81.手入れ?
第三王子ナシュカが男爵令嬢マリナと話を終えた頃、ある三人の重要人物を乗せた王族専用馬車がウィンドウ王国の北側にあるソノーザ公爵の屋敷の前に着いて停止した。
「ようやく着いたぞ、ここがソノーザ公爵家だ。結構長い道のりだったもんだぜ」
「ああ」
「そうだね」
馬車の中にいたのは、王子どころか貴族らしくない言葉遣いの第二王子レフトン・フォン・ウィンドウとその側近二人のことだ。側近のうち一人は子爵令息のエンジ・リュー・アクセイル。もう一人は騎士志望の平民ライト・サイクロス。王子の側近でありながら貴族と平民と言う立場にある二人だが、共にレフトンに信頼され互いに信頼関係を築いている。もちろん、主であるレフトンに多大な信頼を寄せられてもいる。
「ここなんだね、でも……」
「ん? どうし……」
馬車を降りて屋敷の門の前に立つレフトンたちは、三人とも奇妙なことに気付いた。公爵の屋敷にもかかわらず門番をする衛兵がいないのだ。屋敷そのものに違和感も感じる。
「……まあ~、あれだ。着いて早々いきなり怪しくなったけどな」
「ああ、公爵家にしては雰囲気的にも明らかに妙だ。何だろうな、この違和感は? 第一王子が去った後に何かあったか?」
「そうだね。門番をしている衛兵がいないし、道の手入れがなってない。多分、使用人に変化があったんだろうね」
「手入れ?」
「使用人?」
ライトが口にした言葉にレフトンとエンジは首を傾げた。
「よく見て。屋敷の門と扉までの通路が人が通った後で汚れている。しかも乾いているということは結構時間がたっていることを意味する。こんなものは使用人が掃除して奇麗にするものだ。それが見るからに残っているということは使用人がそういう働きをしていないか、今この屋敷に使用人がほとんどいないことを示していると思われる。だから手入れがおろそかになっているとみるべきだ」
「……な、なるほど~」
「言われてみれば、そうだな……」
手入れに関してはレフトンとエンジは気が付かなかったことだった。公爵家ほどの屋敷で衛兵がいないことくらいしか二人とも気づかなかったのだ。二人は貴族だというのに、平民出身のライトが真っ先に気付いた事実は若干傷ついた。
「それに残っている靴後をよく見ると、複数人の者が同時に屋敷から出て行ったみたいだね。どれも屋敷の外に向いている。これはおそらく、乗り込んできたカーズ殿下がソノーザ公爵の次女ともめたのを機に、多くの使用人がソノーザ家見限って辞めていったとみたほうがいいね」
「「…………そうか(観察力すげえ)」」
……ライトの推察が流石にここまでいくと、二人はもうプライドが傷つくこともなかった。これこそがレフトンがライトを側近にする理由の一つだ。ライトは騎士としても強いが、それ以上に観察力と洞察力に秀でているのだ。所謂、文武両道というものだ。
今の時点でも十分優れているが、ライトの推察はまだ終わらない。




