5.待遇の差?
どういうことなのか、誰の差し金かは言うまでもない。ワカナだ。
「あんな若い執事が専属使用人だとでもいうのか! 優秀だという保証はあるのか? 顔で決めたんだろうが、間違いが起きたらどうするんだ! 貴族の娘なんだぞ、ワカナは!」
「だって……雇う人はあれがいい、これがいいって言うから……」
「顔がいい男を侍らしおって、愛人のつもりか! 万が一、若い執事との間に子でもできてみろ! 社交界でとんだ醜聞になるわ! 私が雇った執事たちまでも解雇しおって、優秀で信用できる者達だったというのに
、くそぅ……!」
ベーリュは屋敷の使用人を慎重に選んでいた。家のためにと顔などではなく評判と実績で選んだのに、そのほとんどが自分の娘の我儘のせいで解雇となっていた。自分のささやかな努力が無駄にされたことに怒りと悔しさが湧き起こる。
「ドレスや菓子だけでなく使用人にまで口を挟むとは、とんでもない女に育ててくれたものだな!」
「とんでもないって、そんな……。あなただってワカナが可愛かったでしょう! サエナリアよりも可愛らしいって!」
「限度というものがあるわ! 大体、何でワカナの部屋が三部屋もあるのだ!」
ここに来るまでワカナの部屋を通り過ぎたが、何故か三部屋も用意されると聞いた。その三部屋の先にサエナリアの部屋があるというのだ。待遇の差がまるわかりだ。
「持ってるドレスの数が多くて……余ってる部屋があったから……」
「そんな理由でか!? 持ってるドレスが多いなら捨てるか売れ! いらないドレスくらい処分しろ!」
「あの子が処分したがらないのよ! それに貰い物もいっぱいあるから……」
「三部屋の用意してるなら必要のない物などあるに決まってるだろ! そもそもサエナリアも何故簡単に譲ってしまうんだ!?」
「あ、あの子は……姉だから……」
夫の怒りを見て、ネフーミは言いづらくて仕方がなかった。自分がいつもサエナリアに「お姉ちゃん何だから可愛い妹に譲ってあげなさい!」などと注意してきたことを。今になってそれが悪い結果をもたらしたことに気付いてしまったのだ。
「ちっ! サエナリアの部屋に入るぞ」
ベーリュはサエナリアの部屋に入るためにドアノブに手をかけて……そこで動きを止めた。
「(……覚悟せねばなるまいな)」
ここでも嫌な予感がよぎって緊張してきたのだ。妹とこんなに待遇の差があるということは姉の部屋は……想像つかない。妹と差があることを考えれば、酷い部屋になっている可能性が高い。
(扉だけでこれだからな)
ワカナの部屋の扉は貴族とは思えないような飾りをつけていた。例えるなら庶民の子供部屋だ。部屋の中も言葉にできないようなワカナの趣味満載だった。それに対してサエナリアの部屋の扉は飾りなどないし奇麗に掃除されているようだった。ただ、部屋の中はどうだろう。荒れた部屋なのか、汚い部屋なのか、何もない部屋なのかは分からない。しかし、それでもベーリュは父として状況を打開するためには知らなければならない。