29.説得?
しばらくして、カーズたちはサエナリアの部屋から出た。そして、その後すぐにベーリュに見つかった。
「で、殿下!? まだいらしたのですか!? お帰りになったはずでは!?(まだいたのか!)」
何とか立ち直ったベーリュがまた驚くのも無理はない。すでに帰ったと思った王太子が物置……娘の部屋から出てきたのだ。
「ああ、サエナリアの部屋に興味を持ってな。見させてもらったよ、公爵」
「なっ!?(ええー!?)」
それを聞いてベーリュは顔を真っ青に変えた。サエナリアの部屋がどんなところなのか知られてしまったというわけだ。これで弱みがまた知られてしまった。
「な、なんという……あっ! お前はサエナリアの侍女じゃないか! お前が殿下を勝手に入れたのか!?」
カーズの傍にいる侍女の姿を目にしたベーリュは、問い詰めようとするが、カーズが遮って代わりに答えた。
「違うよ公爵、この私から彼女に無理を言って頼んだのだ。公爵家につかえる侍女が王太子である私に逆らえるはずがなかろう。そうだね?」
カーズは侍女ミルナに向かって笑顔を向ける。実際は逆なのだが、正直に話せばベーリュが許さないと考えてカーズたちは示し合わすことにしたのだ。『侍女が王太子を案内した』のではなく『王太子が侍女に案内させた』というように。
「その通りです旦那様。王太子殿下が直々に頼み込まれたのです。公爵家につかえる侍女ごときが、殿下の頼みを無下にすれば公爵家の名に傷がつきます」
「くっ……!」
淡々とする侍女の言っていることは正しいため、ベーリュは咎めることができず歯噛みするしかない。そんなベーリュに対してカーズは怒りも冷めて落ち着いていた。
「公爵、今度こそ私は王宮に戻る。今一度言うが、私が知ったことの全てを間違いなく報告させてもらう。取り調べが始まるまで、サエナリアの部屋はそのままにしていてもらうからな」
「は、はい……(娘の部屋を見られたか。くそっ)」
「サエナリアの部屋。そこから手掛かりになりそうなものも見つけられたんだ。変に動かされても困るからな」
「え!? さ、さようですか……(先を越された!)。手掛かりとは?」
「サエナリアの部屋はこの屋敷にあるんだぞ? この場で話す必要はあるまい。自分で探せ」
「そうですか……」
ミルナの危惧していた通り、ベーリュはサエナリアの部屋を処分するつもりでいた。しかし、カーズに見られて『そのままにしろ』と言われた以上、処分はできなくなった。手掛かりも気になる。
「次に会うときはいつになるか楽しみだな」
それだけ言って、カーズたちは屋敷を後にした。残されたベーリュは立ち尽くして呆然とするが、いつまでもそうしてはいられない。
「……こうなっては致し方ない。王家よりも先にサエナリアを探し出すまでだ」
ベーリュは側近の執事を呼んで、再びサエナリアの捜索の準備を始めた。誰よりも早く先にサエナリアを見つけ出して、都合のいいように説得し、全ての責任を押し付けるために。
◇
帰りの馬車の中で、カーズはこれからのことを考える。サエナリアの部屋から持ってきた手掛かりを眺めながら。
「何としてもソノーザ公爵家よりも先に、王家がサエナリアを保護しなければな。そのためにもこれを持ってきたのだ」
カーズはソノーザ公爵家が許せなかった。だが、サエナリアは別だ。彼女は何も悪くはない。自分の妻になるべき人だと信じ込むようになっていた。そのためなら何もしてもいい、カーズの頭はそんな都合のいい考え方になっていた。
「まずは、父上と母上を説得しなければな」
こうして、王家と公爵家の公爵令嬢大捜索が始まるのであった。




