65.側近は平民?
ウィンドウ王国。長い間、他国と平和な交流を深めてきた豊かな国だ。だが、それはほとんどの国が同じだった。過去に戦争が起こったことがあったが、100年以上前にどの国も戦いで疲れはてた末に、和平条約を結んで今に至る。
ただ、戦争がないからといって平和が乱されないとは限らない。何故なら、国というものは一枚岩ではないからだ。国の政治は王家を中心に貴族が行使する。その貴族同士による戦いがどの国でも必ず起こるのだ。それが権力争いだろうと、出世争いだろうと、血生臭い争いだろうと………。
「………だからこそ俺みたいなのが必要ってなわけよ」
「理解した。何度も聞かされたからな」
急遽用意された馬車の前で貴族同士によるしがらみについて語るのは第二王子レフトンだ。聞かされているのは彼の側近のエンジ・リュー・アクセイル。茶髪で赤い瞳の鋭い目をした子爵令息の少年だ。
「レフトン、お前が身内のために争いごとを極力避けるために騎士になるという思いはよく理解しているさ。だが、お前でなくてもよくないか? お前自身が王家の血筋であるというのに」
エンジは、レフトンが次期国王に担がれることを逃れるためにわざと貴族らしく振舞わず、成績も極力目立たないように努力していることをよく知っている。兄弟のために多くの情報網を持っていることも。そのことを不憫に思っている。
「だからこそさ、エンジ。王家の血ってのは便利なもんさ。これが情報収集に強い武器にもなるんだよ。血筋をこんな風にうまく使えるのはこの国で俺しかいないんじゃないかな。ナシュカも頭はいいけど、王家のプライドが邪魔して清濁併せ持つってことできないと思うぜ」
「ナシュカ殿下か。冷酷と言われているが、そんなはずは無いのにな」
「ああ。あっ、でも、うちの馬鹿兄貴には今冷酷だけどさ」
「…………そうか」
カラカラと笑って見せるレフトンだが、心から笑っているわけではないとエンジは見抜いていた。側近として長い付き合いの彼はレフトンが兄に対して怒りを、弟に対しては寂しさを感じていると分かるのだ。
「(カーズ殿下のしでかしたことは男として許せない。ナシュカ殿下のことは周囲の評価が悲しい。そんなところだろうな。家族愛の深い自分が一番辛いだろうに)」
レフトンはエンジの悲しそうな目に気づいた。どうやら自分の本当の気持ちに気付いたと思って、すぐに話題を本題に変えた。
「ところで、あいつも呼んだんだけど、もう少し待ってくれねえか?」
「そんな質問をするな。待ってやるさ。だが、あいつは平民だぞ、いいのか?」
「ああ、平民とか貴族とかの身分なんて関係ねえ。俺の見立てだと、あいつはこれから活躍できる見込みがある。どんなときでもな。お前もそう思ってんだろ?」
「俺に質問しなくてもいいだろ。分かってることじゃないか」
二人の言う『あいつ』とは今近づいてきている少年のことを指していた。
「やあ、二人とも。遅くなってすまない」
やって来たのは見るからに騎士の格好をした少年だった。緑の髪の毛に黒目の少年。彼もレフトンの側近となっているライト・サイクロスだ。出自は平民だが学園の成績は高く、騎士志望でレフトンにも信頼されている。
「おお、そんなことはないさ。いい時間だぜ」
「ちょうど来る頃だと思っていたさ。」
「ありがとう。エンジに第二王子様」
ライトの『第二王子様』という言葉にレフトンは反応した。
「おいおい、そんなよそよそしい言い方すんなよ~。俺達仲間だろ~」
「ふふふ、ごめん」
レフトンはふざけてみせる。それをクスクスと笑うライト。王族と平民という身分の違いを感じさせないやり取りにエンジは微笑ましく感じるが複雑な気持ちも抱く。
「(レフトンは王族、つまりは貴族の頂点の血筋。それなのに平民のライトとこんなに気の合った関係を築ける。王族でそこまでできるのはお前くらいだぞレフトン。お前が王になってくれたらよかったのに。だが……)」
エンジは誰とでも分け隔てなく接するレフトンこそが王にふさわしいと思っている。だがその一方でレフトンの生き様にも納得してもいる。そのため複雑な気持ちを抱かずにはいられなかった。
「おーし、三人そろったし、そんじゃ乗り込もうぜ。ソノーザ公爵家へな」
「ああ」
「うん」
レフトンたち三人は馬車へと乗り込んだ。ソノーザ公爵家で情報を集めるために。ただ、
「(もっとも、情報集めだけじゃねえけどな……)」
レフトンには、他にもやっておきたいことがあったようだ。




