第99話 一方ともう一方
結構間が空いてしまいました。ま、忙しかったという事で(笑)
―新田side―
拝啓 新田明里殿 赤坂唯一殿
だんだんと秋の寒さが近づいてくるこの頃、皆様におかれましてはご健勝のことと存じます。ま、王国の王城勤めのメイドと執事が世話してくれてっからどうせ苦労してねーんだろ。ハッ、良いよな、俺もそんなVIP待遇受けてみてーよ。
さて、私、大川がシュベルツィアを発ってから……えーと、うん。数か月が経ちました。
現在私は、新領最北端ノースフリードに居ます。おそらく、この手紙が届く頃には違う地へと旅立っていると思うので、返信は不要です。
こっちは元気にやっています。美味しいコメも食べたし。油淋鶏も食べたし。美味しかったよ。ああ、コメはモチにしたり干し魚と一緒に食べた。
これから俺はルーマー族という戦闘民族に会いに行きます。帰るまでにあと2か月くらいかかると思いますが、それまで生きてろよ
敬具
「…………」
「俺、ちょっと剣持ってくる」
今朝。メイドさんが持ってきてくれた手紙……それは確かに大川先輩が書いたであろう手紙であった。
そこには、「俺すっげぇ楽しんでるぜ!悪かったなこんなに楽しんでて(煽り)」という内容だったのだ。
「これ、本当に先輩が書いた手紙なの……」
でも、それにしてはやっていることが具体的に書かれている。油淋鶏って書いてあるし偽装じゃないと思うけど。
「よし、今から先輩を斬りに行く」
「ま、まあまあ!」
私と一緒に手紙を読んでいた赤坂は憤慨して剣を持ってきてすぐにでも先輩を斬り殺しに行こうとしている。この赤坂を怒らせるとか……先輩煽りスキル高すぎでしょ。
ま、まあうん。私も出来るなら先輩の頭上に上級魔法撃ち込みたいんだ。でもね、うん。そのね……我慢してるんだ!
「でも突然連絡してきてこれはなぁ」
「ちょっと頭のネジ飛んだのかな?」
もしくは深夜テンションで書いたとか? 時間がなかったとか。色々考えられるなぁ……。でもやっぱ帰ってきたら一回爆発魔法に巻き込むのは決定ね。私たちに軟禁生活(なかなか快適)を過ごさせているのに自分だけ外で楽しんでるとかズルい。
そんな殺意を持った私たちが殺気を家で振りまいて戦闘メイドではないメイドさん方を怯えさせているころ、先輩はというとーー
〇 〇 〇 ―大川side―
ユエルを購入して早1週間。面倒くさくて適当に書いた手紙は既に騎士団に出して届けてもらっているはずだ、隠密工作をして直接届けられる手はずになっているから今頃届いてるんじゃないかなー……。内容は、うん思い出せない。確か「こっちは楽しくやってるから気にすんな」って書いたと思うけど。
とにかく、旅の同行者(護衛した商人以来)が出来て俺が昼寝にも使った馬車に乗客がもう1名増えた。
鎧などを運搬していたスペースが空いたため2人でも十分にゆったりできるスペースがあり、御者をしないときは昼寝も出来る。
人間が1人増えたことなんて気にしない顔面スターズは今日も元気に快走を続ける。これだけ走っていてケガ一つしないのは流石ペガソスの血筋と言ったところか。
どうやらユエルの居た里までは遠いらしい。具体的には、新領中部の海側の街の近くのようだ。なので調査依頼を進めながら里へ向かうこととする。
そして今日は次の街へ移動するために泊まった村を出発するのだが……。
「オラオラ! 馬と馬車と商品と女は全部おいていきな!」
