を指す。
「いいぜ、受けてたってやるよ」
そんなこと言われては受けて立たない理由がないだろう。
確かに俺は世間一般的に言われている『能力者』ではない。
異世界人のように何かしら力があるわけでもない。
(だが、俺ならば対等な勝負ができる)
とは言ってもだ。
このままただ勝負を受けるだけでは面白くない。
少し考えた後、俺は指を指したまま言い放つ。
「だがこちらが勝った場合、とある条件を飲み込んでもらう。いいな?」
「いいでしょう。退学でもなんでも、受け入れます」
少女が俺のことを睨みつけたままそう言うと、我慢ができなくなったと言わんばかりに理事長が出しゃばってくる。
「いいのかい、君たち。こんな楽しい話……じゃなくて、こんな簡単に退学なんてかけちゃって」
「私は大丈夫です。もし仮に負けたとすれば、無能力者に負けるなんて恥でしかないですから、自らやめてやりますよ」
「そりゃいい!……あー、よくないね。うん」
パッと気づかぬうちに姿を現した男に頰を引っ張られ、発言を訂正させられる理事長。
突然現れた男はパンフレットで見たことのある顔でこの学園の校長だった。
校長は理事長からマイクを奪い取ると、軽くマイクを叩いて声の確認する。
そして俺と武咲の顔を交互に見た。
「……この理事長に変わって続けるが、両者、今の発言に相違ないと見ていいのだな」
「私はありません」
「……俺もない。決闘を挑まれた以上、俺だってやる気だ」
「了解した……それでは入学式を一時中断した上で、第2体育館に移る。30分後、両者は第2体育館の模擬武台にて待機。第2体育館の場所はパンフレットに書いてあるから各自移動しろ。解散!」
手際の良い命令が出されたと思うと、圧倒言う間に解散を言い渡された。
騒めきながらも入学するはずだった生徒達は体育館から立ち去って行く。
隣の二人もそれぞれ立ち上がると俺に聞く。
「取り敢えず能力があるないは置いといて。勝てるのかい?」
「どうだろ。向こうの能力の具合によるよな」
「能力か……押木。お前は知っているのか?彼女の能力を」
「まぁ、武咲一家の能力は何度かテレビで見たことあるな」
「頻繁に特番組まれているからね。世界一、ってだけあって」
第2体育館に移動しつつ話を続ける。
「武咲 華乃、能力は《武装展開》。ある意味そのまんまの能力だな」
「そのまんまか……俺はずっとアージスにいたから詳しくは知らない。教えてくれないか?」
「うん、僕が教えるよ。《武装展開》、テレビで組まれていた話じゃ自身の体から、自身が武器と断定したものを生み出す能力。それが例え爆弾でも鉛筆でも、武器として彼女が断定したのなら生み出すことができるんだ」
「デメリットはあるのか?」
「基本的にはない、とされてるな。まぁ、彼女自身の実力も相まってかなり強力な能力だ。ただ無から有は生み出せない。何かしらのデメリットはあるはずだ」
「……なるほどな」
何故こんなにも簡単に能力を公表するのか。
能力を公表すると言うことは弱点を曝け出すということ。
って、バトル漫画に書いてあった。
まぁ、能力を公表する理由は武咲家当主が言っていた。
『弱点を曝け出した程度で負ける軟弱者は、うちの家にはいませんよ』と。
「まぁ、どんなパターンがあるのか全くわかんねぇから、用心はすべきだろうな」
「……どうなるか、僕たちは見てるよ。頑張って」
「頑張ってくれ」
「おう」
二人は二階席へ移動、俺はそのまま真っ直ぐ歩いて行き、一階の控え室前を通る。
そこでさっき聞いたばかりの、武咲の声を聞いた。
「今更なによ。私に文句でも言いに来たのかしら」
「……お嬢様、何故あのようなことを?」
「許せなかっただけよ。そもそもあいつの存在を教えてたのは、貴方でしょう?」
「そうですが、それはーー」
それ以上の言葉は聞かなかった、だって盗み聞きはよくないだろう。
それに俺自身の話なんてあまり聞きたくはなかったからだ。
どうせ俺の話から逸れるのは間違いないだろうし。
「……クソ師匠、俺はやって見せますよ。あの人を、絶対に見つけ出す」
俺は密かな決意を呟いて、模擬武台へ登り上がった。