57.日記△〇年×〇月〇〇5日
―フィリップスの日記より―
△〇年×〇月〇〇5日
兄さんが結婚した。相手はネフーミ・ヴァン・ザイーダ侯爵令嬢だ。爵位が上の相手の御令嬢と結婚することができたというのだ。兄さん自身がいいコネクションを築き上げることができたのだ。
両親と妹は大喜びだったが私は違った。このままでは兄さんは調子に乗って私とイゴナもいいように利用してしまうだろう。そうなる前に先手を打って、イゴナを結婚させることにした。
実を言うと、イゴナはとある令息と付き合っている。イゴナとその相手は婚約者が決まっていないから、私は相手方の御両親を説得して何とかイゴナを婚約させてやれることになった。
「お前も分かってきたじゃないか。まさか、あのスミロード公爵令息にイゴナを嫁がせるなんて」
イゴナの婚約者はスミロード公爵の次男のシュラウ・ラウド・スミロード。嫡子ではないが公爵家の出自だ。これなら、いい家と縁を結びたがっている兄さんも文句は言えないはずだ。だが、
「爵位がうんと上の相手とイゴナを結び付けるとはな。やはり、お前は俺以上の才覚があるようだな。俺の立場を危ぶませるほどに」
その言葉を聞いて私は、自分自身が兄さんに脅威の芽として目をつけられたことを悟った。ただ、驚くことは無かった。何故なら前から覚悟したことだった。
私は学園でかなりの成績を収めている方だった。生徒会に入ることはしなかったが、代わりに風紀委員にすんなり入れた。風紀委員もハードルは高いのだが、兄さんのようなコネではなく自分の実力だけで入ることができたのだ。その時から、兄さんの嫉妬じみた目線を感じていた。次期当主の座を奪われる心配でもしたのだろう。私にはそんなつもりはないというのに……。
このままでは私の身も危ないだろう。名残惜しいが私は兄さんに消される前に、生まれ育ったソノーザ家から出て行こうと決めた。妹のイゴナは公爵子息と婚約しているからもう大丈夫だし、両親に関しては兄さんが危害を加える理由もないから心配ないだろう。私には婚約者も決まっていないし、風紀委員という立場からか親しい友人も少ない。私がいなくなって悲しむのはイゴナと両親だけだ。屋敷には置手紙でも置いていこう。
ソノーザ家から出た後は、どこか遠い町で平民として働いて暮らそう。そんな日が来ることを想定して平民の暮らしを積極的に学んでいるから、覚悟も準備もできている。名前も変えてやる。
……私がいなくなったら、兄さんは危険分子が消えて喜ぶだろうか。それとも、利用できる駒が減って憤るだろうか。どっちにしろ、私は兄さんの思い通りになるつもりはない。これ以上、兄さんに家族を蔑ろにしてほしくないから。