「あとお前の命もなぁ!」
「ヒャハハ !ここ張ってからこれで5連続ヒットじゃねーか!」
周りを山賊に囲まれてしまいました。なんということでしょう。
いかにも某世紀末に居そうなモヒカンカットの山賊が30人ほど群がっている。どうやらこの道の両側で待ち伏せをしていたらしい。
「不味いな……」
腕には自信があるが、ユエルを守りながらというのは少し酷だ。俺アーチャーだし。短剣使えるけどその間にユエルを人質に取られたら何もできない。
「おお? こいつ怯えてるぞ!」
「だらしねぇなぁおい!」
「…………」
なんかいい感じの挑発がこっちに飛んでくるがそんなのは無視だ無視!ここで熱くなったらあっちの思い通りだ。
そんなことを考えながら突っ立っていると、横からユエルが教えたハンドサインを出しているのを細くできた。
『ここは私が』
『いや……でもチョーカーが』
ユエルのチョーカーは外れていない……というか外せなかった。既存の鍵では何かにはじかれて外せなかったのだ。ユエルが言っていた、その謎生物(多分人間か悪魔)が何か細工をしたんだろう。
俺はそれを見ながらハンドサインを出して会話する。
『短剣を貸していただければ大丈夫です。あんなの身体強化なしで行けます』
『いや、相手も結構強そうだけど……見た目は世紀末モブだけど』
『私を信じてください』
そこまで言うなら……と俺は腰のさやから短剣を2本出してユエルに渡す。俺はさっさと馬車に戻り弓矢を引っ張り出してくる。
「ああん? やんのかオラァ!」
「女に前衛任せるとか、情けねぇ奴だなぁ!」
「ヒャハハ、一人素人が増えても俺たちが負けることはな……い?」
よく喋る4人のうちの4人目のセリフが終わる前に、ユエルは既に動き出して目の前の1人の胴を短剣で貫いているところだった。
「こ、この女早ぇぞ!」
「テメェ、やりやがったな!」
「囲め囲め! 物量で黙らせろ!」
モヒカン30人がどんどんとユエルに集中し始める。まるで人間の女に群がるゴブリンのようだ。俺への注目がなくなったため、素直に気配を消して近くの森に侵入。木の上に昇り囲んでいる奴らを狙う。
ユエルはモヒカン包囲陣の中央で見事な立ち回りを見せていた。同時に3方向から迫ってくる敵の1人目をかわして、2人目の顔面を蹴って壁キック、3人目に刃を振り下ろしている。すげぇ……。
「おっと、こっちもこうしちゃいられない」
支援することをすっかり忘れていた俺は落ち着いて弓に矢をつがえて、今にもユエルにとびかかろうとした山賊を狙い撃つ。
……が、なんというべきか。風の壁のようなものに阻まれて矢はバラバラに。これは風の結界だ。ということはどっかに魔導士がいるのか。
「ユエルはまだまだ大丈夫そうだから俺はその魔導士を探すか」
木を降りた俺は予備のナイフを持って森を走り始める。
〇 〇 〇
魔法が使えそうなやつが包囲網に居なかったのでそこら辺に居るんじゃないかと思い森の中を散策すること5分。いまだに見つかっていない。
むしろユエルの攻撃が加速して包囲網が薄れてきている。
……これ、最初から俺は要らなかったんじゃ。
い、いや。まだわかんないぞ、うん……やっぱ要らないよな俺。
とか言いながらも空間把握能力(仮)を発動させて周囲を探索していく。
「……どこだ?」
探しても一向に見つからない。もしかして俺の空間把握能力(仮)が鈍った?
