34(12裏側).トイレ
泣きそうな顔で叫ぶワカナ。自棄になってしまったが、ここで思わぬ助太刀が入ってしまった。
「ワカナ!? どうしたというの、そんなに喚くなんて!?」
「!?」
ノックとともに部屋の外から母親のネフーミの声が聞こえてきた。ワカナは知らなかっただろうが、ネフーミは夫のベーリュに、ワカナの部屋に近づくことを禁じられていたにもかかわらず、ワカナが心配になって様子を見に来ていたのだ。
「(チャンスだわ!)お母様、お願いします。どうかわたしを部屋から出してください!」
「ええ? でも……」
ネフーミは、今日の出来事をきっかけに『もうワカナをあまり甘やかさない』と誓っていた。それだけではない。夫のベーリュにも『これ以上ワカナを甘やかすな』と念を押されていた。ここでワカナを部屋から解放することは、
「(これ以上ワカナを甘やかすのは夫と自分自身への裏切りを意味する。それだけは……)ワカナ、今大事な時なの。お客様が来てくださってるの。だから部屋の中でじっとしててね。お願い」
王太子が来ているということがどれだけ重要かはネフーミも理解できる。二十歳にもならない令嬢の出る幕はないのだ。だから、この場は心を鬼にすることができた。
だが、
「トイレ!」
「え?」
「漏れそうだからトイレに行きたいの! お願いだから開けてよ~!」
「!」
ネフーミはその瞬間、何も言わずにドアを開けてしまった。「トイレなら仕方ないか」などと思ってしまったからだ。貴族令嬢が自室で漏らすなどみっともないにもほどがある。だから開けてしまった。
「やったー! ありがとうお母様!(チョロい!)」
ワカナはドアが開いた瞬間、驚く速さで部屋から飛び出した。しかも笑顔で。そしてそのままトイレ……ではなく別方向に向かっていった。
「ワ、ワカナ? トイレはそっちじゃ……はっ!?」
トイレに向かわないワカナの動きを見てネフーミは悪い予感がした。
「(漏れそうなのにトイレに向かわないし、あの笑顔は……!)」
ネフーミが見たワカナの笑顔は見たこともないほど悪そうな顔をしていた。唇の端が限界まで吊り上がり、目はギラギラして見えていた。正直怖い。
「あ、あの子、これ以上やらかさないわよね!? 誰か、ワカナを連れ戻して!」
ネフーミは祈るような思いで使用人たちにワカナを部屋に戻すように指示した。だが、ワカナが見つかった時には既に遅かった。残念ながら悪い予感が最悪の形で的中することになったのだ。




