12.慕う?
そう言うとカーズはうなだれた。どうやら心の底から後悔しているようだった。だが、サエナリアがそんな仕打ちを受けたと知ったベーリュは同情できない。むしろ当然のように怒りが込み上げてくるのだった。父親としてなら、流石に怒りを示してもいいと打算した。
「………当然ですな。自分の婚約者が浮気をしていた挙げ句、その婚約者に罵られたのですからな!(よし、この流れならこちらのペースに持ってこれる)」
ベーリュは今の話に乗っかれば、カーズを追い返せると思い、あえて厳しく接することにした。今のカーズは見るからに罪悪感がある。そこに付け込めばうまく丸め込めるはずだと思ったのだ。
「王太子殿下、サエナリアとその御令嬢の間に苛めがあったのは初耳ですが、たとえこちらに非があったとしても、」
「違うんだ公爵! ……そこが違っていたのだ」
「は?」
怒気を少し強めたベーリュの言葉をカーズは遮った。王太子のその顔は見たこともないほど悲しそうだった。
「サエナリアが走り去った後、我に返ったマリナが私に向かって怒りを露にしたんだ。……サエナリアのために私に怒ったんだ。目に涙をためて『なんてひどいことをおっしゃるんですか!』『そんな人だとは思いませんでした!』などと、そう言われてしまったよ」
「ど、どう言うことですかな?」
「マリナはサエナリアを慕っていたんだ」
「はい?」
浮気相手マリナが苛めてきた婚約者サエナリアを慕う。それはどういうことなのだろう?
「……サエナリアはマリナを苛めてなどいなかったんだ! 最初だけは厳しく注意されたらしいが、その後からは私とマリナの関係を認めるようになってくれていたというんだ。しかも、マリナが私にふさわしい女性になれるように助言までしていたらしい。……二人は友達だったんだ」
「な、何ですと!? (馬鹿などういうことだ!?)」
ベーリュは訳がわからなかった。つまりカーズの話のよると、サエナリアは婚約者と浮気相手の恋愛を応援していたというのだ。しかも友人として。婚約者を差し置いて優しくされる女性など、貴族なら普通なら怒ることであり、本当に苛めがあってもおかしくないはずだ。なのに何故?
「な、何故、我が娘が、そんなことを? 自分の婚約者を差し出すなんてことを?(何が、どういうことだ?)」
娘の行動が理解できなくて、目に見える形で動揺するしかないベーリュだったが、そんな公爵の前でカーズは寂しそうに語った。
「ふっ、マリナが彼女から聞いた話だと、私との婚約は『親が勝手に決めた愛の無いものだから気にしない』のだとさ。『婚約破棄したくても王家が関わっているから無下に出来なかった』などと口にしていたらしい」
「そんな、あの娘がそんなことを………?(サエナリアは、気乗りではなかったのか? 王家に嫁ぐんだぞ!)」
「残念なことに、私は彼女のお気に召す男ではなかったということだ。………言われてみればその通りだ。私は婚約者がいながら他の女に入れ込むような男なのだから当然だな。最初の頃は私も婚約のことは特に問題ないと思ったのだがな。結果はこの通りだ」
「…………っ!」
ベーリュは信じられないことだと思った。目の前にいるカーズはかなりの美男子で、女性の人気は圧倒的だったはずだ。それほどの男なのにサエナリアは好まなかったというのだろうか。