なんて思ったその時……俺の横を氷の弓が通り抜ける。【アイスアロー】の矢は着弾した木をアイスにしてしまう。結構な威力だ。
「……」
『わが力よ、願いに応じ氷の矢を作り出せ【アイスアロー】』
『わが力よ、願いに応じ炎の矢を作り出せ【ファイアーアロー】』
『わが力よ、願いに応じ岩で敵を圧し潰せ【フォールストーン】』
『わが力よ、願いに応じ風の力で攻撃を守れ【ウインドカーテン】』
気付いた時には、4方向を4人の魔導士で固められていた。1人は背後に、先ほどの【アイスアロー】を放ったヤツ、右斜め65度に1人、こちらは火属性使い。その対岸に今にも岩を振り落とさんとする者が1名。そして一番遠いところに居て、あまり気配が掴めないのが1名。あれが風の結界を作り出しているようだ。
風の結界が物理攻撃も遮断するかどうかいまいちわからないな……。しょうがない、とりあえず攻撃してみるか。
という考えは3方向からの攻撃が始まってさえぎられた。真上と斜め65度と真後ろからの攻撃を、俺は飛んできた【ファイアーアロー】に突っ込み、短剣ではじいて残りの2つもかわす。
「「「「避けた!?」」」」
息を合わせたように驚きの声を出す魔導士4人組。そんなことはお構いなく俺は【ファイアーアロー】を放った魔導士に接近してわき腹に一閃。
「セ、セカンドがやられたぞ!」
「サード、フォース、結界を作るまでの時間を稼げ!」
「わかっている!」
「さっさとしろ!」
さっきまで気配すら感じなかったのに、急に騒がしくなる包囲網。完璧な暗殺鬼のような第一印象が次の瞬間には慌てふためくアホな暗殺者に早変わりだ。
「よくもセカンドを! 【アイスアロー】」
「これで時間を稼ぐ! 【サンドブレス】!」
今度は砂嵐と氷の矢が飛んでくる。視界が悪くなっている場所にわざわざ突っ込むバカはいない……と思わせての砂嵐の内部に突入。
そして、俺は旅の最初に渡されていた魔道具を使う。
「【チェンジマテリアル】ッ!」
魔力の籠った石……魔石から吸収した魔力で俺は魔法を作り出し、使用する。かなりの魔力が使われたが問題ない。
この魔石は特殊で、籠っている魔力を引き出して魔法を行使できる代物なのだ。これも王国の秘密兵器だそうで、実験的に使ってくれというモノらしい。カエデから教えてもらっていた。つまり魔力が空でもこれを使えば俺は魔法を使えるというわけで、
【チェンジマテリアル】を何に使ったかというと、ハンドガン。ステフ式バズーカと同じ原理のそれと弾を50発作り出してすぐに【アイスアロー】を迎撃&それを放った魔導士を狙撃する。
「ぐああ!」
「フォース!?」
「なんだ、どうやって!」
見たこともない方法でやられたフォースを見てさらに混乱するサードとファースト。流石にこれは大川だとバレかねない……土属性魔法という事にしておこう。
砂嵐が過ぎたとき、俺はさっさとサードに急接近して笠懸にして、倒れるサードを足場に木の上に昇る。
「クソッ! なにをやってるんだ本隊は! こんなクッソ強いのを引き当てて!」
本隊のミスにするファースト。情けない……そうは思いながらも俺は猿のように木から木へ、枝から枝へと飛び移ってファーストへの攻撃機会を伺う。
「こっちに来るなァァァ! 【ウインドカッター】!」
「はいはい、そっちじゃねーよ」
俺が先ほど居た場所を風の刃が通り過ぎる。しかし俺はそんなところにはいない、単純に次の枝に飛び移ったのだ。
「クソッ! なんで当たらねぇ!」
「単純すぎるんだよ……」
どうやらこいつら、4人で1チームで誰か欠けたら本領が出来ないタイプらしい。つまりさっさとセカンドを倒した時点で俺の勝ちだったようだ。
「よくも俺の兄弟をやてくれたなぁぁぁ!」
「……」
どんどん熱くなって魔法を使ってくるファースト。しかし全部見当違いの方向へ飛んでいっている。
あ、もういいや面倒くさくなった。
「クソ! どこ行った!」
「こっちだけど」
真後ろに回っていた俺が木の上から飛び蹴りをかます。その一撃は相手の背骨にクリーンヒットし、俺はうまく受け身をして衝撃から逃れる。
「よいしょ!」
飛び蹴りをもろに喰らってゴロゴロ転がっていくファーストに先回りして、さらに背負い投げをする。そこから相手の背中に乗り……。
「おい、お前らのアジトはどこだ」
「は……はぁ?」
「だから、アジトはどこだ」
「そ、そんなの教えるわけが……」
ほほう? こいつ生意気だな。それじゃあこうしてやろう。
俺はやはりモヒカンだったファーストの残り少ない髪の毛を引っ張り、人間でアルファベットのCを描こうとする。
「うがあああああ!?」
「言う気になったかな?」
「うぐぐぐぐ……」
「まだいう気にならないか。じゃあ次は……」
「あ、あああああああ! お助けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
それから30分、森の中には男1名の悲鳴が響き渡り、その後近所のアジト1つが破壊されたという。