51.日記〇〇年〇〇月30日
ーフィリップスの日記よりー
〇〇年〇〇月30日
昨日から兄さんは何か変だった。部屋に閉じこもってから何か考え事をしているようだった。聞こえてくるのは「王太子に取り入るには、」とか「公爵令息に取り入るには、」とか「侯爵令嬢をどうするか、」といった身分の上の人と関わろうという大それたことだった。
兄さんに悪いが、我が家は学生の兄さんの力だけでそう簡単に出世できるとは思えないのだ。入学前に父上から古いしきたりみたいなことを聞かされたが、あんな話は所詮昔の話に過ぎないと私は思う。
学園の表向きはうわべ? 学園で貴族の代理戦争? 私の友人たちや元貴族の家臣たちから今の貴族の世界を聞いてみたが、今の時代のウィンドウ王国では貴族同士の争いは激減しているようだった。新聞でも貴族同士のもめごとといえば婚約破棄とか悪役令嬢とかしか載ってない。今は穏やかな時代なのだ。
父上も余計なことを吹き込んでしまったと後悔しているのだろう。今の兄さんを見て大きく出れないのは負い目があるに違いない。もっとも、元から気が強い人ではなかったから仕方といえば仕方ないか。
だけど、兄さんのことは違うだろう。兄さんは学園に入学してから嫌なことが多くて苛々ばかりしていると言うのだ。もしかしたら、父上の話を聞いて学園生活に変な理想を抱いていたのかもしれない。
そして、自分の理想と現実の学園の姿を知って落胆した。そう考えられなくもない。下手すると登校拒否なんてことも? そうならないことを願うしかない。
しかし、それは杞憂に終わった。夕方になって部屋から出てきた兄さんは家族みんなに宣言した。
「父上、母上、フィリップス、イゴナ。俺は明後日から初心に戻って学園に臨む。今まで冷たく当たってすまなかった。これから心を入れ替えていくから許してくれ」
「「「「っ!?」」」」
なんということだ。あの兄さんが家族みんなに謝ったのだ。これには私達は驚いたが、兄さんが謝罪して心を入れ替えると言って私達は嬉しかった。
「ベーリュ、お前がそんなことを言うなんて成長したな」
「偉いわ。ベーリュ」
「気にしてないです、兄さま」
「兄さん、考え直してくれたんだね」
ただ、どう心を入れ替えるのかは気になったけど。特にそのギラギラとした不敵な笑みは嫌な予感がするからやめてほしい。




