83.動揺?
レフトンは執事を本気で労わるように声を掛ける。執事もレフトンに敬意を払いながら、実の主に愚痴をこぼす。その様子を見てライトはある程度察した。
「へえ、そういうこと(この男もレフトンの味方になっていたということか。ソノーザ公爵家の執事なのに)……」
レフトンの人脈は広い。何故なら、普段のレフトンは貴族らしからぬ振る舞いばかりしているが、いざという時の交渉能力は王族の中で一番優れているからだ。それを駆使して様々な人物と面識を持って情報収集や協力関係を築いているのだ。それは、平民から貴族まで立場の関係など気にしない。王都から辺境の者まで幅広い。レフトン自身が敵意を持った貴族に仕える執事も例外ではないということだ。
「(一体いつの間にこんな人物と関わったんだろうね)」
ライトが感心してみている傍らでエンジが固まっていた。それに気づいたライトは首を傾げる。
「ん? エンジ、どうかしたのかい?」
「……おい、今、ミルナと言ったか? ミルナと!?」
「?」
ここでエンジが執事の口にした女性の名前に反応した。その顔は明らかに動揺しているように見える。
「え? ええ、そうですが。貴方はミルナのことは知っておいでですか? この屋敷に仕える使用人、侍女の名前なのですが……」
「彼女は黒髪黒目で、元は子爵家の令嬢だったことはないか!?」
「な、何故それを!?」
詳しい特徴を言い当てられたせいで執事は動揺した。それを見たエンジは確信した。
「そのミルナとは、もしやミルナ・ウィン・コキアのことではないのか!? かつて没落したコキア子爵の一人娘の!?」
「何!?」
「何だって?」
普段冷静なエンジが取り乱し始めることに驚くレフトンとライト。肩を掴まれて至近距離で迫られた執事は落ち着いた様子で対応する。狼狽するエンジの顔を見据えながら。
「……側近のお方。貴方は今は亡きコキア子爵とはどのような関係でしたか? お名前をお伺いしても?」
「俺はエンジ・リュー・アクセイルだ! ミルナ・ウィン・コキアは俺の大切な幼馴染だ! 彼女がここにいるのか!?」
「!」
エンジは家名まで名を明かした。エンジの家名、それにミルナが幼馴染と聞いた執事はどこか安心したように微笑んだ。
「……そういうことでしたか。エンジ様、貴女の幼馴染は確かに彼女のことでしょうな」
「本当か!?」
「「!」」
「ええ、間違いありません。彼女のことは侍女として雇った時から知っていましたので」
「一体どういうことなんだ! 詳しく教えてくれ!」
「もちろんです。私個人としては貴方のようなお方にこそ事情を聞いてほしいと思っております。旦那様方が奥の部屋で取り込み中ですので、ここでお話しします」
執事はサエナリアの専属使用人となったミルナについて話し始めた。だが、レフトンは別のことでも驚いていた。
「(あのミルナさんがコキア子爵の? 彼女は何も言ってなかったぞ!?)」
レフトンは予想外の事態になって動揺するが、とりあえず執事の話を聞くことにした。目的を果たすためにも、エンジに落ち着いてもらったほうがいいと思ったからだ。




