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登校中

 朝日ギラギラ、クソッタレの太陽が春だというのに照りつける。

 到底春とは思えない暑さに、俺はため息をつきながら坂道を登っていた。


(……クソ、なんで学校がこんな上にあるんだよ)


 そんな愚痴を頭の中で吐き捨て、上を見上げる。

 俺を見下ろすのは大きな校舎の影。

 まぁ影と言っても俺たち入学者を歓迎してくれているわけではないようで、この暑さから守ってくれるような事はない。

 周囲を見れば一部を除いて、同じように項垂れながら歩いている人たちが数人。

 格好を見ればわかる通り目的地は同じようだ。


「クッソ……なんで俺なんだ」


 今度は愚痴を口に出して足を進める、そんな俺の名前は押木 藤真。

 ただのなんの変哲も無い、今日から高校生の男子学生である。

 小学、中学と義務教育である以上通っていた俺は、とあることに専念するために高校に行く予定はなかった。


 だがそのあることを俺に教えてくれている人が、無理やり入学届けを出した挙句、行かなければ絶縁するとか言い出したのだ。

 当然、意味わかんない、と俺は訴えかけたがそんなもの知らね、と切り捨てられ行かざるを得ない状況に追い込まれたわけだ。


(くたばれクソ師匠……)


 汗水垂らしながらまたもや頭ん中で愚痴を吐き、ちょうど木の影があったところで立ち止まる。

 道の上の方を見れば、結構な人数が座り込んだりして休憩していた。

 皆考える事は同じらしい、当然と言えば当然なんだけどさ。


 ただ入学式が始まるまでに行かなければ、取り消しになってしまうらしい。

 時間を守れない奴が世界を守れるか、と言うことで。


「……一体何考えたら、この暑さで、こんな坂を、歩かせんだよ……」

「……同感だな」


 俺の言葉に同調する声を聞き、振り返って後ろを見る。

 そこに立っていたのは2mくらいあるだろうか、と言えるような巨体を持つけむくじゃら。

 いや、フサフサとでも言うべきか。


 顔は完全に狼のものと一致、だがそのギラつくような目は人間のそれと同じである。

 なんというか狼人間って言葉がしっくりくる。


(獣人、か……)


 獣人、いわゆる異世界の住人というやつだ。

 本来地球には存在するはずがないものだ、数十年前までは。


「お前は……?」

「俺は……なんつーか……あー、見ての通り、獣人で……多分お前と、同期だ」

「なるほど……お前も一年生か」

「ああ……そういうことだ」


 彼は床に座り込んでガードレールにもたれかかる。

 暑さのせいか、まともに話すことすらままならない。

 とにかく今は休憩したい一心で、俺も彼の隣に座り込む。

 思考すらままならない頭の中、俺は文句を言うように呟いた。


「なんで、こんな……あー、暑いんだ……」

「……教師の仕業らしい……あづい……」


 俺たちは影に入っても続くあまりの暑さに身動き一つ取れなくなる。

 ここで鈍る頭の中で酷い事実に気づく。

 一度でも足を止めてしまえば、俺たちは動けなくなる。

 疲労感が一気に襲い、未だ来る熱が更に体力を奪い続ける。


 入学試験が免除されていると聞いた時点で怪しいと思っていたが、これは一種の試験みたいなものなのだろう。

 ただここで入学できないと非常に困る。

 理由は当然師匠の話だ。


「くっそ……」


 ガタガタと震える足でなんとか立とうとするも、やはり体力が底を尽きているようで、俺の体が立つと言う行為を拒否していた。

 あと少し、あと少しで立てると言うところで座り込んでしまう。


(あの太陽……ま、まさか、能力か。教師の、能力……じゃないと、この熱の説明が、つかねぇ……)


 やられた、そう考えた時にはもう思考が体に追いつかなくなっていた。

 どうする、どうすると、頭の中で延々に考えていた時。

 体が限界を迎えたのか涼しいと言う幻覚に陥る。


(……?いや、これは。幻覚、じゃない?)


 涼しさを感じているうちに、思考がどんどんとはっきりとし始める。

 いつの間にかぼやけ始めていた視界も明確になり始める。

 漸く頭の中がクリアになったところで、俺は涼しさの正体を知るべく周囲を見渡した。

 だがそんなことする必要はなく、答えは目の前に存在していた。

 目の前で手を差し伸べる白髪の少年だ。


「大丈夫かい。二人とも」

「あ、ああ。たぶん、おかげさまでなんとか……」

「死ぬかと思ったが、俺も多分大丈夫、なはずだ」


 そう言って隣にいた獣人は、立ち上がって伸びをする。

 俺も立ち上がると軽く体を動かして歩く準備を始めながら、目の前立つ救いの神様こと、同い年であろう少年に聞く。


「お前は一体……」

「僕は氷雪(ひょうせつ) (れい)。名前のまんまみたいな能力を持ってるよ」

「なるほどな、冷気を操るとかそう言う類の能力、ってことだ。っと……そうだ。俺の名前を、言ってなかったな。レグシス、レグシス・アーネドルだ。よろしく頼む」

「俺は押木 藤真。これと言って特徴はないが、ヨロシク」


 軽く自己紹介を交わすと氷雪は先行くね、と言って道中で倒れている人たちを助けつつ進んでいった。

 その場に残ったのはレグシスと俺だけだがレグシスは。


「……さて。俺も進むか」

「はえーな」

「ああ、冷気が冷めないうちに、できるだけ進んでおきたいからな」


 それだけ言い残すと彼は先へと進んでいった。

 俺はどうしたものかと少し考えた後、結局休憩しても暑いだけだと思い先へと進むことを決めた。

 そこから校門に辿り着くまで結局、かなりギリギリの時間になるのだった。

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