無題 どこにでもあるありふれたクリスマスプレゼント
暖房が効きすぎて暑いと思ってしまう室内。ふとリモコンを見てみれば、設定温度は28度。
当たり前のように暑いだろうと思う温度に、視線は寝室へと向かう。
私の彼氏だ。
昨日の夜、プレゼントのために私が寝るのを待っている、変なところでかっこいい、今ではぐっすりで、少し抜けてるような、私の彼氏だ。
このまま温度を下げてもいいけれど、それだと時間がかかっちゃうだろう。
ならば、ということで私はベランダに足を出した。
「ちょっと冷えちゃうかな?」
無意識に独り言が出れば、両腕が身体を抱える。
肌寒い風が、体を拭う。
後で汗とか流さないとなぁ。
なんてことを考えれば、口から白磁の息が漏れ出した。
なんて言ったって、今日はクリスマスでーー。
「風邪、引いちゃうよ」
後ろを振り返れば、さっきまで寝ていた彼がいた。
もしかしたら、起こしてしまったのかもしれない。
「うん。すぐ戻ろうかなって思ってたから。大丈」
すると、突然と声を遮るように。
優しい匂いと、心地のいい暖かさに包まれる。
「大丈夫じゃないでしょ。こんなに冷えちゃってるし」
抱きしめられた。
いわゆる『あすなろ抱き』というものだ。
耳元から鼻腔に誘う匂いが、どこか体の自由を拘束するようで。
耳にかかる吐息と共に落ち着いた声が、どこか体の緊張を解すようで。
「クリスマスプレゼント、気に入ってくれた?」
「うん。すごく気に入ってる。だって念願だったもん」
自然と目は細まり、後ろから回してくる手に自分の手を掛けてしまう。
舞い上がるほどに嬉しいプレゼントは、彼と、私の指に嵌ってて。
「まだちょっと、足りない気分かもね」
「それって、ドレス?」
「ううん。もっと簡単で、もっと、ドキドキするやつ」
自分で言ってながらも、少し意地悪な言い方だろう。
でも、わたしから言うのは恥ずかしいから。
きっと、彼はわかってくれるだろうから。
「こっち、向いて?」
彼の指が優しく顎に触れ、誘われるままに首を動かして。
覗き込むように見てくる彼と目があえば、微笑んでくる表情に、目を閉じた。
「ーーっ」
そっと、唇が触れる。
それだけのキスだ。
それだけで、すごく嬉しくなって。
「好きだよ」
「私も。愛してますっ」
そっと、抱き合う二人の指には、お揃いの指輪が着けられていた......。